わが国の中期的(2020年)エネルギー戦略

著者: 綾木 光弘、山本 泰三、苅谷 英明、上田 泰史 講演者: 植田 和弘、埴岡 公孝、福江 一郎、白木 一成、安ヵ川 常孝  /  講演日: 2012年01月14日 /  カテゴリ: セミナー  /  更新日時: 2012年10月12日

 

地域産学官と技術士との合同セミナー

 

テーマ わが国の中期的(2020)エネルギー戦略

日 時:平成24年1月14日(土)13:3017:00 
主 催:公益社団法人日本技術士会 近畿本部
共 催:一般社団法人エネルギー・資源学会
場 所:大阪科学技術センター8F大ホール
参 加:200

目 次

1.基調講演
エネルギーコンセプトの再構築                                                                             
植田 和弘

2.パネリストの発表
1)エネルギー政策の現状について                                                                      埴岡 公孝
2)エネルギー産業界の最新動向                                                                         福江 一郎
3)今後のエネルギー需給の課題における天然ガスシステムの役割               白木 一成
4)エネルギー政策に関わる検証報告(環境研究会の提言)                           安ヵ川 常孝

3.ディスカッション

会場からの意見・質問
質問事項に関するディスカッション
提言について

以下の記事は講演者の監修を受けております。

                   

        

 

1.基調講演  「エネルギーコンセプトの再構築」 

~わが国の中期的(2020年)エネルギー戦略~

講師:植田 和弘 氏  京都大学大学院 経済学研究科教授

 

Ⅰ.大災害・原発事故と電力・エネルギーシステムの再設計

*  災・原発事故を受けて、エネルギーコンセプトの再構築が必要となってきた。

*  そのために、震災復興と同時に、再生可能エネルギーや節電・省エネの検討を急がねばならない。これまでの政策の反省として、日本は、供給偏重政策から、需要と需要調整重視の政策への変換が重要となってくる。

*  海外に目を転じると、デンマークの風力発電やドイツのアーヘンモデル等、今日本として参考にすべきモデルがある。

*  日本は今、エネルギーコンセプトを戦略的に検討する必要に迫られている。

   

Ⅱ.電力・エネルギー需要

*    電力需要の見直しに伴い、電力使用の許容サービス水準の見直しが重要である。例えば、照明につては、日本は欧米の1.4倍の明るさの中で生活しているが、本当にその必要があるのかどうか?こうしたサービス水準の再評価が必要である。

*    A.ロビンスの「回避の経済学」に説かれているように“節電を通じ発電する”という発想もある。日本の企業や日本社会は、common-pool資源としての電力・エネルギーの分かち合いのライフスタイル、ワークライフバランス、生活の質を根本的に検討する必要がある。

  

Ⅲ.再生可能エネルギーの特質

*    2010年のエネルギー白書では、原子力は一番安価なエネルギー価格となっていた。2011年度末に、電源別エネルギーコストの発表がなされたが、ここでも、原子力は8.9円である。ただし、これは長く使える・稼働率が高く維持できるという前提での計算値である。

*    しかしながら、発電費用には、プラントをこれから作るという前提や発電に要する費用として環境対策費用や補完費用も含める必要もあり、原子力が他の発電方式に比べ、高い・安いの比較はこれだけでは出来ない。

*    一方、再生エネルギーについても、立地条件で計算値に大きな幅が出てくる。もっときめ細かな計算方法が求められる。

Ⅳ.地域エネルギーマネジメント

*    エネルギー需要の見極めとエネルギー利用の質の検討が重要なことである。

*    地域ごとのエネルギー資源の開発とcommon-pool資源の管理が重要である。

*    エネルギー資源の利用とその政策を国際的視野で行い、エネルギーに関連するインフラの再構築が求められる。また、国民的な議論をしっかりと行い、エネルギー政策をしっかりと行い、至急エネルギーシステムの再設計を行わねばならない。

   

(文責:綾木光弘)

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2.パネリストの発表

1)「エネルギー政策の現状について」

講師:埴岡 公孝 氏  近畿経済産業局資源エネルギー環境部エネルギー対策課長

 

Ⅰ.これまでのエネルギー関連政策(法律)と基本的な考え方

① 関連政策の経緯

*  1973年の第一次オイルショックを契機に、エネルギーの安定供給を如何に図るか、つまり、石油の影響を小さくし、自給率を向上させる手段を政策の柱として、法整備を図るなど、エネルギー政策を展開してきたところ。

*  緊急対策としての「石油需給適正化法」、「国民生活安定緊急措置法」、「石油備蓄法」

*  1979年には省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)を整備し、工場、輸送、建築物及び機械器具などの省エネ、総合的な省エネ施策を展開し、世界最高水準の省エネを達成。

*  1880年には石油代替エネ法で原子力、石炭、LNG、水力、地熱、太陽エネ等を促進。

*  1997年には新エネ法を制定し、経済制約で進展が不十分な太陽光、小水力、地熱などを促進。

*  また、2002年のエネルギー政策基本法で、「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用の大きな方向性を掲げ、「エネルギー基本計画」を策定することとされた.

*  その後、新エネルギー、非化石エネルギーの普及の位置づけが大きくなっていった。さらに、再生可能エネルギーの全量買取制度が20127月から施行される。

  

Ⅱ.震災を踏まえた今後のエネルギー政策の視点

*  福島第一原発の事故に伴い、従来の3E(安定供給、環境適合性、経済性)は不変だが、S(安全性確保)が大前提。

*  安定供給については、災害等国内有事も念頭に、分散型電源や電力以外のエネルギー源と共生する複線・多重型システムを実現する必要がある。

*  需要サイドではエネルギー使用の効率化に加え、消費の際限ない増加を許容する社会を問う「節電・省エネ型」への変革が必要。

*  短期、中期(~10年後)、長期の時間軸に沿った方向付けが示された。

 

Ⅲ.資源エネルギー関連予算案(H24年度)のポイント

原子力災害からの復興・原子力安全の強化等
当面の電力需給対策の抜本的強化
再生可能エネルギー・省エネ等の導入支援・最先端技術開発
災害等にも強い資源・エネルギー安定供給の体制整備

  

Ⅳ.新しい「エネルギー基本計画」策定に向けて論点(案)

 政府の総合エネ調基本問題委員会で2012年夏に策定される基本計画への反映を目指す。

見直しの視点

*  需要サイド重視、「消費者」「生活者」重視、国力を支える政策、多様なエネルギーの活用政策

望ましいエネルギーミックス及び改革の方向性

*  エネルギーミックスとして、省エネ・節電、再生可能エネ開発利用、天然ガスシフト等化石燃料の有効活用、原子力発電への依存度の低減(選択肢として維持)
  ※ 客観的、総合的、定量的、時間軸、将来の不確実性を踏まえた議論要。

*  需要構造の改革、供給構造の改革、エネルギーミックスの転換と技術革新の重要性

今後の検証と当面の進め方

*  エネルギーミックスの選択肢の提示と基本計画(今夏)策定への反映

*  当面は「省エネ・節電対策」「再生可能エネルギー」「化石燃料のクリーン利用」を集中検討。この際に課題、リスクとコストなどを検証。原子力の位置づけなど

(文責:山本泰三)

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2)エネルギー産業界の最新動向」

講師:福江 一郎 氏  三菱重工業株式会社 特別顧問

Ⅰ.今後の日本のエネルギー戦略

*    原子力発電は、最低でも現状維持の方向性で進めたいが、最終的には、国民的議論で方向性を決める。

*    太陽光/風車/地熱などの再生可能エネルギーは、コストや立地に検討の余地があるが、日本でもその気になれば結構ポテンシャルがあると思われる。

*    全量買取制度で普及促進に弾みをつけたいが、買取価格の高止まりを避ける制度設計が重要である。

*    電源のベストミックスを考えれば、再生可能エネルギーは、20%程度が目標である。残りの80%を「LNG」、「石炭」、「原子力」で分ける。経済性とエネルギーの安定供給が重要。

*    火力発電の効率改善は、CO2削減のために必要である。

*    現状より20%の省エネ社会確立が必要。スマートコミュニティ(HEMS,BEMS,CEMS)の社会実証の結果を反映させる。

   

Ⅱ.再生可能エネルギー普及のために

*    NEDOの試算によれば、再生可能エネルギーのポテンシャルとして、現在の日本の発電量をまかなうことが可能である。

*    日本では、再生可能エネルギーの中で、風力発電の陸上、洋上合わせると、最もポテンシャルが高い。

*    世界では、洋上風力発電が進んでおり、また洋上風車の大型化(直径180m程度)が進んでいる。

*    風力発電の問題点として、発電量の変動が挙げられるが、風車を一定速度で回転させる技術や、他の発電システムとの組み合わせ、蓄電システムの利用等により安定した電力の供給が可能である。

  

Ⅲ.電源のベストミックス

*    主要国の電源別発電電力量の構成として、世界的には「原子力」「石炭」の比率が多い。

  

*    日本とEU(全体)は、似た電源別発電電力量の構成となっている。

*    日本は、戦後、長年にかけて、現在のような電源別発電電力量構成を達成している。

*    日本のCO2削減シナリオ(2030年に1990年比30%削減)を達成するためには、運輸・民生・産業の各部門での省エネが大きなカギを握る。また、発電部門での効率改善も必要である。  

Ⅳ.省エネの推進/スマートコミュニティの効用

*    日本のCO2削減シナリオ(2030年に1990年比30%削減)を達成するためには、運輸・民生・産業の各部門での省エネが大きなカギを握る。また、発電部門での効率改善も必要である(三菱重工では、発電部門での効率改善に資する設備の開発にも取り組んでいる)。

 

*    スマートコミュニティとは、「エネルギーインフラ」「交通インフラ」「通信インフラ」を融合し、総合エネルギーマネジメント(HEMSBEMSCEMS等)によるエネルギー消費の節約と平準化を図る。

(文責:苅谷英明)

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3)「今後のエネルギー需給の課題における天然ガスシステムの役割」

講師:白木 一成 氏 大阪ガス株式会社 エネルギー事業部計画部 環境エネルギー政策担当部長

 

Ⅰ.エネルギー需給の課題

*  原子力依存低下から電力供給不足対応が課題

*  経済産業省資源エネルギー庁電力需給対策本部資料(H235月)より抜粋説明
供給面対策(分散型電源(ガスコージェネ、再生可能エネルギー等)の導入)
需要面対策(ガスの活用による電力需要を抑制)

*  需要側の系統電力抑制(ピークカット)対策は、Save(省エネ)、Change(ガス空調、コージェネ等他燃料への転換)、Shift(夜間電力使用への移行等)に整理できる。

 

Ⅱ.ガスシステム等による電力ピークカット対策

*  電気をガスに置き換えるChangeで電力ピークカットが可能。

*  空調を電気に大きく依存しているので、夏と冬に電力ピークがきている状況。ガス空調にすれば電力ピークカットができるのは明らか。

    

*  電気空調からガス空調へのリニューアルによる電力ピークカット効果(事務所の事例)
→ ビルの年間デマンド54%削減、年間消費量を40%削減

*  発電機付きGHP(ガスエンジヒートポンプ)で更なるピークカットが可能。

*  コージェネは発電容量分のピークカットが図れるが、排熱利用空調システムを組み合わせれば、さらに大きなピークカット効果。

*  電力平準化のための蓄熱空調とガス空調について

→ 電力平準化の目的は、「電力設備の稼動率向上」と「電力設備の増大抑制」によるコスト低減と電力の安定供給であり、電力負荷率とピークカット率を評価指標としている。

→ 平成9年の電力平準化問題は、コスト低減が主目的であったため電力負荷率改善が主目的であった。しかし、平成23年以降は電力不足対応のための電力ピークカットが主目的

→ ピークカット率での評価は、一般電気空調 ≪ 蓄熱空調 ≪ ガス空調 となる。

*  ガス空調シェア25%を仮に50%拡大することであらたに1200万kWの効果に繋がる。

*  コージェネ電力ピークカットは現在460万kW導入されており、これを倍増できれば、あらたに460kWの効果に繋がる。

*  大阪ガスでは家庭用固体酸化物型燃料電池(SOFC)の開発や、遠隔管理システムの促進も行っている。

  

Ⅲ.環境性影響評価に係わる課題(電気のCO2排出係数問題)

*  電気CO2係数(kg-CO2/kWh)は、排出量の計算には全電源平均係数が用いられるが、削減効果の計算には電力需要の影響を受ける電源の係数を用いるべき。

*  電力の需給変動(省電力対策強化)の影響をうける電力源は『火力電源』と推定される。原子力発電が需要の多寡で変化はしていないことを考慮すべき。

Ⅳ.天然ガスの安定供給

*  災害時のガス供給として、低圧導管は震度5以上の感震自動遮断、中圧以上は遠隔遮断

*  非在来型天然ガスとしてシェールガス(アメリカでガス価格が下がり気味)が有力である。世界的にはガス埋蔵量は在来型より非在来型が7倍と見込まれる。

(文責:上田泰史)

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4)エネルギー政策、政策にかかわる検証報告(環境研究会の提言)

講師:安カ川 常孝 氏  技術士(建設、衛生工学、環境、総合技術監理部門)
日本技術士会近畿本部環境研究会代表幹事
株式会社 環境企画代表取締役

Ⅰ.技術士とは

*  本論の前に技術士の仕事の紹介をさせていただく。
技術士は技術者の最高の国家資格で、有資格者7万人を有し、専門20分野をカバーしている。また、上位の総合技術監理部門もある。

Ⅱ.日本技術士会近畿本部・環境研究会の情報発信活動の紹介

*  この10年間、エネルギー問題、環境問題等の講演会・セミナー・シンポジウム・出講講座・提言の新聞連載、ホームページでの要旨紹介等、多くの情報発信を行ってきた。

Ⅲ.今回のセミナーの計画準備

*  長期的な目標への重要な通過点として、2020年をターゲットに設定し、産官学・技術士の協同という内容でのセミナーを掲げ、基調講演者・パネリストを選定した。環境研究会としても、エネルギー政策提言の可能性を検討しながら、準備を進めてきた。

 

Ⅳ.各エネルギーの位置づけ

*  原子力について
福島第一原発の事故とその収束、国の施策の方向等の現状を鑑み、地域ごとの電力安定供給体制の整備が重要となる

*  再生可能エネルギーについて
長期的には、普及しシェア拡大をしていくことが重要で、太陽光・風力・地熱・バイオマス等が挙げられる。ただし、2020年以降に向けての地盤作りになる。

*  石油・石炭
石油は1980年以降、新設の発電所建設はない。
石炭は環境対応のCCS技術は2020年では対応できない。

*  天然ガス
シェール・ガスの利用が注目を浴びており、長期的価格安定の期待もでき、環境面でも有利である。
ドイツのシーメンスの長期戦略にも、LNG(天然ガス)比率が大きく増加する予測をしている。
CO2
(炭酸ガス)排出量の面等からも有利である。

Ⅴ.提言

提言に至った背景
現在、日本の3大都市圏では、LNG火力発電の比率が高い。
その3大都市圏において、関西地区はLNG火力発電の比率が他の2地域に比べ低い。

  

 

提言内容
現在の40%から他地域並みの60%に引き上げるため、総量で1千万kWKWの発電設備増設を提言する。東京湾、伊勢湾などでは更なる取組みが進みつつある。
そのための課題は多いが、これの実現により関西・西日本はもとよりわが国の復権・再生に繋がる。特に環境アセスメント評価の実施を含め、必要性についての共通認識の醸成、早期の設備建設着工も並行して進められるような取組みを検討・提言していきたい。
 

 

(文責:綾木光弘)

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3.ディスカッション

<まず会場からの意見について>

植田:コーディネーター)
安カ川氏よりせっかくご提案いただいたので、本日の議論はこの提言を中心に議論を進めていきたい。
まず、会場から何かご質問とかご意見がないでしょうか? 数件のご質問を受けたい。

T氏(技術士)よりの質問
今回の事故を受けて、今後の原子力発電について、安全・無害を確立するためにどうすればよいか?
発電コストも含め、国民にきちっと説明する必要があると思うが、各パネラーの方の意見を伺いたい。

I氏(技術士)よりの質問
エネルギー対策について、今年、来年をどのように対応していくか?
原子力発電については災害関連の廃棄物・核燃料リサイクル対応をどのようにしていくのか?
全員のパネラーにお聞きしたい。

I氏(技術士)よりの質問
国の方針として、LNGの確保についてどのように考えられているか、お聞きしたい

IW氏よりの質問
再生エネルギー関連で、どれが一番有力と考えられているか?
今後、本当にそれが増加していくのか?
それともそんなに増加していかないのか?
見解をお聞きしたい。

    

<質問事項に関するディスカッション>

植田)それでは、順番にお答え願います。

白木)今年、来年をどう乗り切るのかというご質問にお答えしたい。補助金利用も考えながら、ガス冷房システムの普及を頑張って進めていくのが良いと思う。原子力については、安全確保を第一に考え、慎重に取り組むべきである。

福江)原子力の問題は、事故以来東電への一方的な責任論に終始している。事故を起こしたから、とにかくダメというのではまずい。
まず、きちっと議論する。つづけるのか?止めるのか?止めるなら、どのように止めていくのか?また、PWRとBWRとでは、考え方が全く違うので、冷静に議論すべきです。もんじゅの問題を含めた、核燃料処理については、きちっと処理できるよう、現技術レベルの再確認とさらなる技術革新をはかっていくべきです。この革新技術に取り組めば、世界があっと驚く技術が生まれる可能性もある。
一方、事故以来、省エネに関しては、大きな実績が出てきている。さらに全国民あげて取り組む必要がある。太陽光発電や風力発電については、現状コストの半減が目標となる。

埴岡)平成23年度予算の三次補正、平成24年度概算要求で、電力需給対策の抜本的強化をはかることとしており、自家発電設備の導入支援で300億円を計上するなどしている。しかし、民間からの応募が少ない状況である。次年度以降も、引き続き必要な対策を総動員することで電力需給対策に万全を期したい。
また、需要側の構造変革と消費ピーク等を抑制する視点等から、124日から始まる国会を睨んで省エネ法改正の検討を進めている。

改正の概要

ピーク時間帯の電力使用を押さえるため、同時間帯の使用量が割増しで計上される仕組み等を検討し、需要平準化の取組を定着させる。

現在23機器ある “トップランナー機器”に加え、建築材料等、他の建築物や機器等のエネ効率を向上させる機器を新たに追加する。

LNGの確保

配布したH24年度資源・エネルギー関連予算案の4つ目の項目にあるので、ご参照頂きたい。

(植田)原子力発電について、原子力委員会で検討・公表しているデータがある。今回は、廃炉や除染もコスト要素に入れている。英国の“Call for Evidence”の考え方を参考にしている。国民の皆さんに、是非確認しておいていただきたい。

<技術士会環境研究会からの提言について>

(植田)安カ川さん、先程のご提言に関して、何か補足されることはありますか?

(安ヵ川)時間軸に2020年を入れた理由ですが、2030年という時間軸も検討しましたが、これでは、あまりにも長く、いつも2020年はいったいどうなのかということに戻ってきてしまう。そこで、まず10年先について、提言を纏めることとした。
また、技術士会近畿本部環境研究会としては、日本の発電・送電システムの現状を鑑み、60サイクル地域(関西)での電力確保に関するセキュリティ対応を真剣に考えねば、ということに至ったのです。

(白木)100kW級の発電施設は、これからは建設が困難です。IPPで実績のある10kW級×10基の方が現実的です。
最近では、数万kW級でも、環境アセスメントにかける必要性があり、それに要する時間を考えると、2020年に100kW級はとても無理があると考える。環境アセスメントをかけながら、建設も同時進行というのも、現実的でない。実績のある小型発電を建設していくのが現実的です。

(福江)門外漢が100kW級を作れというのは、まずいと思う。環境アセスメントが最大の問題となる。
東京湾や伊勢湾も実は施設を分散しようとしている。やはり、専門家(関電)に任せるべきである。LNGに関しては、中国も購入に走っており、価格が高騰している。すぐに脱LNGを考えないといけなくなる時代が来るのではと思う。石炭利用も考えていくべきだ。

(埴岡)定期検査を終った原子力の再稼働は、安全への地元の理解を得ながら進める必要があるため、直ちには難しい状況と考えている。一方、電力需給対策は待ったなしで進める必要があり、あらゆる政策を総動員して当たる事としている。
なお、今般ご提言の、大阪湾岸の発電所についてはコメントする立場に無いので控えさせていただくが、例えば2011729日のエネルギー環境会議で公表された資料によれば、原子力を火力で補うとすれば、年間3兆円超の出費増となる。
すなわち、単純に電気料金に上乗せするとすれば、一般家庭(300kWh/月)では月7,000円の負担増、中規模工場(25kWh/月)では、月75万円の負担増となる。これは、34人分の給料に匹敵し、おいそれとリストラできない中小企業にとっては死活問題と考える。

鈴木 胖 (元エネルギー・資源学会会長、会場からの特別コメント)

原子力の事故は、技術自体よりも、管理に欠陥があったと考える。反対の立場で意見を言うと、審議委員会委員から外されるなど、これまでの行政の問題は大きい。また、情報のオ-プン化を是非とも徹底してほしい。
現在、日本が制度として遅れている部分は、再生可能エネルギー分野に限らず、いろんな供給ソース・システムへの参入の障壁が大きいことである。
提言のあった2020年では、まだまだ根本的解決とまでは行かないだろうが、それ以降に期待したい。日本が、太陽光発電や風力発電でもたもたしている間に、世界は進んでいる。
一方、関電は元々火力発電を増設する予定で検討を進めていたが、原子力発電が勢力をもってきて、取り止めた経緯があり、火力発電については、一からの検討ではない(素地がある)。原子力の再稼働につては、福島で悪い面を実証してしまった。しっかりと検証していかないと再稼働の道は険しい。

     

小林 悦夫 (元兵庫県環境局長、会場からの特別コメント)

原子力発電の再稼働は必要だと思う。今回の問題は、まだ原因究明が不足している。技術の問題なのか?別の問題なのか?
再生エネルギーは最大で全体の30%しかカバーできないのではないかと考えている。今後の発電について有力なものとして、バイオマス、水力、火力(LNG)を挙げたい。環境アセスメントには、一般的には7~8年を要する。
電力使用に関して、需要側の対応が重要である。ぬれタオルの水のようにまだまだ絞れる。需要者のソフト改革(意識改革)が必要なのでは。30代、40代の使い捨て世代の教育も大事である。一人あたりのエネルギー使用量を検討し、それ以上の使用者については、割増料金を取るような制度が必要だと考える。

   

(安ヵ川)今回の提案を出した趣旨は、提案の良し悪しを議論するためのものではない。これをきっかけに産学官の自由な議論を期待してのものである。
施設建設は、勿論関電が中心になって行うべきであり、関電でないと分からないことが多くある。ただ、いろんな立場の人が集う検討組織の形成が必要であると考える。
節電のお願いだけではダメであり、真にどのように計画していくのかを議論することが大事なのであり、その起爆剤としての提案と考えていただきたい。

福岡 悟 氏 (日本技術士会近畿本部長、会場からの特別コメント)

今回の提言の補足として、話させていただきます。これまで、技術士会の提言は、主に日本技術士会の委員会や防災会議からの提言でした。近畿本部として行う提言としてはこれが初めての試みです。環境研究会を中心に真摯に内部議論を重ねてきて今回の提案に至りました。今回の試みに関して賛否両論あると思うが、そういう意義があり、そこのところを是非ご理解願いたい。

    

(植田)提言いただいたことには、大いに意義があると考える。今回の議題に関し、技術がこれからどこまで進むのか?コスト・安全に関しても、そんなに簡単に答えは出ない。
使用できる客観的データとしてIEAのデータがあるが、過去を見ても合っていない部分も多いが、今参考にするにはこれしかない。
このようにこれぞ正解というものは、実は存在しないのかもしれない。その意味からも、とにかく議論を尽くすことが重要となる。日本のエネルギー政策はこれまで討議するという部分が弱かった。これを強めていくことが重要である。この分野の専門家と一般人が集まり、しっかりと議論していきたいものです。

(文責:綾木光弘)

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