高吸水性樹脂製品とその工業会活動の取組み

著者: 奥村 勝  /  講演者: 岩田 将和 /  講演日: 2019年7月20日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2019年11月27日

 

三組織(環境研究会・繊維部会・化学部会)合同講演会

日 時:7月20日  13:3016:30
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演1「高吸水性樹脂製品とその工業会活動の取組み」

講師;岩田 将和 氏
 吸水性樹脂工業会技術委員長代理 SPDグローバル株式会社TQC部長

1.高吸水性樹脂とは

高吸水性樹脂(SAP)は、①数百倍~千倍の水を吸収するが、本質的に水不溶性である、②吸収された水は、多少の圧力を加えても離水しない、③水溶性高分子が適度に架橋された3次元網目構造と定義される。一般的なSAPはアクリル酸部分ナトリウム塩(図1)からなる樹脂である。SAPは浸透圧の原理で水を吸収し、3次元網目内に水素結合等により水を閉じこめる。多少の圧力を加えても離水しない。吸収力は、ポリマーに固定されたイオン等の浸透圧、水とポリマーの親和力およびポリマーの架橋密度により決まる。また、自重の数百倍以上の水を吸収し、SAPとして機能できる架橋密度にするための架橋材料比率は狭く、ある一定量でピーク値が存在する。高吸水性樹脂は、サニタリー・メディカル分野から土木・建築・農業分野、エレクトロニクス分野まで幅広く使用されている。

     図1:高吸水性樹脂の化学構造式

2.吸水性樹脂工業会

吸水性樹脂工業会(JASPIA)は、日本での高吸水性樹脂製造業の健全なる発展とSAPによる社会貢献の推進を目的に1995年に設立された。主な活動は、品質性能や各種試験方法等の規格化・標準化、自然環境への十分な配慮、PL法、レスポンシブル・ケア(RC)活動に対するきめ細かな対応、各種関連団体との連携による活動目的の推進であり、図2に活動内を示す。会員は、株式会社日本触媒、SDPグローバル株式会社等の5社、協力関連団体は、日本衛生材料工業連合会(日衛連)等の5団体である。

    図2: 吸水性樹脂工業会の活動

3.高吸水性樹脂取扱い作業者の安全

SAPを充填したり、開封したりする際に粉じんの汚染が起こるため、作業環境を評価し作業者の安全を確保する必要がある。JASPIAは、アジア吸水性樹脂工業会、日衛連と協力して作業環境の改善を提言している。具体的には粉じん収集装置を装着して作業を行い、作業後に捕集された粉じんを回収する。回収した粉じん中のナトリウムを定量してSAPの濃度を計算し作業環境を評価する。2010年~2017年間の測定結果は、平均値で管理基準50/㎥を下回っている。ただし、最高値でみると管理基準を超える箇所が散見されるため、注意喚起を行っている。粉じんの測定法は、ISO17191(2004 )によって規定されていたが、不明確な点を改正してJIS化し制定(JIS K0307-2008)した。主な改正点は、粉じんのサンプリングを個人ばく露量で測定、微量測定のため、測定装置の仕様規定、ブランクの規定である。

4.高吸水性樹脂の性能と安全性の向上

(1)紙おむつの発展と高吸水性樹脂の特性

1970年代の紙おむつは、尿を吸収する、漏れないという要求から始まり、夜間の長時間使用、装着違和感が少ない薄型、最近は清潔・消臭等、原材料の安全性等の多様化した性能が求められている。SAPは、吸収性能(吸収量、加圧下吸収量、吸収速度)、粉体特性(粒度分布、かさ比重、フローレート)、安全性(pH、残存モノマー、重金属)、抗菌性の性能・機能が求められている。

(2)高吸水性樹脂の品質JIS S 0251の制定

SAPの品質項目を表1に示す(詳細割愛)。

   表1 高吸水性樹脂の品質

(3)抗菌製品試験法

テキスト ボックス: 表2 生物学的試験および規格近年、日本では抗菌製品が広く使用されている。抗菌性とは菌を殺すことではなく、菌の増殖を抑えることをいう。抗菌加工とは菌の増殖を抑えることを目的とした加工をいう。日衛連の抗菌自主基準はJIS L1902に基づき評価している。JIS L1902は、繊維製品を対象とした測定方法であり、SAPにそのまま適用することができないため、JASPIAは日衛連と共同で、尿を吸収した状態での吸水性評価の抗菌試験方法を開発している。具体的な試験方法は、SAPに菌体を含む人工尿を加えて18時間培養(36℃±2℃)し、培養後にろ過して培地に培養して菌数を数える。抗菌活性値は、18時間培養後の試験試料と比較試料の菌数の差の対数値、抗菌効果は、抗菌活性値が2.0以上(菌の増殖が1/100以下)としている。なお、試験菌は、大腸菌と黄色ブドウ球菌を使用する。

(4)吸水性樹脂工業会自主規格

この自主規格は、1998年に制定、2008年に改訂されている。材料レベルでの安全性は、物理的化学的試験はJIS 50251で規格化されている。生物学的試験は、経口急性毒性試験、一次皮膚刺激性試験、接触感作性試験等6項目がある(表2参照)。紙おむつ製品ではこの6項目の試験を実施し生物学的反応がないことを確認している。

SAPの機能向上のため様々な添加剤や副原料が使用されるようになっている、添加剤等そのものの安全を確認する必要があり改訂をした。

   表2 生物学的試験および規格 

Q&A

Q 赤ちゃんの尿を吸収する場合、紙おむつの吸水性が落ち、尿成分が残ることはないか。

A 水が吸収されれば、選択的に尿が残ることはない。

Q 最近、 ESG 投資が言われているが、業界全体としてどのような取組みをされているか。

A 環境面への取組みとして紙おむつを直接下水道に流せないかの研究等がある。研究自体は企業が実施しており、工業会は要請があれば、それを支援する。

Q 高吸水性樹脂を取り扱う作業者の安全面より、粉じん管理濃度 50 ㎍ ㎥、吸水性樹脂の品質で残留モノマー 1000 mg/kg とあるが、その 根拠は。

A 粉じんについては、人の肺を考慮して粉じん量を規定している。ラット実験の作用量からドイツ MAK 委員会のデータから決めている。
残留モノマーの品質規格にあるアクリル酸濃度であれば、人への影響はないと考えられるが、具体的な有害性については専門家でないからわからない。

Q 三洋化成が開発していた、でんぷん系の吸水性樹脂は現在どのようになっているか。

SPD ではアクリル酸系の吸水性樹脂しか生産していない。三洋化成ではでんぷん系を少量だが生産している。

Q 使用済み紙おむつはどのように処 理されているのか。

A 現状は、廃棄物として焼却処理されている。エコの観点から吸水性樹脂をリサイクルすべく、おむつメーカーで検討されている。

Q 残留性モノマーの定量評価はどのようにされているのか。

A 内部標準法で校正して定量化し評価している。

Q 安全性評価での粉じんの粒径、形状(結晶)はどのようなものか。

A 粉じん収集の装置にフィルターを付けることで 10μm を超える粒径を除去した粉じんを対象にして評価している( JIS K307 による)。粉じんの形状までは確認していない。

Q 残留モノマーにつ いて、生理食塩水を用いる理由は。アルコールまたはエステルはどうか。

A 紙おむつ用途を想定し、生理食塩水を使用して評価している。アクリル酸は水と任意の比率で混和するので、本測定法において抽出効率も問題ないと考えられる。アルコール、他の有機溶剤を用いた測定データは持ち合わせていない。

伊藤雄二座長(化学部会長)コメント

10年前は吸水性樹脂工業会の初代技術委員長をした。その時点で経験したことをお話しする。

1.使用済吸水性樹脂を焼却する場合、化学式から水、炭酸ガスとソーダ灰になると説明した。

2.一般家庭ごみの焼却炉にて燃え残る問題は、ポリ袋などの廃樹脂を加えるなどして焼却現場で改善できた事例があった。これは、含水分の燃焼熱不足に起因すると説明した。

3.粉じんの毒性は、一般化学物質と同等の毒性学的傾向を示したことから、許容濃度を定めることになった。 許容濃度を順守すれば安全という意味には受け取らないでください。 あくまで工場 管理上の 作業環境 管理基準であり、平均的なレベルでの作業者の健康を担保している。この場での発表はないが、SAPを取扱う全ての工場管理上での取扱安全指針を国際的な工業会全体で取り決めている。その取扱安全指針に、許容濃度の設定に加えて、個々の作業者での健康確担保のため、産業医への協力要請を定めている。

4.残モノのアクリル酸はpH7に中和されており、アクリル酸ナトリウム化合物に変換されて いる。別途、この無害性は確認をしている。だが、万一、アクリル酸として全量放出がされるケースを考慮して、 濃度0.1%以下にては安全性に問題は起きないことを確認の上で、 自主規制をしている。

 (文責 奥村 勝、監修 岩田将和)