環境研究会:100回超え記念講演&討論会
著者: 綾木 光弘、奥村 勝 / 講演者: 中桐 栄、水道裕久、南方英則、新保義剛、濱崎彰弘、深田晃二、丹生光雄、岡本昌也 / 講演日: 2022年3月26日 / カテゴリ: 環境研究会 > 講演会 / 更新日時: 2022年09月23日
環境研究会/特別講演会100回超え記念講演&討論会
日 時: 2022年3月26日(土) 13:30~17:00
場 所: アーバネックス備後町ビル3階会議室
テーマ: 8名の技術士による記念講演と討論
本講演会&討論会は、環境研究会の特別講演会100回超えを記念した企画である。
これまで環境研究会の講演会に参加や支援を頂いた8名の技術士の方からの15分間のリレー講演を行っていただいた。
さらに、講師の方々から、これからの10年で一番問題になりそうな環境問題や環境研究会で講演してほしいことについて事前にアンケートをとり、パネルディスカッションで討議した。
講演1 「兵庫県の水産業に係る海の環境情報」
講師 中桐 栄 (技術士 水産部門)
兵庫県瀬戸内海海域では、海域の貧栄養化による漁業生産の低下が危惧されており,県内の官民が連携してその対策に取り組んでいる。養殖ノリの色落ちの要因から海域の全窒素等の下限値が設定された事例を紹介された。
陸上の物質循環に比べて貧栄養化しやすい海という環境の特徴や、近年のイカナゴ資源の減少や、ノリ養殖の食害被害などに対する今後の県の取り組みを紹介された。
また、これら取組を継続し実効性を高めるためには,関係業界のみならず、地域住民の理解や協力が必要であるため、活動内容や成果の広報等よる情報共有の手法について説明があった。
中桐 栄講師
講演2 「食料と環境問題~フードマイレージの低減と未利用資源の活用」
講師 水道 裕久 (技術士 農業部門)
近年、わが国では米の消費が減少し、畜産物や油脂類の消費増加に伴う海外からの食料輸入が増加し、1965年に73%あったカロリーベースの食料自給率が、最近では40%前後で推移している。食糧輸入の増加は二酸化炭素排出量を増加させ、環境に大きな負荷を与えている。
本講演では、環境負荷の一指標である「フードマイレージ(食糧輸送に係る指標(輸送重量×輸送距離))」を取り上げ、その低減に向けた取り組みと未利用資源の食品分野における活用事例について紹介された。
水道裕久講師
講演3 「資源循環による循環経済に向けた拡大生産者責任体制について」
講師 南方 英則 (技術士 衛生工学・総合技術監理部門)
循環型社会構築の原点は脱物質化にあります。わが国は2000年前後より法整備も進み、資源循環の一定の成果を得たが、この先は高度な資源の循環利用に向けて制度、政策が求められている。
今般、資源循環の究極的最大化(廃棄物の究極的最小化)の概念を取り入れた「循環経済」への移行が世界の潮流である。従来の拡大生産者責任制度の拡大はもとより、「静脈フロー」の「見える化」・「動脈フローとの接合」が最大課題である。脱物質化のサービサイジングや循環経済のサーキュラーエコノミーを紹介された。拡大生産者責任制度が循環経済に機能していけるのかについて説明があった。
南方英則講師
講演4 「気候変動にかかわる最新の話題から」
講師 新保 義剛 (技術士 農業・総合技術監理部門)
気候変動については、大気中のCO2濃度の増加による地球温暖化の懸念が強まっている。地球温暖化は、人間社会の適応能力を越えることも予想される。そのため、我々技術者には、いくつかのシナリオから、どのような選択肢を選ぶべきかが問われている。一方、不確実性も明らかになっており、技術者として正確な情報を元に、将来予測を評価することも求められている。これらについて多数のデータ等の最新情報から解説された。
新保義剛講師
講演5 「植林とカーボンプライシングで地球温暖化問題解決策の提案」
講師 濱崎 彰弘 (技術士 環境・機械・生物工学・化学・総合技術監理部門)
植林によるCO2削減はCCSのような大掛かりな設備や設備の運転にコストがかからないので単位CO2当たりの処理費用が桁違いに安くなる。しかし、世界全体で排出される年間300億トンを超えるCO2を固定するには砂漠緑化が必要である。
実は砂漠緑化も簡単な灌漑で実現できるのでそれほどコストはかからない。そこで、砂漠緑化で利益が出る価格をカーボンプライシングとして、カーボンプライシングで砂漠緑化費用を調達し、カーボンニュートラルを達成する方法を提案された。
濱崎彰弘講師
講演6 「省エネ・再生可能エネルギー・二酸化炭素捕集によるカーボンニュートラル実現の可能性について」
講師 深田
晃二 (技術士 衛生工学部門)
フランスが最近発表したように将来に亘って原子力発電所を増設し長期に亘って運転することは、人新生と呼ばれる時代の最良の選択肢であろうか。2011年の1F事故を受けて、当環境研究会から発信された「大阪湾岸での1,000万kW発電構想」から10年になるのを機に活動の足跡を検証した。
バイオマスの潜在能力だけでは無理があるため、カーボンニュートラル実現のためには、①需要を減らす(省エネ)、②供給を再生可能エネルギー、バイオマスに代替する、③二酸化炭素を封じ込める(CCS)の併用が重要であると説明された。
深田晃二講師
講演7 「持続可能な発展とは何か?持続可能な発展をするために、何をすべきか?」
講師 丹生 光雄 (技術士 化学・総合技術監理部門)
ローマクラブが1972年に「人類の危機」レポートで警鐘を発してから既に半世紀が経った。
現在、持続可能な発展と言いながら、環境維持能力を超えたオーバシュートの段階に入っている。資本主義経済は、エントロピー論的配慮を無視した発展を遂げてきたのではないかと思われる。今後われわれは、エントロピー論的観点から、徹底したLCA的検証を行い、経済発展(growthでなくdevelopment)を維持することが必要ではないかと説明された。
丹生光雄講師
講師8 「技術士として中小企業のSDGs経営の支援をしてみませんか?」
講師 岡本 昌也 (技術士 電気電子部門)
現在SDGsと言う言葉が一般化し、SDGs経営に取組む企業が大手企業から中小企業へと広がって来ているが、まだまだこの新たな機会を活用できていない中小企業の経営者が多いのが現状である。
今回は、①中小企業がSDGs経営に取組むメリット、②SDGs経営の進め方、③本業で利益を上げるSDGs経営、④環境技術開発で更なるSDGsの達成レベルアップ等について説明され、一緒に技術開発支援に取組む仲間を募りたいと締めくくられた。
また、自然栽培や化学物質使用削減の取り組み等、自ら実践していること等を紹介された。
岡本昌也講師
【討論会概要】
質疑応答では、下水処理の清浄度向上により貧栄養化の問題が発生した件への質問に対し、解消法として処理水の栄養塩類の適切な管理など県の環境部門で検討しているとの回答があった。
サーキュラーエコノミーについて、実現する方法と課題は何かの質問に対し、サプライチェーン体制やコストアップの問題などがあるとの回答があった。
気候変動や社会情勢から食の安全保障などが提起されているが、産業構造も変えて解消できるかの質問に対し、農業従事者の所得アップに影響を受けるのではないかとの回答があった。
総括として、今後どのようなテーマで環境研究会の講演を企画してほしいかを8名の全講師に発表して頂いた。環境研究会の今後の活動に参考となる多くの提案や意見があった。
パネルディスカッション風景
(文責:綾木光弘 奥村勝)