カーボンリサイクルシンポジウム 基調講演
近畿本部 化学･繊維･農林水産部会、環境研究会 合同講演会
メインテーマ： カーボンリサイクル(CO2分離回収・有効利用技術）
１．基調講演 膜分離によるCO2分離回収の最前線
日 時： 2024年7月13日(土) 13：00～17：00
場 所： アーバネックス備後町ビル３階 ホール
講 師： 谷口 育雄氏 京都工芸繊維大学 繊維学系 教授
１）CCS（CO2 Capture and Storage：CO2回収貯留技術）
世界的に気候変動は深刻であり、COP3やCOP21で議論され地球温暖化の抑制にはCO2濃度低減が共通認識である。CO2削減には省エネ、再エネに加えてCCSが有効であり、世界中で取り組まれ、実証試験が行われている。
谷口 育雄氏
日本のCO2排出量の多くを占める火力発電所で発生するCO2の処理に関して、CCSにおける貯留技術についてRITE（地球環境産業技術研究機構）が行ったCO2の地中貯留（1-3km）の有効性、安全性について実証試験を行った内容を紹介された。
２）CO2分離膜の開発
CCSおよび後述のCCUの両者ともにCO2の分離・回収技術が重要であり、その実用化のためにはコスト低減が課題である。これまでに様々なCO2分離回収技術が検討されており、それらには化学吸収法、物理吸収法、固体吸収法、膜分離法等があるが、エネルギー／コスト面では膜分離法が有利であり、1000円台／t-CO2の分離・回収コストが見込める。膜分離法は追加エネルギーが不要で省スペースかつ簡便なプロセスで取り扱うことができ、現在の課題は分離性能の向上である。また、世界におけるCO2分離プロジェクトでも膜分離法が進められている。
講師のグループは、低コストで容易に大面積化できることを目的とした分離膜の研究開発を行っている。CO2と相互作用のあるアミンを用いた分離濃縮技術に着目し、特定アミン(AEAE)を相溶性のあるポリビニルアルコール（PVA）に固定した平膜を用いて分離性能の有効性を評価し、その結果を解説された。火力発電に適用できる実用化を目指したスケールアップ(大面積化)のために市販の中空糸膜(水処理用UF膜)の表面にAEAEとPVAの混合物をコーティングした中空糸膜モジュールを開発し、その特性も解説された。これらは現在NEDOの事業において実証実験が進められている。
分離膜表面のモデル図
３）CCU（CO2
Capture and Utilization：CO2回収・利用）
CCSのみでは事業性が乏しいがCCUについては国内外で開発が進められており、化学品の原料とすることが検討されている。これについては次のパネルディスカッションで議論された。講師はバイオガスからカーボンフリーH2の製造について注目しており、これの説明があった。
質疑応答
分離膜の実用化(大面積化)にあたって、膜の欠陥抑制や孔制御の方法についておよびアミン-PVA膜におけるCO2透過メカニズム、特にCO2脱離段階についての質問が有り討議された。
（文責：太田昌三 監修：谷口育雄）