環境技術者がつなげる建設コンサルタントの新しい姿
近畿本部登録 環境研究会 第104回特別講演会
環境技術者がつなげる建設コンサルタントの新しい姿
SDGsの視点から
日 時: 2023年3月11日(土)13:30~15:30
場 所: アーバネックス備後町ビル3階ホール + Zoom
講 師: 平櫛 武 氏 キタイ設計株式会社 事業開発本部部長
技術士(建設、農業部門)
1.キタイSDGsとは?
キタイ設計株式会社は、昭和26年に北居直次郎氏が創業し、戦後復興と食糧増産のさなか、滋賀県琵琶湖近くの大中之湖の干拓事業をはじめとした土地改良事業を中心に、農業農村地域の発展に貢献するという社会的使命を果たすことで地域に認められ、地域に育てられてきた。農業農村(里山)地域の課題解決こそがキタイ設計の原点である。
SDGs担当部署として持続可能とは何かを考えたとき、企業が社員を雇用し、社員の生活を担保することが一番大事であることが分かった。アウトサイド・インのビジネスモデルアプローチに於ける、社会的課題と企業の強みの組み合わせに新しいビジネスモデルがあると考え、現在の企業活動を変えずにSDGsに置き換えることを、社内行脚して説明に回った。
そのときに、わたしたちは、里山に育てられ、里山に認められてきたという「社員の総意」がキタイ設計㈱の強みであることを改めて知り、「里山への恩返し」も含めて、キタイSDGsプラン策定に取り組んだ。SDGsのターゲットや指標までまとめているのは、他にあまり例がない。
2.SDGs活動 ~はりまグリーンラボ~ 「里山への恩返し」
SDGs担当部署(事業開発本部)では、里山地域の「困りごとの解決」にそれぞれ取り組んだ。
①担い手不足→「キタイマルシェ」
②森林荒廃 →「姫路防災ラボ&スタディ」
③耕作放棄地→「はりまグリ-ンラボ」
④空き家/廃村/廃校→「里山サバイバルクラブ」
この中で中心となるはりまグリ-ンラボは、「はりまのみんなで里山の耕作放棄地を解消しまちにみどりを広げる社会貢献活動」として、ビールの原料ホップに注目し、はりまのみんなで栽培を始め、はりまホッププロジェクト2019がスタートした。はりまホップの収穫量は2022年には22.4kgとなり、ホップ栽培者数は142人16団体になった。
正しく、みどりを育てる人を増やし、まちにみどりを広げることは、【SDGs13 ターゲット】気候関連災害への対応に合致している。地域の特産物を地域で生産し、地域で消費することは、【SDGs2 ターゲット】持続可能な食料生産システムに合致している。補助金に頼らない持続的な運営をするため、毎年クラウドファンディングにチャレンジし、成功している。
はりまグリーンラボの活動はSDGsに合致し、世界に発信できる内容である。
(詳しくは、はりまグリーンラボで検索)。
3. SDGs活動から生まれた新しいビジネス「里山イノベーション」
里山地域の 「困りごと」の本質はコミュニティの質の低下にあることに気づいた。Tugino
例に代表されるように、里山のコミュニティを再生するには、里山の担い手だけではもう難しい。
①個人で意見を出しても集落や団体ではまとまらない
②集落には活気が無く新しいことを行う雰囲気がない
③団体には志を共有できる仲間が少ない
④地元と他団体の意見交換がうまくいかない、
都市と里山の関係性を見直すことが、一つの手段だと考え始めた。そんな時期に兵庫県が「ひょうご関係人口案内所」運営業務の企画発注を検討され、このコンペに「里山イノベーション」システムを提案し、キタイ設計が受注する事が出来た。
「ひょうご関係人口案内所」は、里山に愛着をもち、里山と街中を行き来しながら、里山地域に継続的で多様に応援できる者を案内し、街中から里山へのつながりを築き、新しい人の流れをつくることを目的としている。具体的な事例(佐用町江川地域づくり協議会、朝来市上八代集落、加東市河高地域づくり、洲本市千草竹原町内会)をモデルにして、さとまちガイドラボの仕組みを作り、26名のコーディネーターを育てることで、外部人材を確保した。 (詳しくは、さとまちガイドラボで検索)
活動の結果、兵庫県から新しい官民連携の姿をつくったことで感謝状も頂いた。里山と街中をつなぐコーディネーター制度の仕組みをつくった点が高い評価を受け、今後は構築できたコーディネーターを兵庫県が一括管理することとなった。キタイ設計としてもSDGs活動の一環として「ひょうご関係人口案内所」の仕組みを、自立自走しながら支援することを考えている。
これらのキタイ設計の活動が評価され、大阪関西万博ひょうごフィールドパビリオンの検討コアメンバーに任命された。今後は、里山と海外をつなげるつもりである。
4. 環境技術者がつなげる建設コンサルタントの新しい姿
キタイ設計は、ひょうごフィールドパビリオンのノウハウを備えた建設コンサルタントとなった。環境技術者の生き方の1つは、図のように、『SDGs活動に伴い、社会的課題と企業の接点を探り受託業務を新規に開発できる「サステナビリティ経営」につなげることであること』を提案する。
当社のSDGsに対する取り組みが、①一般社団法人建設コンサルタント協会「環境配慮の手引き」、②JAAM論文(一般社団法人日本建築総合試験所の機関誌)「GBRC キタイ設計の2030年に向けたSDGsの具体的な取組みと成果」、③国土交通省グリーンインフラ事例集(はりまグリーンラボの活動)に掲載されるなど、社会的評価を頂き感謝している。
文責 西島信一 鈴木秀男 監修 平櫛 武