ISO9001の取得数推移
“エコアクション21”普及活動について”
㈱エコ・サポート 山本 泰三
その特徴、顧客企業や市場の受止め、課題、今後の展望などを交えて紹介するとともに、さらなる普及に向け、マネジメントシステムの効果が上がり、企業体質の強化・発展につながっていくことを、審査人として強く願っている。
キーワード:EA21,環境パフォーマンス、リスク対策、目標管理、PDCA,環境負荷の低減、
1 EA21が生まれるまでの長い経過
地球(リオ)サミット(1992年)の成果として地球温暖化防止枠組み作りができ、21世紀最大の環境問題の方向付けができた。あらゆる領域で環境負荷低減の取組みが求められることになってきた。
その中でISO14001環境マネジメントシステム構築の取組みがスタートし、96年に国際規格が完成した。一方、環境省では、中小企業でも取組みやすい環境活動評価プログラムの開発に着手し、同じ96年には一応の完成を見た。
わが国では、ISO14001が家電機器メーカーなどを中心に爆発的に普及を始め、取引先企業にも取組みを要請する動きの中で、世界に占める認証登録件数も20%近くと断然トップの状況にある。
一方、環境活動評価プログラムは、現場で使いこなすには、実態にそぐわない、分かりにくい点が多いこと及び認証登録制度でなく、自主登録制度でスタートしたため、市場にはほとんどインパクトを持たない状況が続いた。
2.認証・登録制度EA21の誕生
ISO14001の普及は早かったが、システム構築に専門的な知識が必要、維持が難しい、とくに登録を維持する費用負担の重さ、実効性の点などから、中小企業にとっては自ら取組むことを躊躇する動きが見えてきた。自治体においても同様に認証は取得したが、維持が難しいとして更新を取りやめるところも目立ち始めた。
取組みやすいマネジメントシステムへの期待が高まるとともに、KES、エコステージなどのマネジメントシステムが立ち上がりはじめた。
EA21については、登録・認証システムへ移行することが決断され、IGES((財)地球環境戦略機関持続性センター)が中央事務局となって、04年からパイロット事業がスタートした。05年から本格的に制度がスタートし、3年を経て、登録件数はISO14001の立ち上がり時期と似たような経過の中で、すでに2400件近く(4月末現在)の認証・登録に至っている。
表1 都道府県別認証登録数(上位10)
都道府県 |
審査人数 |
地域事務局 |
認証登録数 |
静岡県 |
36 |
3 |
299 |
東京都 |
98 |
3 |
217 |
大阪府 |
54 |
2 |
172 |
神奈川県 |
83 |
1 |
155 |
長野県 |
19 |
1 |
119 |
福岡県 |
22 |
3 |
101 |
石川県 |
9 |
1 |
96 |
熊本県 |
14 |
1 |
81 |
群馬県 |
9 |
1 |
81 |
愛知県 |
26 |
2 |
71 |
小計 |
370 |
18 |
1392 |
その他 |
379 |
29 |
972 |
合計 |
749 |
47 |
2369 |
3.認証・登録数の推移の分析
3.1 マネジメントシステムの普及数について
①ISO9001(QMS)
国際規格ができた87年版では、わが国の取組みはほとんどなかった。94年版ができて輸出などでは、認証取得が取引条件になることに気づき、年間1000件程度の増加となった。さらに00年版になって事業者の立場で取組の程度を判断し、取組みをすればよくなり、マネジメントシステムとしての評価が高まった。
増加数は年間5000件以上と飛躍的に増大した。
しかし、05年を境に増加数は減少に転じ、4万3千件台をピークに、現在では絶対数がマイナスになっている。
②ISO14001(EMS)
規格ができた96年から順調に増加してきたが、04年の年間3000件をピークに伸びが減少し、累計で2万件程度となり、横ばいに近づいている。
図2 ISO14001の認証取得数推移
③エコアクション21(EA21)
普及数は図3に示すようにISO14001の立ち上がり期と類似し、順調に増加している。IGES中央事務局の見通しでは、10年末には5000件になるとしている。最近のシステムの活動実績、取組み企業の評価は高まっており、さらなる増加が期待できる。
3.2 普及数推移の分析
各マネジメントシステムの認証取得の増減数について04年以降の半年ごとの推移を図4に示す。
ISO9001、ISO14001については、前記のとおり、漸減または、横ばい傾向である。簡易な環境マネジメントシステムとして01年に京都でスタートしたKESは、全国に12のファミリーシステムがあり、Step2を比較対照としてみると、緩やかに増加しているが、今後、大きな伸びは難しそうである。
EA21は増加数がすでにISO14001を超えるまでになっていることは注目すべきである。今後の展望を含めてEA21の特徴を以下に述べる。
4.ビジネスモデルとして優れたEA21
4.1 安くてよい運営システムづくり
環境問題の重要性を考えると、事業活動の中に環境を織り込んだ取組みを広く普及させることが、絶対に必要である。しかしながら、環境に伴う活動は、直接的に利益を産み出すものではなく、構築、維持の費用が企業にとって大きな負担になる。したがって、費用効果があり、構築、維持費が安くて事業者の実態に即したものでなければならない。
①金のかからない認証・登録システムの構築
従来のマネジメントシステムは、審査登録機関が企業と契約して認証・登録する仕組みであり、管理費も多くかかる。企業による自己宣言システムも ISO14001では位置づけられているが、第三者による評価システムがあるから、社会的に安全・安心を与えることができる。審査機関ほどの管理費用がかからないようにできると、効率的なビジネスシステムを構築できることになる。
目標
②中央事務局と地域事務局の役割と運営
システムの構築と維持管理は中央事務局(IGES)の役割である。環境省(国)のバックアップにより、IGESはシステムを進化させる原動力であり、少数精鋭組織である。
地域事務局は全国35の都道府県にあり、企業だけでなく、行政、商工会議所などの団体とのかかわりを持ちながら、社会との接点を持つ公益的な親団体に属して、普及PR活動及び判定委員会の運営などの活動をしている。
したがって、事務局の運営費は事業者からの認証・登録料で運営されるが、事業者の負担は2年で5万~10万円程度と安い。(※ほかに審査費用が必要)表1で示したように、登録時業者数が100~200件の地域事務局が増加しており、このレベルになると地域事務局の運営も安定してくる。
③審査人の役割とスキルアップ
審査人は中央事務局が実施する試験に合格すると資格を与えられる。環境問題に対する幅広い知識、マネジメントシステムに関する知識、コンサルティング能力など、高い資質が求められる。とくに審査時に指導・助言(アドバイス)をしなければならないので、スキルアップに対する要求レベルは高い。
審査人は地域事務局と係りを持つが、独立して営業活動をし、顧客企業を発掘する役割を有している。
活動の範囲は限定されておらず、よいネットワークを作り、実績を積めば、全国を対象に活動できる。
一般に審査人は企業の退職後に活動する場合が多い。審査費用は文書作成を含め通常2人日(内現地審査は1人日)で、10万円プラス交通費等の実費を請求できるので、昨今の状況からすれば、仕事の質に見合った収入が保証されることになる。
4.2 企業・事業者にとってのメリット
①費用が安くて取組みやすい。
企業・事業者にとっては、取組みやすくて維持費がかからないシステムでないと普及に繋がりにくい。
費用が安くて取組みやすくても、現場に即した実効性のあるシステムでないと取組み動機にならない。
②マネジメントシステムの構築で体質改善
システムの構築段階では、無料で4~5回の集合研修に参加できる制度がある。この回数だけでは、相当がんばらないと十分にマネジメントシステムを理解し、PDCA(プラン、ドゥー、チェック、アクション)を回す取組みを構築することはしんどいが、地方自治体などの支援制度の活用が広がりつつある。
EA21はQMS,EMSなどと同様にマネジメントシステムであり、構築・運用することで継続的改善を図ることを目標としている。また、審査段階で審査人を指名することができるので、審査人から指導・助言を受けて、組織の目標、役割を明確にして、人材を育てるツールとしても有効である。
③審査人からアドバイスを受けられる。
ISOでは審査とコンサルは厳に分けて運用されている。EA21では、審査人が倫理規程を守るのは当然であるが、審査人から指導・助言(アドバイス)を受けることができる。また、審査人を指名して3年間4回までの同一人による審査(登録、中間、更新、中間)段階での指導を受けることができる。
④認知度アップと助成制度の活用
EA21の有効性、認知度のアップがあり、一方で従来のQMS,EMSに対する自治体等の支援制度の利用希望が減少していることから、EA21に対する助成制度の充実が進みつつある。また、支援ツールとして、システム構築のための文書や記録、様式類が充実してくること、審査人のスキルアップともあいまって、普及に繋がる条件は進化・改善していくことになる。
5.EA21システムの特徴・優位性
EA21はISO14001と類似しているところも多いが、環境パフォーマンスを改善するための経営のツールとして、また、本来業務での環境配慮。改善に繋がる取組みのツールとして優れた点が多い。
5.1 国等の支援
環境省が作ったシステムであり、政府の「21世紀環境立国日本」(2007閣議決定)にその普及が取り上げられた。
5.2 ISO14001との比較
①経費及び労力が小さい。
前記のとおり、システム構築及び維持の費用、労力が小さい。
②システム・機能の充実
PDCAをまわし、目標、パフォーマンスの改善を目指すための必要機能がある。
③審査人が指導・助言(アドバイス)できる
経営のツールとして人材の育成、体質強化にも有効である。
④とりくみやすく、わかりやすい
環境側面について、チェックシート方式により環境負荷及び環境取組みの自己チェックができる。
⑤第三者認証の中で「環境活動レポート」を公表
公表を義務付けることで、対外的にも、対社内的にも有効に活用できる。
⑥CO2排出量を認定している
活動の中でCO2排出量、廃棄物排出量、総排水量の把握改善が義務付けられている。
5.3 業種別マニュアルの充実
産業廃棄物処理業者や食品関連事業者など法律や行政施策と連動した業種別マニュアルがある。また、建設・設備、大学・学校、自治体・公共施設などについても業種別マニュアルにより、きめ細かい対応が図れる。
6.実践的な活動例
6.1 EA21をうまく活用するために
「現場リーダースキルアップノート」でEA21
について4テーマ紹介記事を書いた。
①廃棄物をどう減らし、どう生かすか
発生抑制、再生利用、再利用、熱利用、適正処分の順で考え、現状把握、分別処理等により改善する。
②コンサルタント・審査人の活用
前記のとおり、審査人との関係の中で、自社の実態にあった対応を進めるチャンスである。
③法律遵守はどこまで意識し、実行するか
守るべき法律を抽出し、定期的に遵守していることを確認する。勇気を持って、行政等に相談するのが現実的である。
④環境活動レポートを公表する
環境活動レポートを作成し、公表する効果は大きい。負担と考えずにチャンスととらえて活用しよう。
6.2 自動車整備業でのエコ整備の取組み
自動車整備は全国各地で広範に事業活動が進められている。この中で、環境対策として自動車整備が平成20年からグリーン購入法の対象となった。リサイクル部品の利用とエンジン洗浄が環境対策として重要と位置づけられた。
自動車整備業のEA21認証取得はすでに100件をこえている。筆者は審査に関る中で、自分の車にエンジン洗浄をしてもらったが、燃費が10%程度改善したことを実感できた。
著者略歴
1964年3月 名古屋工業大学機械工学科卒業
1964年 4月 大阪ガス株式会社入社
ガス機器の開発、商品企画、エンジニアリングなどの業務を経て、環境部でエネルギー利用に伴う大気環境対策、環境アセスメントなどを担当
2000年3月 大阪ガスを退職し、㈱エコ・サポートを設立・開業。主にISOコンサルタント、審査員の他、企業の経営支援活動に係り現在に至る。
2004年4月 EA21審査人として登録。
現在、EA21審査人HG会会長