バイオマスタウンの事業化に向けて
著者: 山崎 洋右、山本 泰三 講演者: 野邑 泰弘 / 講演日: 2008年07月15日 / カテゴリ: 講演会 / 更新日時: 2012年08月17日
★第40回環境研究会特別講演会報告 080715
日 時:平成20年7月15日(火)
テーマ:バイオマスタウンの事業化に向けて
キーワード バイオマス、竹の利用、SPC、エネルギー利用、環境
講 師:野邑 泰弘氏 NPO環境資源開発研究所理事長 大阪市立大学名誉教授(熱工学など)
1.バイオマスタウンとは
域内において、広く地域の関係者の連携の下、バイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれた総合的利用システムが構築され、安定かつ適正なバイオマス利用が行われるか、あるいは、今後行われることが見込まれる地域をいう。
2.バイオマスタウン利活用事業の具体化に向けて
バイオマスタウン利活用事業全体(ソフト事業とハード事業)についての企画を提案し国の審査を通れば公表される。現在は約160件が事業として、構想のための総合企画が提出され承認されている。ここから詳細な実施計画書の審査が通ると自治体では国から50%の補助金が出るが、事業化に向けては多くの困難さを伴うため、まだ、実現に至ったプロジェクトはない。
実現に向けては入り口(とくに原料の安定供給)及び出口(製品が安定して売れること)が重要で、エネルギーと物質利用を工夫することにより、見通しの立つプロジェクトなどに関わっている。
大阪府下では岸和田市の構想が認められた。地方のバイオマスタウンとは異なり、都市型のバイオマスタウンシステムとして廃棄物(90%以上の利用)と未利用(40%以上の利用)が構想の条件であり、これを含む対応の工夫が求められている。
(1)竹林の利活用が主対象
①竹の利活用に期待される効果は多様である。
わが国では、竹製品の生産拠点が海外に移転したことで、竹林の利用が激減し、竹林が荒れて、経済林への侵食、大規模な表層すべり等の危険が増大する。この数10年間で竹林面積は2倍近くの26万haにも広がっている。これを防止・改善するため、以下の効果を目標にした取り組みが当NPO法人の活動である。
a)里山の再生(水を生き返らせる)、遊休地の解消
b)地域おこしの実現
c)新たな産業の創出、雇用の確保
d)環境の保全など
②竹林の特性と有効な資源の活用
竹は筍から竹になるまでに急成長し、2ヶ月で十分に生育し、あとは硬くなるなどの変化はあるが、大きくならず6年くらいで循環し、再生する。これをうまくバイオマス資源として利用し、循環型社会の構築に寄与できる可能性がある。
四国や九州の竹林は直径25cmにも育つので、幹元材、幹材、幹末材、枝葉に分けて、有効利用を考えていく。
③竹の高度利用、徹底利用
竹のバイオマス資源が持つ機能を総合利用する、商品の高付加価値化を図る、カスケード利用(純度が下がり再利用できなくなるまで多段階利用する)を検討し、採算性と環境性に配慮したサステイナビリティのある技術に挑戦し、リファイナリー(徹底的に使う)の事業化を図る。
(2)事業化を実現に向けた仕掛け作り
自治体での事業は第三セクター方式などが、過去に多く取組まれてきたが、成功した例は少ない。これを支援するためのNPO団体、専門家集団を工夫し、目的会社(SPC)をつくり運営することとした。まず、自治体の担当者が目的を持つ必要がある。市長、議会などの了解が求められる。そして、実施計画書を行政と一緒に国に提出し、審査を通すことになる。
(3)バイオマス工場の企画と実現
①エネルギー利用
エネルギーをカスケード利用するためのバイオマス発電システムを作るには課題がある。日本にはバイオマスを燃料にするボイラの進展が見られない。外国製を購入すると通常ボイラの10倍近くにもなる。排熱ボイラの利用を考慮したボイラが開発されつつある。勿論、バックアップシステムは必要になる。また、燃料となるチップ等も、市況の変化による価格や入手の安定性が変化するので、エネルギー計画、コージェネシステム作りが大変難しい。
②竹のリファイナリー、徹底利用
竹を徹底的に使うためには、表皮の成分、液の抽出などにより抗菌、殺菌、吸収効果などの利用を検討している。また、パウダー、ファイバー、バンブーファイバーなどにして、建築材(柱、フローリング材、パーティクルボードなど)マテリアル利用を進めていく。
③竹の循環・育成利用
竹林をうまく育林する必要がある。特に入り口側の資源を管理し、持続的適正管理方針を立てて実施するための方策が求められる。
④資金・事業化計画
SPC(目的会社)を作り、国からの補助金を得て事業化を進めていくが、お金を集める方法論が求められる。
3.今後の展望
近いうちに、事業化例が実現する。そうすると、全国的にバイオマスタウン構想の具体化が進むことを確信している。利害関係者が多く、事業化実現は大変な作業であるが、自由に発想し、行動することができるので、楽しい仕事である。
Q&A
Q:都市型のバイオマスの入り口は?
→すでにそれなりに廃棄物の処理システムができており、利害がからむので、もっと儲かるというシステムでないと、原材料が集まらない。チップを製紙会社が買ったという例もある。
Q:ボイラについては、40年位前は日本にもあった。しかし外材がらみで消えてしまった。
昔の技術を使うとうまくいかないか?
→その通りである。しかし、台数が少ないので作ってくれるところがない。
Q:都市から出る食品廃棄物を集めて、地方にバイオマス工場を作る計画はあるが苦戦している。
→まず地域の説明会で地域を啓蒙し、その後市町村長を納得させる手順を踏まないとうまくいかない。コンサルタントの立場では難しい。
コメント
大学におられた時から、行政の委員会などに参画され、幅広に活躍されていたが、退官後、システムの実現に向けて、活躍されているのを実感した。ぜひ、成功させていただきたい。
(野邑奉弘先生監修 山崎洋右、山本泰三 記)