女川原子力発電所のご講演について

著者: 田岡 直規 講演者:  /  カテゴリ: 東北地区  /  更新日時: 2012年04月24日

 

環境研究会 東北研修旅行 参加者報告

日 時:平成2432021
場 所:宮城県

東北電力 女川原子力発電所のご講演について

田岡 直規  技術士(機械・総合技術監理部門)

 

「東北電力女川原子力発電所の設計・被災・復旧状況」と題して
東北電力株式会社 原子力部原子力技術訓練センター 
古舘淳光所長より以下の内容でご講演頂いた。

1.女川町復興計画:復興の5つの柱と基本目標  

①心豊かな人づくり(人材育成)
②心身ともに健康な町づくり(保険・医療・福祉)
③港町産業の再生と発展(産業)
④安心・安全な港町づくり(防災)
⑤住みたい港町づくり(住環境)

 【基本目標】とりもどそう、笑顔あふれる女川町

 

2.女川原子力発電所の被害状況の概要

【1号機】524千kW 昭和596月運転開始(地震発生前:運転中)

・屋外重油貯蔵タンク:倒壊
・高圧電源盤:常用のA系高圧電源盤が焼損(B系および非常用電源は問題なし)

【2号機】825千kW 平成7年7月運転開始(地震発生前:起動中

・補機冷却水系:原子炉補機冷却水B系および高圧炉心スプレイ補機冷却水系が浸水(A系の機能に問題はなし)

【3号機】825千kW 平成141月運転開始(地震発生前:運転中)

【全号機】使用済燃料貯蔵プールのプール水がわずかに飛散。

「止める、冷やす、閉じ込める」が健全に機能。

 

3.地震直後の電源の状況

①非常用電源:非常用ディーゼル発電機は全て健全(待機状態)
②外部電源:5回線中4回線停止

 

4.敷地高さの決定経緯等

1)敷地高さの決定経緯

学識経験者による社内委員会(昭和43年~)

・1896年明治三陸津波、1933年昭和三陸津波等の津波記録
・869年貞観津波、1611年慶長津波なども考慮(文献調査)
・想定津波3m程度

以上をもとに委員会の専門的な意見を踏まえて敷地高さを14.8mに決定

2)新知見に対する対応

・1号機の営業運転開始以降も、その時々の知見を随時収集しながら津波に対する安全性を確認

女川2号機設置許可申請時に想定津波見直し(3m程度→9.1m)
貞観津波の影響調査(地質調査)
土木学会手法による津波評価(約+13.6m)

以上より敷地(14.8m)の安全性を確認。

 

5.まとめ

①未曾有の大地震、大津波に対して、女川原子力発電所は「止める」「冷やす」「閉じ込める」という安全確保の仕組みが有効に機能。

②今後の取り組み

・被害状況の確認、各設備の健全性確認、被害設備の確実な復旧
・緊急安全対策、シビアアクシデント対策およびストレステスト等更なる安全対策
・評価の確実な実施
・今回の地震データの詳細解析・影響評価
・福島第一原子力発電所の事故情報の収集、訓練の反映

 

【感想】

福島第一原子力発電所については、40年も前に米国から導入され、設置された巨大化・総合化・複雑化した科学技術であり、ハード面、ソフト面でも40年前の法律、技術基準、安全基準、知見に基づくと同時に、米国での大河近くの設置環境を想定した科学技術である。この40年間に急速に発展した科学技術成果、研究成果や知見、さらには日本固有の設置環境の想定、すなわち地震大国であり貞観地震レベルの巨大地震・巨大津波という日本固有のリスクへの対応がこの巨大化・総合化・複雑化した科学技術に十分には反映されていない。

一方、貞観津波(869年)の痕跡は、東北電力女川原子力発電所の建設所のチームが、1990年に女川原子力発電所2号機の設置許可申請の際に調査の一環としての地質学的調査で初めて確認された。さらにその知見を生かし、10mの想定津波に対し、総合的に判断して、敷地を14.8mの高さに造っておいたことが今回の津波に対し効果を発揮し、直撃回避につながった。今回の地震、津波、原子力発電所事故では、連鎖反応的な「想定外」の事象に対し、その制御を模索し現在進行形で実施しているのが現状である。特に、地震・津波災害の想定研究、原子力発電所の事故処理等のように、過去に十分に経験や知見がないもの、あるいは十分に想定・制御できないものは、科学技術研究における未知の部分の解明、複雑化の制御を現在進行形で実施しなければならないという、いわゆる広義の「作動中の科学」と認識することが必要であると考える。

さらに、「作動中の科学」をはじめとした最近の科学技術成果や知見を、システムの中枢部だけでなく、周辺部も含めた巨大化・総合化・複雑化した科学技術、及びその安全性等の管理に反映する。さらに、平常時に最悪の事態をはじめとした「想定外」の想定を行い、社会や公衆に情報公開し説明責任を果たすことが必要であると考える。


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