リビアでの環境関連事業

著者: 宮西 健次 講演者: 新居 哲  /  講演日: 2010年06月28日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

【環境研究会第50回特別講演会】   100628

日 時:平成22628日(月)

 

講演テーマ:リビアでの環境関連事業概要

講 師:日本リビア友好協会 副理事長 新居 哲 技術士(経営工学部門)

 

1.リビアの概要、演者とリビアとの関わり

演者は、元神戸製鋼で、1985年~1995年に亘るミスラタ製鉄所の建設および操業指導が縁で、リビアと深く関わりを持つようになった。
リビアの国土は日本の4.5倍あり、内陸部は、ほとんど砂漠である。人口は600万人で、30歳以下が70%強を占める。若年層が多く、この層の失業率は25%以上と推定される。良質の原油が豊富(確認埋蔵量世界第8位)に存在し、国家の資産は潤沢で、無負債国であり、現在、社会資本整備の大型インフラプロジェクトや住宅プロジェクトが目白押しである。政治的には、北アフリカ・サハラ砂漠周辺諸国28カ国の加盟国からなる、サヘールサハラ同盟国のリーダー国である。

2.Great man-made river project GMRAについて

上記社会資本整備プロジェクトのなかで、1960年代に発見された、内陸砂漠の地下の3つの大きな帯水層(地下湖)から、それらの淡水を汲み上げ、沿岸部まで埋設パイプラインを通し、大量の淡水を供給するというプロジェクトがGMRAプロジェクトである。1984年に計画が発表され、1985年から始まった、このプロジェクトは、3兆円のプロジェクトであるが、リビアは潤沢な資金をもとに、無借金で進めている。ただし、工期は当初の終了予定の2009年から、2012年頃にずれ込む見込み。
工期は4期に分割され、総延長5300kmの内径4mPCCP(Pre-Stressed Concrete Cylinder Pipe)を敷設している。また、同時に、沿岸部には人工池をつくり、一時的に運ばれてきた水をためて、そこから、生活用水(28%)、農業用水(70%)、工業用水(2%)に分配する。農業用水の割合が高いのは、国家戦略として、農業振興→自給率UPと将来的見地より、農産物輸出・若年層雇用対策があるからである。この農業振興により、13haの農地と、2万人の農業雇用が新たに生まれ、既存の農家の所得も併せて増加した、としている。

課題として、PCCP管の腐食がすでに始まっており、管路の更生が思った以上に早く必要になっていることがある。これは、砂漠土中の高塩分によりPCCP管の外面側が腐食されることに加え、送られる水が古代化石水のため、硫化水素や鉄バクテリアが含まれ、内面からも腐食されることによる。現状、電気防蝕を採用したり、管の外側をワイヤで巻く補修方法などが取られているが、GRP管による日本企業(積水化学)のPipe-in-Pipe(差込法)が最適の再生技術であることより、将来的には、これの採用がなされ、活かされることが大いに期待される。この管路更生の費用が必要になることがわかり、当初、1リビアン・ディナール(=75円)で、9m3の水が得られる目論見であったが、現在の見直しでは、3m3程度になる見込みである。それでも、他の方法(RO膜法海淡で0.79m3、ヨーロッパからの海輸で1.05m3/リビアン・ディナール)に比べて、大幅な低コストとなる。

ちなみに、この帯水層には、合計で、35000km3(琵琶湖の水量の約1500倍)の水量があり、当局は1000年以上もつ、と言っているが、演者の感覚では300500年くらいではないか、と思われる。

3.世界の水ビジネス

地球上に存在する海水を含めた全ての水を風呂桶一杯だとしたら、人類が利用できる淡水量は、わずか大さじ一杯分に過ぎない。人口増大、新興国の発展に伴い、2000年→2025年で、世界で人類が必要とする水の量は1.3倍になる。健全な水 (綺麗な水) 需要となると数倍に増えると見込まれ、水需要の逼迫が予見されている。これらに伴い、水ビジネス市場は2007年の36兆円から、2025年には87兆円(上下水道の整備運営74兆円、海淡など浄化12兆円)になると予測されている(経済産業省)。

水ビジネスでは、「部材・機器製造」、「装置の設計・建設」、「事業運営・保守管理」の一気通貫体制が持てるところが圧倒的に有利であるが、現在、それができるのは水メジャーと呼ばれるフランスの2社(ベオリアとスエズ)である。最近では、水メジャーを狙う新興企業(シンガポールのハイフラックス、韓国の斗山重工業など)が参入し、対応可能な領域を広げようとしている(部材・機器を日本メーカーから買うなど、まだ一気通貫には至ってはいない)。日本企業は、部材や機器では定評があるが、一気通貫で対応できるところがなく、特に、長期間、使用料などで利益を得られる事業運営・保守管理に進出できる企業は皆無である。これは、日本の水道運営が地方公共団体に2002年まで長期間、独占されてきたことにより、その部分のノウハウが民間にないことによる。

以上から、演者は、日本から、水ビジネスで海外に打って出るためには、官民共同のプロジェクトを組む必要がある、と考えている。実際、本年5月には三菱商事と産業革新機構が主体となって、オーストラリアの水道事業会社買収を発表したが、このプロジェクトには、東京都が水道運営についてアドバイザーとして参画する。冒頭に述べた新成長戦略においても、自治体による水道運営ノウハウなどを活かしたインフラ公共事業の海外展開で、2020年までに19.7兆円の市場規模を目指す、としている。

4.太陽熱発電等の(水以外のリビアとその周辺における)大型プロジェクト

North Africa Solar Projectは、欧州主体で進められている52兆円規模のプロジェクトである。これは、サハラ砂漠などに太陽熱発電や風力発電機を設置し、送電網整備により、ヨーロッパに電気を運ぶ、というもの。リビアの財務・計画大臣は、太陽光発電にも関心を示し、長期的なコスト低減の面から、日本企業の技術力に大いに期待をかけている。
なお、わが国では太陽熱()発電等は希薄なエネルギーとして利用しにくいと考えられているが、広大な砂漠を有し、日照時間が年間の殆どを占めるリビアでは、国土の僅か数%程度の面積があれば、EU全体の電力量を十分賄えるポテンシャルを持っている。

<質疑応答>

Q:内径4mで1000kmにも及ぶパイプはどのような形で敷設されているのか

A:パイプ底が平均地下7m、土被り3mに埋設。適所にマンホール、ポンプ所も設置。管径が4mと大きいので1984年時での技術的見地よりPCCP管とした模様である。現在ならGRP採用が得策と思われる。

Q:リビアの労働力の質は?

A:現地にも外国の大学で教育を受けた優秀な技術者がある程度いる。派遣元の国から来た現地外国人マネージャーやエンジニアが、まず、それらのリビア人技術者たちを教育し、末端までの教育を、その方々に行なってもらう形をとるのが効率的である。

Q:日本から海外への積極的なプロジェクト進出、および、技術移転などを加速するための、有効な施策はあるか?

A:現在の日本のトップ経営層は、海外に打って出て苦労したうえで、実成功体験まである人は少ない。(1995年~2005年、民間だけで湾岸地域に打って出て痛い目に合った日本大手ゼネコンが多いというトラウマ的背因もある。)また、コンプライアンス、ガバナンス(企業統治)、リスク管理の面で、自らを縛り、二の足を踏む経営者も多い。若い人は、さらに消極的で、総合商社にさえ「海外勤務はしたくない」新入社員が入社しており、実際に海外勤務辞令を貰い、辞めていく人もいると聞く。長期的には教育を変える必要性を感じるが、短期的には、民が腹をくくって出て行けるよう、官がバックアップするなど官民共同体制を構築することが大切。1980年代~1990年前半の大型海外プロジェクトの成功の背景には、官民共同の仕組みがあったことを見逃してはならないと思う。 

 (監修:新居 哲、 作成:宮西 健次)


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