科学・技術の情報発信(実践活動を通じて)

著者: 宮西 健次 講演者: 大草 芳江  /  講演日: 2010年03月23日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

【環境研究会第48回特別講演会】  100323

日 時:平成22323日(火)

 

テーマ:実践活動を通じて、科学・技術の情報発信のあり方を考える

講 師:大草 芳江氏 有限会社 FIELD AND NETWORK 取締役
特定非営利活動法人 natural science 理事

(プロフィール)東北大在学中に起業した。科学・技術の観点から、地域と社会をつなぐことを目指し、活動中。2009年技術士全国大会第4分科会でパネリストとして登壇

1.演者の立ち位置

科学技術のプロとしての情報発信側でも、専ら科学技術の成果を利用するだけの利用者側でもなく、その中間に立ち、この両者をリンクさせる立場をとっている。人は本質的に他者と繋がりたいという思いをもっており、その思いをつないでいくことを標榜している。

2.「リンク切れ」現象と(子どもの)科学離れに対する問題意識

子どもの科学離れをはじめ、近年、一般市民の社会、技術、科学への関心が薄らいでいるが、これは、物事が、社会から提示される段階で、すでに他者(=提示物のプロ)から、完成して自己完結された姿で示される故、その提示物の成り立ちなどについて、疑問、関心が惹起されないことによると考えている。演者自身も、子どもの頃、住んでいた地域が埋立地で、地面を掘っても、コンクリートしか出てこないとの思いから、土の中の生物の状態などへの、疑問、関心が及ばなくなっていったという思い出があるとのこと。また、科学そのものも、学校で習う体系は、「すでに出来上がった、客観的で完全なもの」として取り扱われ、同様の問題を孕んでいる。

このように、物事が、すでに完成形として提示されてしまうことから、その利用にしか関心が及ばず、成り立ちなどに関心が及ばなくなっていることが、一般市民の社会、技術、科学への関心が薄らいでいる原因と考えられ、これを演者は「リンク切れ」と呼んでおり、これを、潜在的な現代病として位置づけ、その解消に貢献しようと立ち上がった。

3.子どもや地域住民の科学・技術離れ対策を、「リンク切れ」の面から実践する

「リンク切れ」は、上記のように、提示された物事に対し、リアリティが実感できないため、起こる現象である。そのリアリティは、その物事を成立させ、完成させた当人が、それを実現させたプロセスとともに内包しているものである。演者は、「人のリアリティにこそ、伝える力がある」との認識から、中高生向けのネット上の新聞である「宮城の新聞」の個人記者として、科学・技術等のプロの方へのインタビューを通じて、その方のリアリティを浮き彫りにして社会への発信を試みている。さらに、情報発信だけでは、五感でリアリティを感じてもらうには限界があることから、実際に特定非営利活動法人natural scienceでは、「学都仙台・宮城サイエンスディ」等の体感イベントも行っている。

演者が、重要視していることは、①人に焦点を当てる、②プロセスに焦点を当てる、③地域という枠組みを意識する、の3点である。完成された、個々の科学・技術的成果も、実現させた専門家の思いや、実現方法は多種多様であり、その多様性、個別性は、リアリティそのものである。その部分を聞き出し、記事にすることにより、「宮城の新聞」では、中高生にもリアリティを感じてもらうことを目指している。

また、体感イベントの「学都仙台・宮城サイエンスディ」では、出展者(=科学・技術のプロ側)と、体感者側との、コミュニケーションのあり方にも留意している。具体的には、出展者側への要請として、携わった本人自身が、やっていて最も面白かった部分を浮き彫りにして、プロセスを、各者各様に語ってもらうことで、発信側、受け手側ともに、科学・技術のあり方を、各々のリアリティをもって実感してもらうようにしている。このことで、コミュニケーションも双方向を超えた、ゆるやかなマルチタスク性が生まれ、よりリアリティを感じやすくなると考えられる。

地域にも目を向けているのは、リアリティを身近に実感できる距離的範囲という意味合いの他、科学や技術という視点からの、仙台、宮城、東北という地域の地域特性を浮き彫りにし、各人(専門家側も市民も)が、各々、地域との関係を意識してもらうためでもある。

このような活動全般を通じ、科学・技術関連を中心に、各人が自らの内発的動機を持って、物事への関心を持ち、再びリンクがつながる社会を、モチベーテッド・ソサイエティと位置付け、その実現を目指していく。

Q&A

Q 宮城の新聞の現状は?

A 訪問に関しては、10万回ページビュー/月ある。ユニークユーザー数は、5001000人/日。平均滞在時間が56分と、長いのが特徴。じっくり情報を読んで知りたい人に見ていただけている。小・中学生対象の印刷版も発行準備中。

Q 演者のされているような取り組みは、日本では遅れており、海外では進んでいるようだ。海外や日本の他地域の先進事例などは?

A イギリスでは町全体のフェスティバルとして、取り組んでいるところもある。日本でも、東京の三鷹などで、先進事例があるようだ。

Q 宮城の新聞でどうやってリアリティを伝えられているのか?

A 取材相手が持つリアリティに伝える力があると思っているので、なるべく取材相手のリアリティをそのままの形で載せるよう留意している。それ以上のことは、「学都仙台・宮城サイエンスディ」など実体験イベントでフォローする。イベント参加者へのアンケートで、多くの方から、新しい発見があったと評価いただいた。

Q サイエンス・エンジェルなど、いろんな問題意識に基づく活動母体が東北にもある。これらのネットワーク化などは方向性として如何か?

A 現状では、そのような方向性までは見えていない。今後の自分自身の方向性としては、「学都仙台・宮城サイエンスデイ」等を通して、そのような方向性を目指すのもいいかと思う。

Q 起業にいたった動機など

A 起業ありきではなかった。大学で研究等をして過ごしてきたが、自分自身の問題意識と距離があり流されている感覚があった。リンク切れは、自分自身の実感としても強くあり、自分自身の内発的なテーマとして出来ることを続けてきた。

Q 教育委員会などへはどうやって食いこんでいったのか?

A 「そもそも教育とは何か」をテーマに取材活動を進める中で、教育の現状やそれに対する教育委員会などの取組みを知りたいという思いを伝え、取材にご協力いただいた。

(意見) 東北はシニアの活用が遅れている。活動の中に取り入れてもらいたい。

コメント

科学・技術情報の発信は、技術者としても重要なテーマであり、環境研究会でもホームページの再構築と情報発信に向けて検討を進めている。一人の若い女性が志を持ち、実践活動の進めていることを知り、勇気付けられた。

    (監修:大草芳江氏、作成:宮西健次)


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