シリカキセロゲル複合断熱材の開発

著者: 中田 将裕  /  講演者: 及川 一摩 /  講演日: 2022年12月10日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2024年02月27日

 

化学部会202212月度 化学技術力の発揮 講演会

日 時: 20221210()         14301700
場 所: 近畿本部会議室 + オンライン

 

講演1 シリカキセロゲル複合断熱材の開発

講師 及川 一摩 氏(化学) 博士(工学)、パナソニックホールディングス株式会社

 

1.熱対策ソリューションの概要

スマートフォンなど近年の電子機器には、多機能化、高性能化、小型・薄型化により多数の熱源部品が狭小空間内に存在しており、低温やけど防止や製品パフォーマンスの向上のため、断熱・耐熱・難燃なども考慮した多種多様な熱対策ソリューションが不可欠となっている。

     及川一摩氏

2.放熱デバイスとしてのグラファイトシート

演者らは高熱伝導性材料として、高分子フィルムを熱分解して製造する人工グラファイトシートを開発した。結晶性が高いため、面方向の熱伝導が非常に優れる(銅の24倍)。また、柔軟性に優れ、折り曲げに強いため、曲面や角部に使用することもできる。高い熱伝導性や柔軟性を利用して、電子デバイス中の発熱源から離れた位置にある放熱板に熱を運ぶことなどが可能となったため、デバイス熱設計の自由度向上に寄与できる。

    図1:シリカキセロゲル複合断熱材 NASBIS® 

3.断熱デバイスとしてのシリカキセロゲル複合断熱材

シリカ湿潤ゲルを超臨界乾燥して得られるエアロゲルは、全ての物質中最も高い断熱性を有する一方、強度が脆く、大量生産に向かないなどの課題があり、実用化が難しかった。演者らはエアロゲルの社会実装を目指した研究を行った結果、シリカキセロゲル複合断熱材(図1)を開発した(注:湿潤ゲルを常圧乾燥した場合、キセロゲルと呼ぶ)。

材料設計では、取扱性と強度を向上させ、熱伝導率の低さを維持する目的で、シリカキセロゲルと不織布繊維の複合シートとした。プロセス設計においては、不織布繊維に含浸させた原料ゾルを、ゾル-ゲル反応によりネットワーク化し、常圧で乾燥させる製造方法を確立した。この高断熱シートを、前述の高放熱シートと組み合わせることにより、機器の過熱による低温やけどなどのリスク低減が可能となる。

4.シリカキセロゲル複合断熱材の耐熱・難燃化

この複合断熱材の課題であった耐熱性・難燃性を向上させるため、フィラーの添加を検討した。汎用の難燃剤フィラーは大半が疎水性で使用できなかったため、親水性の高いフィラーとして、グラフェン、カーボンブラックなど炭素材料を複合化したところ、難燃性の向上に成功した。

Q&A

Q1. 難燃剤として炭素材料を用いるのは逆転の発想で面白い。着想の経緯を教えてほしい。

A1. 偶然の発見である。帯電防止剤として用いた導電性カーボンの添加量が増えると、熱分解温度が上昇していることに気づいた。

Q2. 固体状エアロゲルの熱伝導率が静止空気より低くなる原理を教えてほしい。

 A2. エアロゲル内部の細孔径は数10 nmと、窒素の平均自由行程の68 nmより小さく、ブラウン運動や対流が抑制されるため、空気より低い熱伝導率となる。

(文責:中田 将裕  監修:及川 一摩)