技術者倫理 ―企業内技術者と社会倫理―

著者: 高橋 健夫 講演者: 永井 将、  福本 宗樹、山田 俊満、小林 廣、  神田 修治  /  講演日: 2005年10月01日 /  カテゴリ: セミナー  /  更新日時: 2011年02月22日

 

技術士CPD中央講座の報告   051001

日 時 平成17101日(土)

 

テーマ:技術者倫理  ―企業内技術者と社会倫理―

 

基調講演21世紀における技術の展望と企業技術者・経営者の倫理と責任

永井 将(元日立造船㈱、元日本機械学会副会長、TF&M研究所所長)

 1.技術史観による21世紀の技術の展望

現在は、機械時代が終わってコンピューター時代が始まる一方、熱機関時代の末期で、新時代(直接発電時代)に入る直前。環境・資源と経済との二律背反の閉塞感を解決するには、この技術転換を完遂しなければならない。

 2.地球と人間に対する技術フィロソフィーからみた21世紀の技術のあり方

人間の安全、安心、心の豊かさを得るためには、技術と経済がスパイラルアップし相互加速的に融合して発展することが必要。そのために技術は、地球環境との融合(3Eテクノロジー:EconomyEnvironmentEnergy)、社会との融合(4Eテクノロジー:3E+Emergency対応技術)、人間との融合(H(Human)4Eテクノロジー)が必要。

 3.企業技術者・経営者の倫理と責任21世紀における技術者のあり方を考える―

技術者の倫理と責任には、①事業活動・製品のアセスメントの徹底実施による問題の予見と、経営者・社会等への説明、②企業または社会の関係者検討を積極的に企画・参画し、共通の土俵で問題を解決、③人と人間社会と地球のための3E・4E・H4Eテクノロジーの創造がある。一方、経営者には、④品質(安全)第一の経営方針の徹底と、品質保証体制の確立と実行がある。

 4.技術者が関わる最近の社会問題における技術者の倫理と責任

技術者が関わる最近の主な社会問題(事故・事件)11件について、その原因展開を試み、それに基づいて技術者・管理者または経営者の責任を分析した。その結果、全て上記の①~④のどれかの欠落・違反等が関わっている他は、倫理以前の技術者の常識不足ないし倫理を超えた犯罪行為であり、①~④が重要で、特にほとんど全てが経営者の④、次いで技術者の①がキーであった。

 

 

講演:技術士倫理についての経過と今後の対応方向

福本 宗樹(()日本技術士会生涯教育推進実行委員長 技術士(経営工学)

 1.技術者倫理が取り上げられてきたのは何故か  -技術者の倫理と一般の倫理-

20世紀の特徴として科学技術の進展、人権の伸張、企業組織の巨大化があげられる。これらの成果の間に相互矛盾が大きく現れてきている。自由主義、資本主義は市場主義と倫理性の希薄化をもたらした。科学技術や巨大組織の暴走等、人類の理性による支配を逸脱する事件が発生。理性による人間の自律的確立は、20世紀に大きく進展を遂げた科学技術の分野で最も強く叫ばれる。従って、技術倫理、技術者倫理といわれるものは、一般的倫理とは別に「技術者に上積みして課される」倫理で、その判断には「線引き」と「相反」を勉強することが必要。相反で最も問題になるのは組織内技術者の場合で、「自らの自律的倫理観」と「組織の倫理」の相反の発生である。

 2.内部告発の是非、企業内技術士のありかた

英国は1998年に「公益開示法」、米国は2002年に「内部告発奨励法」が施行された。一方、日本では2004年に「公益通報者保護法」が公布されたが、消費者保護、企業保護的傾向がある。内容も組織内部への情報提供を中心にして外部への内部告発にはむしろ抵抗を示している。技術者は組織内において現場にも近く、「不祥事を最初に知る人」になる可能性がある。「技術的正義感」や「企業内意識、企業における立場」との「相反意識」に悩む立場になり易いともいえる。

 

 

発表

.現代社会における技術者の立場  -最近、次々と暴かれる現場-

    山田 俊満 (技術士(建設)、前日本技術士会理事、山田技術士事務所所長)

1.山口判事の餓死

東京地裁で食料のヤミ販売を中心にした経済統制違反を担当する山口判事(34歳)が194710月に配給のみの生活を続け、ついには栄養失調による疾病を引き起こして死亡した。当時、世間の人々の目には異常な事態として映り、大騒動となった。食料不足が生んだ英雄?

2.事例紹介

核開発、アスベスト、エリン・ブロコビッチ(アメリカ、6価クロムの水質汚染事件)、田中さん(ノーベル賞受賞者)と中村さん(青色ダイオード発明)等、7件の事例を紹介。以上のような事例を確実に調査収集、分析を重ねて、一定の方向付けや場合によっては対策を考え出すことが重要。このように事例、判例を重ねて、これをもとに倫理の判断基準を定める。弁護士などの情報交換は密に行われている。これらの作業に技術士や技術士会が当たるというのも一策である。

 

Ⅱ.水俣病に見る科学技術者の行為と倫理

    小林 廣(技術士(機械、小林ECI所長)

1.水俣病の被害を拡大させた関係者と時系列経過の中での行為

1959年にチッソ水俣工場付属病院長らがネコ実験で発症を確認したが、内部告発は不発に終わった。熊本大学医学部が魚介類の有機水銀説を提唱。しかし、1960年に清浦雷作東工大教授がアミン説を発表後、8年間中央のマスコミが黙る。責任とアカウンタビリティの問題が残る。

2.倫理問われた科学技術

技術、科学の発達・融合から、国家基本計画、研究開発プロジェクトへ。1995年に科学技術基本法が制定されたが、研究者に謙虚な姿勢が見られない。科学技術のエトス(倫理的価値意識)の変遷。今後の最大の課題は環境が資本主義体制に馴染まないこと。1994年関西訴訟の最高裁判決で行政責任は確定し首相、環境大臣は謝罪したが、認定審査基準を変えようとしない。

 

Ⅲ.技術士仲間による倫理学勉強会事例 ―私の倫理学勉強―

    神田 修治 (技術士(船舶、航空宇宙、総合技術監理)、神田技術士事務所所長)

1.倫理学勉強会

PE業務研究会において神戸地区技術士有志約20名で2002年から約2年間にわたり、「第2版科学技術者の倫理」(日本技術士会編)をテキストとして、毎月輪講と意見交換を行った。

2.私の倫理学的悩み(問題意識)と勉強会活動(成果と反省)

①潜水艦(兵器)の開発は善いことか、②倫理要綱を守るだけでよいか、③エゴイズムは是か非か、④多数決は是か非かについて、問題意識の検討を行った。「技術者倫理論文集」をPE業務研究会から出版。今まで悩むだけであったが、考えるための拠り所を得た感じ。技術者倫理、職業倫理は大切であるが、そのベースとして一人の人間の倫理学も大切。カント道徳論、エゴイズム、功利主義、多数決等学んだ。しかし、まだ割り切れぬ心は残っている。倫理的に絶対的基準はないという説もある(マッキー)。CASE BY CASEに考えねばならぬ。創造的活動が大切。

 

質疑応答、意見交換等

コーディネーター:安ヵ川常孝 (技術士(建設、環境、衛生、総合)、㈱環境企画代表)

企業内技術士(高橋健夫氏:建設、山崎洋右氏:機械、山田拓広氏:建設(補))によるコメント発表の後、質疑応答・意見交換を行った。また、セミナー終了後、懇親・交流会を開催した。

 

本講座は()日本技術士会生涯教育推進実行委員会近畿支部との共催で、環境研究会と建設部会が幹事役として実施したものです。

               (高橋 健夫 記)


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