環境保全と食料生産

著者: 山本 有子、山本 泰三 講演者: 高村 奉樹  /  講演日: 2002年11月20日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

【環境研究会:特別講演会】  021120

 

テーマ 環境保全と食糧生産

   キーワード  食糧生産、農業、環境保全、東南アジア、アフリカ

講 師    高村 奉樹氏 (京都大学名誉教授 日本熱帯農業学会会長)
 
   講師プロフィール
         大阪府生まれ。京都大農学部卒。アジア、アフリカなどで、学術調査・指導に従事。

 

1.食糧生産の進展

「緑の革命」といわれるが、ここ30年間で食糧生産は総じて2倍にもなった。食料増産と環境保全のための最近の研究事例として「環境管理9月号」(産業管理協会)でインドネシア、マレーシア、ニューギニアで利用される幹にデンプンがたまる資源植物、サゴヤシについて研究を報告した。            

2.地球温暖化と農業の将来

温室効果ガスのうちメタンは農地や農業と密接な関係があり、稲など植物経由で大気へ放出されている。また、反芻動物、化石燃料、バイオマス、畜産廃棄物、下水処理等により大気中へ放出されている。農業とは直接関係ないが湿地からもメタンが放出されている。地球温暖化の影響を農業中心に考えると次のとおりである。

COが倍増した時の温度変化は、高緯度ほど気温上昇が大きいと予測され(日本は2.54.0度)、稲の収穫量は東北地方5県では増加、他の地域は減少となると予測されている。先人は土地の気候に合わせた品種改良を行ってきたが、地球温暖化により気候自体が変化するため、品種の変更や作期の変更等の対策が必要となる。

発想の転換として、環境に配慮し、化学肥料の利用効率を高める農業(施肥)への取り組みが始まっている。現在、窒素肥料のうち植物が利用するのは50%、残りは流出して、土壌・水質汚染につながっている。また、水田土壌では還元層で脱窒菌によりガス化した窒素が空気中へ放出されている。窒素肥料をやりすぎると籾の施用窒素量あたりの生産効率はむしろ下がるということはすでによく知られている。「環境に配慮する」(行政、研究者等)、「肥料にかかる費用を減らす」(生産者)というように目的は色々だが、使用する肥料を最小限にしようという動きがある。

3.主要地域の食糧生産の状況

人口増加に対応し、かつ環境の保全を図りながらの「持続的な農業の可能性」を地域ごとに模索している。主な農業問題の例を挙げると以下のとおり。

アフリカ:サヘルの砂漠化の問題が深刻。過放牧によってアルベド(太陽反射率)が増大し、高気圧となり、降水量が減っているという説をはじめ諸説あるが、原因について決定的な説はない。降水量が150mm/年を「飢餓前線」とも言うが、サヘル地区では南下している。

中 国:保水性が低い黄土、黄河の断水等の問題がある。降水量により、南部は水稲作(降水量1000mm以上)、北部は畑作(降水量5001000mm)、西部は牧畜が盛ん。大都市は食糧不足地域だが、不足分はアジア諸国からの輸入に頼ることも検討してはどうかといわれている。

インド:灌漑が普及し、地力に対して過剰生産で地下水低下や塩害問題を引き起こしている。

ウズベキスタン:アラル海周辺は塩害問題が深刻。アラル海は干上がっている。

4.日本の海外援助協力の状況(中国、アフリカ等)

日本の海外援助協力の具体的な事例として現地のスライドでの紹介があった。

ザンビアの焼畑:焼畑後、森林が回復するのを待てずに行う現在の焼畑はすでに持続的ではない。道路沿いへの住居の集中によって、近くの森林の利用頻度が高まっており、十分に回復しない森を焼畑しても灰の量が少なく作物の収量も少ない。収量が少ない住居近くの森林破壊がさらに進むという悪循環が生じている。外から持ち込んだ品種改良されたトウモロコシの常畑栽培は、肥料や種子の供給不安定でなかなか根付かない。正規化差植生指数(NDVI)を用いた研究で、持続可能な利用がされている森林、森林破壊が進んでいる森林の分布を明らかにしている。

南 米:コロンビアの国際熱帯農業研究センターでキャッサバの品種改良を行い単位面積当たりの収穫量を2倍にし、その成果は東南アジア、中国南部のキャッサバ生産に貢献している。(キャッサバ:生産量多い品種は耐乾燥性を持つが、シアン含有量が多く、食べる前に毒抜きが必要)

タンザニア:南西部のムビンガ州で丘陵地斜面を多面的に利用した伝統的農法(マテンゴ族の在来農業であるピット栽培法)を基本にエロージョン防止と増収のための栽培方法の共同研究を実施。

Q&A

Q:穀類の生産性、収量の多い作物は?

 ⇒稲は高収量例約10トン/ha1番多い。トウモロコシは約8,5トン/ha。今後農業適地が減少しても、持続的な農業の可能性追求が重要であり、東南アジアでは水稲作にその可能性がある。インドネシアのサゴヤシはでんぷんが多く収穫までに10年かかるが50トン/haにもなる。

Q:穀物の増産があっても、経済成長とともに食生活も変化するのでは?

 ⇒世界の農業供給は、自然条件、経済条件、社会条件の組合せで、穀物だけでなく畜産物消費量の動向、食生活の変化等の要因があり諸説あるが、FAOや世銀では当面、問題なしとしている。

Q:途上国人口が2%/年増加すると世界的飢餓の懸念があるのでは?

 ⇒国により差がある。都市化が進むとスラム化対策として海外援助で農産物の価格が低落し、農業生産がさらに落ちこむことになる。しかし、農村部は食べていけるだろう。一方、飢餓は気候変動などによって大規模に起こりうる。

Q:米づくりは灌漑により塩害などがあるのでは?

 ⇒米国の米作地域でも危険があるといわれている。耐塩性の強いものも開発されている。しかし日本ではハウスの塩類集積水田にしてイネを作ることもある。技術は不可欠である。

Q:日本の海外援助の評価は?

 ⇒地域により抱えている問題は異なり、きめ細やかな援助協力が求められている。「外部からの流入を減らし、地域に合った内部で収まる循環系を構築することが何より大切」であり、ザンビアの事例などは、「村」の視点にたったきめ細かな援助協力を考えることの必要性を示唆している。また、日本政府の協力でタンザニアでも米が5トン/haとれるようになった。一方、フランスなどの稲作援助はどちらかといえばまだ大雑把である。

Q:青年海外協力隊の活躍は?シニアとのコラボレーションはないのか?

⇒若いメンバーの情熱と年配者の経験が必要である。両者の連携により、若者はさらにイキイキとし、成長するだろう。若者たちによってきめ細かい援助がなされ地元に貢献できている。

 

コメント

日本のODA支援は現地の状況にあわず効率が悪いとよく聞くが、農業支援は高度な技術をもとに現地の状況にあった地道な活動が、高く評価されている。なお、本レポートは高村先生と農水省関連の肥飼料検査所森山浩光大阪事務所長のチェックを受けてまとめた。

   (山本有子、山本泰三記)


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