環境と資源を守る現世代の責任

著者: 綾彰 光弘  /  講演者: 奥 彬 /  講演日: 2020年9月26日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2021年03月09日

 

近畿本部 環境研究会・繊維部会・化学部会・農林水産部会

日 時:9月26日  13:3016:30
場 所:アーバネックス備後町ビル3階ホール

 

講演1「環境と資源を守る現世代の責任」

講師: 奥 彬 氏 京都工芸繊維大学 名誉教授

 

1.はじめに

講師はプラスチック産業技術と政策・研究開発への提言と疑問についてお話された。最近話題となっているSDGsの17の目標のなかで、着目すべき目標がいくつかある。4番目の「質の高い教育をみんなに」、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」と、そして、とりわけ12番目「つくる責任、つかう責任」が今回講演の中心になると語られた。

2.環境、資源、時間、人のできることすべては有限量

細胞内におけるオートファジーは、アミノ酸を含めたタンパク質の生成・再生循環を言い、命をつなぐ再生循環の機能であるということができる。持続可能な社会もこのオートファジーを備えるべきであり、プラスチック リサイクルも同様である。

今、注目されているバイオマス資源が石油に代替するかのように言われているが、バイオマス資源の生産能力は有限であるし、かつ、生産効率は低いことを認識して欲しい。例えば、ポリエチレン300万トンを植物糖質から作るために必要な原料・環境量は、サトウキビ240万トンであり、このサトウキビを作るためには、120×10ha の農地(国土の約8%)が必要である。

3.プラスチックの種類と製造量と廃棄物の多きこと

多種多様なプラスチックが消費者の周りに溢れている。消費者としては、それほど多種多様なプラスチックの食品トレイを求めているわけではないが、毎回のごみ収集でプラスチックのごみ袋はすぐに一杯になってしまう。

回収された使用済みプラスチックは、約76%がリサイクルされていると言われているが、実は、マテリアルリサイクルされているのは、約23%に過ぎず、約53%が燃料として利用されている。この状況は過去10年で変わっていない。

いつの間にか燃料利用のサーマルリサイクルがリサイクルに含まれている。これでは、プラスチックとして再生することはできない。このようになってしまったのは、関係者がインセンティブ(分配金)を獲得し、バージンプラの生産量確保を目的にしているからではないのか。サーマルリサイクルが広がれば、高分子製造技術の叡智と資源の恵みは一回だけで終わってしまうが、研究者や技術者は何も言わない。それでいいのか?

4.リサイクルの大切さその定義への疑問

「正統なリサイクル」とは、何を指すのか。講師は「リユース」「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル(モノマーリサイクル)」の三つであり、サーマルリサイクルは「リサイクルではないと考える。「正統なリサイクル」が大切な訳は、産業に携わる者と生活者がプラスチックを大切に作り、使い、それぞれの責任を自覚してリサイクルを正しく実行することで、
  ①エネルギーと有機資源の保存と管理
  ②エネルギーと有機資源の人為的な増殖
  ③化学物質の量的な管理が可能
となり、地球環境の改善と維持、持続可能な生活スタイルの構築、作る者の責任の実践へと繋がるからである。

そのためには、生産者がプラスチック製品の企画・設計から循環再生の基本思想を持って生産しなければならない。

5.マイクロプラスチック海洋問題とバイオマス由来プラスチックの明と暗

この二つの問題は視野を広く持って考えることが必要である。例えば、植物系プラスチック製造に必要なエネルギー量は、石油系プラスチックよりも少ないようにも思えるが決してそうではない。原料入手までの農林業エネルギーと化学原料への変換エネルギーはむしろ多い。
また、環境分解性を備えたプラスチックであっても、海洋流出から90%分解するまで6カ月を要すると言われている。それにも関わらず、生分解性プラスチックによって、「生態系を救える」「使ったあとの手間を省ける」などの誤った宣伝文句に消費者を乗せて、これまでと変わらない生活スタイルを維持させようとするのは、更に生態系と資源を、更に社会の持続性を破壊することになる。

分別回収するなら環境分解性は不要であり、リサイクルも可能である。にもかかわらず環境分解性や一括回収焼却となれば、再利用しなくてもよいという方向に向かう。

6.次世代へ 自力で始末できないものは作らない

プラスチックの問題は、科学技術の研究者なら克服できる課題であり、「人は科学を信頼する」のだから、騙したり、ずるく利用したりするのは、もってのほか。科学技術の研究者は、倫理観と責任感を持たなければならない。

1.作る者、使う者、全世代の受益者が環境・資源負荷の責任を負う。
  請負実施者は産業、発注者は消費者、と明瞭にする。

2.捨てたらダメ、後始末を地球に任せてはダメ、使ったあとも人が責任を持つ。
  すべての環境問題はその欠落から生じたもの。

3.材料の特性をとことん繰り返し利用すべし。
4.プラスチックは「返却できない地球からの借り物」と意識すべし。
5.生じる環境・資源負荷は受益者全員が公平に負担すべき負債。
6.産業スタイルと生活スタイルを改革するニューノーマルの創設へ。

また、生活者は安易さと便利さに流されない生活スタイルになれるまで我慢することが必要であり、次の6つの脱走(意図的に逃げるということ)を実践すべきである。

1.量を作りすぎることからの脱走
2.量を使いすぎることからの脱走
3.生活スタイルを大きくすることからの脱走
4.安易に捨てることからの脱走
5.無益に地球を(航空機で)飛び回ることから脱走
6.無駄に競わず、争うことからの脱走

もちろん、精神論だけでは上手くいかないので、プラスチックの生涯において、資源環境負荷を産業ごとに評価し、プラスチックの社会毒性と資源環境毒性を管理する法令の整備が必要と考えられる。                          

(文責 綾木 光弘、監修 奥 彬) 

      

         奥 彬名誉教授               講演風景