新しい化学品の製造技術の工業化方法について

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 齋藤 俊 /  講演日: 2020年8月1日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2021年06月11日

 

化学部会 講演会(202012月度)報告

  時 : 20201212日(土) 14:4517:00
  所 : 日本技術士会近畿本部会議室
web方式を併用)

講演1 新しい化学品の製造技術の工業化方法について

         -プロセス設計の一考察

講演者: 齋藤 俊 技術士(化学部門) 齋藤技術士事務所

1.はじめに

講師は化学工業における事業計画の過程で必須となる基礎開発~工業設計に関する豊富な経験をお持ちである。講演では立案→実験→工業設計に進行させていく過程での効率化や、見切りについて紹介し、今後の化学装置技術者のあり方について話された。

2.化学プラント運転について、最近感じていること

研究開発において、大切なことは「自ら目標を見出すこと、面白さを感じて意欲を持つこと」と思っている。しかし最近は、目標の決定を他人事と思ったり、意欲が少なかったり、多くの情報の中に必要な情報が埋もれてしまったり、テリトリーを自分で狭くする例が多いと感じている。

会社は絶えず変化を求めており、新規事業の開拓は必須事項である。新規事業の開拓においては、「なぜするのか・何をするのか・どの様にするのか」を自分で考える必要がある。図1で説明すると、右側の下部に示す発想を、左側中央に示す応用力で積み上げていくことにより、商品化に進める必要があるけれども、それが少なくなっているのではないかと考える。

    
    図1 基礎力・応用力を考える

技術アプローチの方法には演繹法と帰納法がある。演繹法は普遍的に使えるが理論が間違えていれば答も間違えてしまう。帰納法は少ない情報で結論を引き出すので納得感が大切であるが、自社内だけが納得する結論でないかについて、注意が必要である。(例として加湿器中の雑菌繁殖防除のために薬剤を加える商品について、呼吸器毒性による被害発生の説明があった)

3.化学工場の基礎開発から工場設計について

1)夢の実現型開発

炭素事業が主体の企業でケイ素事業を立ち上げようとした例を紹介する。まず事業計画立案チームを作り、シラン(SiH4)製造触媒開発チームで基本特許を取り、パイロットプラントによるテストと進めていったが反応が進まず、対策として他社からの情報を勘案しての研究も行ったが、うまくいかず頓挫した。

開発チームとして、単結晶ケイ素製造用の石英るつぼなどの需要があることと、純度が低い天然物に勝つ目的で、合成法により高純度石英ガラスを作る方針に転換した。
     Si(OCH3)4 2H2O SiO2 4CH3OH
高純度石英を開発出来たので石英粉末として、光ファイバーや石英るつぼの原料として大手ユーザーに提供したが、結果としてシラノール(SiH3OH)が1000ppm存在していたため高温強度が不足し不採用となった。その後、研究員総出でシラノールを100ppm以下に低減した結果、現在ではトップシェアを持つ石英粉末商品に成長させることが出来た。

2)会社存続のための技術開発

1970年頃、都市ガスを天然ガスに転換する流れを受けて、水性ガスの用途がなくなり会社存続の危機となった。このため水性ガスを合成天然ガスに改質する研究を開始した。
   CO H2 CH4 CnH2n+2 H2O (4,500 kcal/Nm3 13,000 kcal/Nm3
精製したガスがメタンだけでは熱量が不足するため、高発熱量のガスも生成する反応条件を探索・設定し、ベンチプラントを作って技術を完成させた。結果として4年後に水性ガスが不要となり、加えて天然ガスの値段が安くなったことで断念した。

3)少量高純度・高価品製造のバッチプロセス開発

フラーレン(C60)は、1970年に存在が予言され、1985年に実在が発見されて1996年のノーベル化学賞につながった。液体に溶けるカーボンとして注目され種々研究が行われたが、カーボンナノチューブと異なり特長がでないため用途が見つかっていない。

演者も有機薄膜太陽電池に、フラーレン誘導体と導電体高分子を利用する方法を目指し、シミュレーションも併用して検討した。詳細を話すことは出来ないが現時点では未完成である。

4.今後の化学技術者のあり方について

開発のために求められることは、①基礎技術の習得、②開発経験者の養成、③自社技術の開発、④他社との連携開発である。一方、これらを阻害する要因として、専門家がいない(養成できない)、日常業務で手一杯、目標が多岐にわたりすぎる、共同研究したいが種々の制限がある、などが課題となる。

解決のためにコンサルタントの需要が生まれるが、コンサルタントの側で考えると、次の考え方で対応することが必要である。
  a)経験にマッチングした依頼はない ⇒ 勉強が必要
  b)若手の教育 ⇒ 次期経営者、事業計画、幹部候補生、研究方法の指導など
  c)理論的なアプローチ ⇒ シミュレーションやAIの活用など
  d)大学との連携の仲介 ⇒ 共同研究のサポート

Q&A

Q 今後いろいろな開発計画の立案があると思うが、支援する側の立場でどう考えるか。

A 少なくとも法律(薬事が関係するなら薬事法など)への理解が必要である。
工場を改造したい場合、依頼事項以外にその工場の現状を把握することが大切である。
指導にあたっては、図1に示した応用力のところをフォローすることが大切と思っている。

Q コンサルタントとして、余裕のない企業をどう指導したら良いか。

A その会社で、如何にしたら実現出来るかという方向性で考えることと思う。

(文責 藤橋 雅尚、監修 齋藤 俊)