地球温暖化問題に関する最新の科学
近畿本部登録 環境研究会 第107回特別講演会
講演 地球温暖化問題に関する最新の科学
IPCC第6次評価報告書と今後について
日 時: 202 3年12月2日(土) 14:00~16:00
場 所: アーバネックス備後町ビル 3Fホール + Web(Zoom)
講 師: 田辺 清人氏 地球環境戦略研究機関(IGES)上席研究員
TSU特別コンサルタント
講師は1999年4月より、地球環境戦略研究機関(IGES)にてIPCCインベントリータスクフォース(TFI)技術支援ユニット(TSU)の諸活動に従事。2015年10月、IPCC第42回総会にてTFI共同議長に選出され着任。2023年7月に任期満了にて退任した後、IGES上席研究員として研究活動に従事しつつ、独立した環境コンサルタントとしても活動しておられます。
講演概要
今年1年3月中旬に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動問題に関する第6次評価報告書のまとめ(統合報告書)を発表しました。持続可能な開発目標(SDGs)の採択やパリ協定の合意がなされてから初めての評価報告書であり、過去の5回の評価報告書に比べても特徴的なものとなっています。本講演では、第6次評価報告書の概要や注目すべき点を紹介するともに、今後のIPCCに期待されることについてご講演いただきました。
田辺 清人
講師
はじめに
一昨日(11/30)から、アラブ首長国連邦のドバイで、COP28が始まった。毎年この時期に開催される気候変動枠組み条約の締約国会議であり、一般のニュースでも随分取り上げられるようになった。地球温暖化問題は、 今やほとんどの人が耳にしたことがある問題となっている。このニュースの中でも頻繁にIPCCという言葉が出てくる。本日はそのIPCCに関する話である。
この図は、将来世代はこれまでの世代が経験したことのないほど温暖化した世界を生きることになること、またその気温の上がり方は、私たちが現在選択するライフタイルによって、大きく変わってくるということを示している。
1.IPCCとは、IPCC報告書とは
1)IPCCとは
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)で、1988年、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立し、国連総会がそれを是認。現在、195か国の政府が加盟している。
国際的な科学者のネットワークで、多くの専属職員を抱えているわけではなく、その活動は世界中の科学者の自発的な貢献によって支えられている。
IPCC報告書は政策に関わるものであるが、政策を規定するものではない。
2)IPCC評価報告書の構成
第1~第3作業部会(WG)報告書と統合報告書の4つの報告書からなり、各作業部会報告書は政策決定者向けの要約(SPM)、テクニカルサマリー、各章からなる。
SPMは各国政府の政策担当者や一般市民向けの要約で、各国政府と科学者の協議により完成する。
2.IPCC第6次評価期間(AR6期間) 2015年10月~2023年7月
今回の第6次評価報告書の背景・特徴は、次の点である。
・ パリ協定合意後、初の評価報告書
・ 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択後、初の評価報告書
・ 「都市」のクローズアップ
・ 需要側の対策についての評価 等々
3.IPCC第6次評価報告書 WGⅠ,Ⅱ,Ⅲ報告書
1)第1作業部会(WGI)報告書 「2021年8月」 ・・・・ 自然科学的根拠
「人間の影響で大気・海洋・陸地が温暖化してきたことは疑う余地がない」ことを始めて断言した報告書となった。
人間が引き起こしている地球温暖化を一定のレベルで抑えるためには、過去からのCO2累積排出量を制限しなければならず、少なくともCO2排出量を「ネットゼロ」にする必要がある。
2)第Ⅱ作業部会(WGII)報告書「2022年2月」 ・・・・ 影響、適応、脆弱性
極端現象の頻度と強度の高まりなど、人間が引き起こしている地球温暖化は、既に自然と人間に対する広範な悪影響をもたらしている。
3)第Ⅲ作業部会(WGIII)報告書「2022年4月」 ・・・・ 気候変動の緩和
COP26(2022年11月)より前に世界各国が発表した温暖化対策が示唆する2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高い。
4.IPCC第6次評価報告書(AR6) 統合報告書のメッセージ
1)問題の深刻さ
・人間活動が、主に温室効果ガスの排出を通して、地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、1850~1900年を基準とした世界平均気温は2011年~2020年に1.1℃の温暖化に達した。
・大気、海洋、雪氷圏、および生物圏に広範かつ急速な変化が起こっている。人為的な気候変動は、既に世界中の全ての地域において多くの気象と気候の極端現象に影響を及ぼしている。
・継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらし、考慮されたシナリオ及びモデル化された経路において最良推定値が短期のうちに1.5℃に到達する。
・(海面上昇について)
確率は低いが、影響が甚大になり得る現象も無視できない。
2)対策の緊急性
・累積CO2排出量(1850年~)の増加に応じて地球温暖化は進行する。
・人為的な地球温暖化を抑制するためには、CO2排出量を正味でゼロにする必要がある。
・温暖化を1.5℃あるいは2.0℃に抑えるモデル化された世界全体の排出経路は、この10年間に全ての部門において緊急かつ大幅な、そしてほとんどの場合即時の温室効果ガス排出量削減が求められることを示唆している。
3)今後の対応
この10年間に実施される選択と行動は、現在及び数千年にわたり影響を及ぼす。
その意味で、この10年が最も大切であり、CO2排出量をピークアウトし、ネットゼロを達成することが重要である。
5.IPCCの今後
2023年7月末に開催されたIPCC第59回総会で、新たなビューロ-メンバー(議長団)の選出が行われ、第7次評価期間(AR7期間)が始まった。期間は、5~7年である。
Q&A
Q1:人口問題が地球温暖化に大きく影響すると考えており、今世紀末には地球人口が100億人に達すると言われている。人口問題についてのIPCCの研究はどのあたりまで進んでいるのか。
生態系の問題について、日本は海洋国家で、タンパク源に水産資源のウエイトは大きい。生態系に対する温暖化の影響についてどのように評価しているのか。
世界の科学者によるIPCCの評価を政策決定者にもっと強くアピールしていただきたい。
A1:人口問題は地、WGII報告書や、海洋・雪氷圏の特別報告書で評価している。
IPCCに対する数ある批判の一つは、科学者がもっと強いメッセージを出さなければダメだというもの。しかし、中立性を失うことで科学的な情報の信頼性が損なわれてはならないとうこともある。
Q2:(チャットから)最近の戦争に関連して、戦争と地球温暖化との関わりについて、どのように評価されているか。
A2:気候変動が戦争・紛争による被害をさらに悪化させることは言及されているが、今のところ、気候変動が戦争・紛争の主因となるという評価まではされてない。戦争・紛争によるGHG排出は間違いなく気候変動を悪化させるが、現在の世界各国によるGHG計算・報告には、そのごく一部しか含められていない。
Q3:(Webから)初期のIPCC報告書のグラフではCO2について2000~2100年の目標が示されていたのに最近は1850年の産業革命からの目標に変わった経緯、2℃目標が1.5℃目標に厳しくなった経緯について教えていただきたい。
A3:初期のIPCC報告書のグラフとして、何に注目されているかわからないのでお答えしにくいが、研究成果の蓄積や条約の発効などの結果ではないか。1.5℃目標の明確化については、やはり、最近の科学的知見の集積の結果である。
Q4:気候レジリエントな球温暖化と大きく関係している。IPCCが示す5ケースの温暖化シナリオに人口予測も組み込まれている。人口増加は温暖化に影響するが、だからといって人口増加を抑制するという議論にはなりにくい。人口計画や、資源効率性を高めて一人当たりの排出量を減らすことが重要ではないか。
生態系については開発(Climate Resilient Development)という考え方(言葉)を、もっと流行らせたらいいと思う。
A4:CRDという言葉は、昨年2月のWGⅡ報告書で初めて登場し、クローズアップされたもの。政策決定者の側も重要性を認識している人が多く、これから浸透していくものと考えている。
文責:大西 政章 / 監修:田辺 清人