光アップコンバージョンフィルムの開発
近畿本部 化学部会 2023年10月度講演会
メインテーマ:マテリアルイノベーション
講演 光アップコンバージョンフィルムの開発
日 時: 2023年9月30日(木) 14:30~16:30
場 所: 近畿本部会議室 TeamsによるWeb併用
講 師: 森 岳志 氏 博士(工学) 和歌山県工業技術センター主査研究員
和歌山県工業技術センターは職員60名の組織で、試験・研究・技術情報発信の任に当たっている。講師は、化学技術部の素材応用技術担当。
1.光アップコンバージョン(TTA-UC)とは
通常、蛍光試料に光を当てると長波長側の光を発するが、アップコンバージョン(UC)は短波長側の光を発生させる技術で、近年三重項-三重項消滅(TTA)-UCの利用が注目されている。
TTA-UCでは増感色素と発光色素を組み合わせ、元の光のエネルギーより大きな発光エネルギーを得る。発光色素はアントラセンなど縮合芳香環、増感色素にはポルフィリンなど金属錯体が代表的で、様々な報告例がある。
増感色素は短波長に吸収がなく、吸収帯がUC発光と重ならないことが理想的である。
森 岳
講師
2.光アップコンバージョン(TTA-UC)のアプリケーション
①太陽電池;長波長光を短波長に変換し効率を上げる
②光化学反応への利用;短波長の未利用光の有効利用、紫外線装置なしに光化学反応、集光点のみでTTA-UCを起こし光重合させる
③ライフサイエンスへの応用;近赤外光を利用し生体外からの治療や画像情報を取得する
などが考えられている。実用化には、酸素、微弱光の利用、固体材料化が課題として挙げられる。
3.和歌山県工業技術センターでの成果
TTA-UC技術は太陽電池や光触媒など大面積アプリケーションへの応用が期待されている。実用化への鍵となるのはフィルム状態で安定にTTA-UCさせる技術の開発である。
そこでフィルムを構成する種々の樹脂基材を検討した結果、酸素遮断性の高いポリビニルアルコール(PVA)が最適と判断した。まずフィルム延伸と水溶性色素の組み合わせで、緑→青変換から検討を始めた。キャストフィルムを湿式延伸すると、延伸と共にUC発光が確認された。
次の課題は、太陽電池に利用するために近赤外光を可視光にUCすることである。水溶性の発光色素を利用して同様に延伸法で試したが、UC発光は確認できなかった。
そこで、色素とPVAのエマルション溶液からフィルム作製を行った。得られたフィルムは全体に数μmの小さな孔が存在し、その孔が強くUC発光することが分かった。
より実用的な環境を想定して疑似太陽光で780nm以上の近赤外の光を照射したところ、560nm程度の光を得ることができた。
4.まとめ
用いる色素の違いもあり単純な比較は難しいが、変換効率は最高水準と考えている。アプリケーション拡大のために、アイデアを求めている。
5,質疑
Q1. 芳香環の並んだ色素は分子分散が難しく、分子はスタッキングしているのでは。
A1. 理想的な分散状態より、消光しない程度に近づいている状態が良いと考えている。
Q2. 色素の分子設計には、分子軌道法による計算は使っているのか。
A2. 使っているが、集合体としての性能はスペクトルを測定して評価しているのが実態。
文責:出口義国 監修:森 岳志