地磁気の逆転と地球環境変動

著者: 寺川 博也、藤井 武  /  講演者: 兵藤 政幸 /  講演日: 2019年11月14日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2020年02月18日

 

環境研究会 第92回特別講演会

日 時:20191114日  18:3020:30
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール

演題:地磁気の逆転と地球環境変動

講師;兵頭政幸 神戸大学教授 (学術博士)
    内海域環境教育研究センター 兼 理学研究科惑星学専攻 

今回ご講演をいただいた兵頭政幸教授は、260万年前から現在に至る”第四紀”を対象に、地磁気と気候の関係を研究してこられました。その成果を応用して人類学や考古学にも貢献しておられます。地球環境が太陽活動、宇宙線、地磁気の影響を受けどのように変化してきたかなど、我々が普段考えない大きなスケールの研究です。

   

我々は地磁気によって磁針の針のN極は北にS極は南に向くと信じていますが、過去N極が南にS極が北に向く地磁気の逆転が何度も起こったことを地層の磁化から証明し、この地磁気逆転と同時に地球の気候が大きく変わったという内容でした。

   

この地磁気逆転の発見には日本人の松山基範の、昭和初期の研究が大きく貢献しています。その功績により地磁気極性の年表において”マツヤマ期”という名称が世界中で使われています。また先ごろ、兵頭先生も関わっておられる千葉の地磁気逆転を記録した地層を、世界の標準摸式地としそれ以降の地質時代を「チバニアン」とする日本からの提案が現在審議中で、世界的に日本人が貢献、活躍している研究分野でもあります。

先生は長年、地磁気の逆転を利用して地磁気が気候を制御するメカニズムの解明に取り組んでこられました。逆転途中に、地磁気強度は大きく減少するため、銀河宇宙線が増え、下層雲が増加して(スベンスマルク効果)、その雲の日傘効果で気候が寒冷化すると仮説を立てて、東アジアとヨーロッパ各地の地磁気逆転を記録した地層を調査してこられました。その結果、銀河宇宙線が現在より40%以上増加した時に寒冷化が起こったことを発見し、さらに、降水量が減少して、冬の季節風が強化したことも発見されました。これらの成果は英国やアメリカの学術誌に発表されています。

    

近年、人間の産業活動によるCO2排出による地球温暖化への懸念が叫ばれています。しかし、古気候の研究から、地球は万年スケールで氷期・間氷期を繰り返しており(ミランコビッチ氷河理論)、現在、地球は寒冷期に向かいつつあることが分かっています。

気候は、銀河宇宙線が増えれば寒冷化し、減れば雲も減るので温暖化が起こります。現在、最近約200年間の気温上昇とCO2の排出量増加の相関だけ注目されていますが、過去に遡れば、人為的なCO2の排出がなかった中世(1013世紀)にも現在のような気温上昇があり、その温暖化と最近の温暖化の両方とも説明できるのは銀河宇宙線の減少です。CO2排出の削減を主張する地球温暖化問題は、ある意味政治的な面もあるという事を認識すべきではないか?と考えさせられました。

 講演会の参加者は普段よりも多く、質疑も活発に行われました。以下に質疑内容を記します。

Q1.Ca/Ti(カルシウム/チタン)の量で、なぜ生物生産量が分かるのか?

→生物とは炭酸カルシウム殻をもつ有孔虫と円石藻の微化石のことで、これら微化石の単位グラム当たり含有量とCa/Ti比が正の相関を示す証拠に基づいています。

Q2.2000年頃に地磁気逆転が起こるといわれていたが、現在の動向は?

→現在地磁気強度が減少していてこのまま行けば1500年後にはゼロになります。しかし、それ以前に地磁気強度は増加傾向に転じるでしょう。

Q3.2000年頃から異常気象が増えCO2の増加による温暖化が問題視されてきている。地磁気の減少との関係があるのか?

→地磁気はたぶん関係していない。太陽活動に起因する銀河宇宙線の減少で温暖化が起こります。ちなみに、CO2の増加が最近の温暖化の原因である科学的証拠はありません。

Q4.地質学的なタイムスパンからみて地磁気逆転のスパンはどの程度のものなのか?

→我々の高解像度データでは地磁気方向の逆転は100年以内に起こっています。方向の逆転前に地磁気強度が大幅に減少します。その期間も含めると数千年になります。

Q5.IPCCの報告書にはCO2の増加と温暖化の話は出てくるが銀河宇宙線の話は出てこない。今後の温暖化対策の方向性についてはどのように考えればよいか?

→最新の報告書にようやく一言述べられるようになった。CO2の温室効果による温暖化を否定するわけではないが、銀河宇宙線の減少による温暖化が原因の可能性も高く、CO2削減を無理に推し進める政策の実施には慎重さが必要だと思います。

                     (文責:寺川 博也、藤井 武 、監修:兵頭 政幸