可逆性動的架橋高分子の応用材料開発
近畿本部 化学部会講演会
可逆性動的架橋高分子の応用材料開発
-自己修復・リサイクル性・光機能性など-
日 時: 22024年10月5日(土) 14:30~16:30
場 所: 近畿本部会議室 TeamsによるWeb併用
講 師: 川野 真太郎 氏 博士(工学)
大阪産業技術研究所 森之宮センター 主任研究員
近年、高分子材料の耐久性や寿命を改善する革新的手法として、可逆性の動的架橋結合と呼ばれる相互作用を高分子骨格中に組み込んだ応用材料の創製が行われている。本講演では、以下(1)~(3)の新規材料について紹介する。
川野真太郎 氏
1.非共有結合性のホスト-ゲスト超分子化学に基づいた動的架橋高分子
先行研究では、ホスト分子にβ-CD(シクロデキストリン)を側鎖に有する高分子と、ゲスト分子にアダマンタンを側鎖に有する高分子間で、非共有結合性の1:1ホスト-ゲスト相互作用による超分子架橋を利用したネットワークポリマーの可逆的架橋による自己修復性が報告されている。
本研究では、主鎖骨格に下限臨界溶解温度(LCST)以上に加温すると疎水性相互作用により凝集する感熱応答性高分子(ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド等)と、側鎖ゲスト分子には光照射により二量化し共有結合を形成するクマリンを用い、空孔径の大きいγ-CDホストとクマリン二分子間の1:2超分子架橋に加えて光や温度制御により広範囲にわたる粘弾性制御が可能となった(下図)。この超分子架橋ハイドロゲルの粘弾性評価により、自己修復能の発現が確認でき、乾燥させた塗膜も自己修復能を有していた。通常は修復温度にガラス転移点(Tg)より高い50℃以上の加温を要したが、CDホスト分子のサイズ、ホスト-ゲスト比、高分子主鎖の種類や分子量等の制御により、Tg以下の室温かつ湿潤環境においてホスト-ゲスト相互作用に基づく自己修復能を有する塗膜の高機能化に成功した。
図 ホスト-ゲスト超分子架を利用したハイドロゲル創製
2.高分子主鎖が空間的に結合した可動性架橋高分子
CD二量体を擬ロタキサン型(スライドリング構造型)動的架橋点として、ポリエチルアクリレート主鎖に空間的に導入したエラストマーが自己修復性を有することを見出した。試験片を2つに切断後、切断面の再接着により一体化し、24時間の室温静置後の引張強度は切断前の80%の強度を維持していた。また、二量体架橋剤は溶媒により架橋高分子から分離できることから、架橋剤の回収・再利用によるサーキュラーシステムの可能性が示された。
3.有機色素修飾高分子を用いた塗膜の発光特性
有機ELに用いられる有機色素修飾高分子は固体塗膜状態で有機色素の凝集による消光が課題である。本研究では、発色団修飾高分子の水中の凝集状態を、架橋反応や溶媒組成、濃度により制御し、固体膜を形成することで、単一材料で白色化、大面積化が可能な発光性塗膜創製の可能性を示した。
(文責:中田将裕 監修:川野真太郎)