石巻港、松島港の視察と放射線の測定

著者: 鍵谷 司 講演者:  /  カテゴリ: 東北地区  /  更新日時: 2012年04月24日

  

環境研究会 東北研修旅行 参加者報告

日 時:平成2432021
場 所:宮城県石巻市(港から日和山)、松島湾

石巻港、松島港の視察と放射線の測定

鍵谷 司  技術士(衛生工学、環境、建設部門)・第一種放射線取扱主任者
環境計画センタ- 

はじめに

震災1年後の宮城県を視察した。石巻市では、がれきは撤去されているものの街はゴーストタウンであった。あの時に思いを巡らすと頭が真っ白になる。私は、NaIシンチレ-ションサ-ベイメ-タを持参し、先々で空気中のγ線を測定した。20日に石巻港、海岸から数百m離れた門脇小学校、その裏山の日和山を視察した。また、宿泊地の松島では早朝に松島港と瑞巌寺を訪ねた。被災現場を技術士の眼で見ると多くの知見や新しい発見があった。

 

1.   石巻港付近の視察状況

320日午後から宮城県石巻市石巻工業港から沿岸部に沿ってガレキや廃自動車置場を経由して被害の大きかった南浜地区、その奥まった日和山の麓に立地する廃墟となった門脇小学校付近を視察し、その後に小学生等が必死で逃げた裏山の日和山を視察した。                                           

【南浜地区・門脇小学校】

小学校は日和山の麓に位置し、港から750m程度離れた平坦地である。高さ6.37.3mの津波が到達し、周囲の全ての木造住宅は壊滅し、鉄骨・コンクリ-ト製病院や工場が散在していた。建物は見えるが、損壊が激しく、地盤沈下も生じていた。ライフラインが復旧していないので、全く使えない状態であった。3階建ての小学校の校舎は残っているが、一部火災跡があり、廃墟となっていた。当時の河北新報によると「児童約230人は校庭から墓地脇を抜ける階段を使い日和山に避難した。また、校庭に避難した多数の車が津波で押し流されて激突し、火災が発生した」とあった。

この地区は南北にやや細長い日和山(高さ56.4m)があり、小学校は南側正面のやや急斜面の麓に位置している。波高分布図によると、津波に対して真正面に対峙していたので被害が大きい結果となった。

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        日和山麓の門脇小学校と壊滅的な被害を被った南浜町(海岸から750m圏内)

【日和山(ひよりやま)から被災地を望む】

ここが多くの人々を救った高台である。日和山は旧北上川河口に位置する高さ56.4mの丘陵地で、松尾芭蕉も訪れた風光明媚な所である。海岸まで約1kmであり、沿岸部の被害状況を一望できる。この山に避難した多くの人々が住宅地を襲う圧倒的な破壊力を見せつける津波の襲来を絶望的に見ていたテレビ画面を思い出した。息を飲むようなすさまじさだった。

傍らで写真を撮っていたカメラマンに出会い「景色が素晴らしいので、桜の頃にもう一度見たいが、京都なので遠すぎて---」となにげなく話したら、奇遇にも「先日、京都外大で被災地の写真展を開催した。」と言われた。「プロのカメラマンか」と尋ね、名刺交換した。彼は、石巻市出身でご家族も大きな被害に遭われ、現在、仮設住宅で生活し、3000枚以上の被災地の写真を撮り続け、展示会や講演活動を通じて支援を呼びかけているとのことであった。フォトグラファー阿部美津夫氏(写真中央)のブログを見ていただきたい。早速、まだ早い桜の木の下で石巻班の記念写真をカメラマンに撮影していただいた。

    説明: http://wbl.jp/cms_usr_img/usr10141/page1050/image/P3201841.JPG 説明: http://wbl.jp/cms_usr_img/usr10141/page1050/image/P3201844.JPG

   海側の被災地に向けられた献花    海岸方向の震災写真を撮影中      石巻班記念写真

【津波遡上による波高分布】

石巻市広瀬地区と石巻地区の津波到達区域と波高分布図によると、波高の分布状況には次のような特徴がみられる。

① 海(津波)に向かって直角に急斜面が立地する日和山麓の門脇地区の津波高さは約7mに達する。

② その側面では4m以下に急激に低下し、真裏は1.8m以下であり、北上川側ではやや高い。

北上川を挟んで東側1kmの牧山は急峻な崖にさえぎられているが津波の遡上高さは約5.5mで1m以上も低い。牧山頂上から沿岸へ延びる尾根の小高い(標高;150)は津波方向に対してやや斜めに立地しているためと考えられる。

津波を防ぐことができない平坦地では広い範囲に浸水するが、逆にブロックしていないので津波は巨大化することなく、だらだらと広範囲に押し寄せるが、その波高は2m以下と低い。

つまり、これらの特徴をまとめると、津波の高さを抑えるためには、真正面から津波に対峙しないことがポイントであり、できるかぎり津波を分散させることが津波対策のヒントではないかと考えられる。

 

松島湾で1mの防波堤が街を救った理由について

21日早朝、松島湾及び瑞巌寺を訪れた。松島港に面した松島グリ-ン広場の松林が青々と茂り、全く枯れていないことに驚いた。護岸や観光船の着岸設備などにも大きな損壊が見当たらない。広場と港の間には高さ約1m程度の防潮堤が取り囲んでいる。わずか1mの防潮堤が津波を防いだようだ。ここから十数km離れた石巻湾や塩釜港では数mから10mもの津波が押し寄せて甚大な損害が発生したのに、この松島湾ではほとんど被害はなさそうである。数十cmの地盤沈下が見られる程度であり、不思議な現象がみられた。

湾内には多くの島々が分布し、これらが堤防の役割を果たしたとの定性的な説明は多いが、島々はいわば連続壁でもなく、隙間のあいた堤防であり、津波を防ぐとは到底考えられない。この付近は水深が浅いことは知られているが、津波の性質は水深が浅くなると盛り上がって波高が大きくなる。地形(袋型)、水深分布、島の配置や形状等が津波の波高を低下させたのであろうが、津波に関するほとんどの調査報告は、津波が巨大化した事例や原因の解析ばかりである。数mの高さで押し寄せた津波を軽減できた理由はなんであろうか。

1mの防波堤が街を救った理由について

島の外海側では津波が遡上して被害が大きかったが、その裏側では大きな被害はなかったと聞いた。前述したように海に向かって真正面に位置する日和山の麓では津波は高く、その周囲へと分流して裏側では1/3以下に低下した事例と同様な事象であったと考えられるがわずか1mにまで低下することは理解しがたい。

素人の知識であるが7mもの高さで襲来した津波を打ち消せる方法は一つだけ考えられる。湾内に到達した波が合成されて巨大津波になることは良く知られているが、それならば当然その反対も起こりうる。つまり、島々にぶつかった津波の波長が乱れて合成された結果、低くなったと考えると理解できる。理論的に波長が同じならば、位相がずれて最高波高と最低波高が重なると波の高さはゼロになる。松島湾ではこのような事象が生じたため、巨大な津波が消されて低くなったと考えることもでき、一人納得している。

巨大防潮堤で真正面から津波を受け止めた場合、波は跳ね返されるが、第二波、第三波等が襲来するまでに分流する時間がない場合には次々とこれに重なるので、いくらでも巨大化する可能性がある。確かに堤防は、津波や波浪を防げていれば有効であり、堤防を越えるまでの時間を遅らせることができる。しかし、一旦、堤防を超えた時にはその大きな位置エネルギ-が一挙に運動エネルギ-に転換されて低地へ流入し、甚大な被害をもたらすことになる。つまり、巨大津波の発生原因にもなったとも考えられる。対策の基本は、波が巨大化しないメカニズムを解析すべきであり、松島にヒントがあるのではないかと考える。

説明: http://wbl.jp/cms_usr_img/usr10141/page1060/image/P3211856.JPG 説明: http://wbl.jp/cms_usr_img/usr10141/page1060/image/P3211852.JPG 説明: http://wbl.jp/cms_usr_img/usr10141/page1060/image/P3211864(1).JPG

            穏やかな松島湾の風景       広場前の防潮堤(高さ約1m)  防潮堤上部の剥がれた化粧

 

空間放射線線量率の測定結果

【放射線の測定】

Nalシンチレ-ションサ-ベイメ-タ(5000,精度1/1000μSv/h)を持参して、京都市内、大阪空港、仙台市、石巻市、松島など先々で空間放射線線量率)を測定した。測定は、高さ約1m10秒間に示された実効線量率を読み取り、範囲を記録した。

仙台空港に降りて放射線を測定したら京都や大阪よりもかなり低かった。逆に言えば、関西地区はかなり高かった。

京都、大阪の空間放射線線量率は0.10.2μSv/hでかなり高かった。舗装道路、コンクリ-ト構造物の近くで高く、とくに、地下鉄や地下街は高かった。測定した地点はいずれも街中のコンクリ-ト構造物の近くである。なお、京都市のモニタリング結果(伏見区)0.040.06μSv/h程度である。

② 宮城県下の測定値は、バスの中、舗装された道路付近でも0.030.06μSv/hで、構造物中では0.16μSv/h程度と高いところもあった。なお、某地点の芝生上で0.9μSv/hのホットスポットを見つけた。46日間で防護基準の1mSvに達する強さである。このような異常値は原発事故以外には考えられない。

【解説】

東北地方の放射性物質による土壌の除染基準は0.23μSv/h以上であるが、このうち、大地のそれを0.04μSv/h としている。なお、除染基準は、あくまでも土壌を除染するための基準であり、汚染されていない関西にそのまま適用することはできない。六甲山や比叡山など関西の山々は花崗岩であり、放射性ウラン等が含まれているので高い傾向にある。一方、宮城県下の地質は堆積岩である砂岩や粘板岩であり、放射性物質の含有量は少ないと言われている。

 

【感 想】

私の専門は廃棄物分野であり、災害廃棄物の仮保管場、そこでの作業などをつぶさに視察したかったが、通り過ぎただけであった。ガレキの早期撤去は、復興の第一歩であり、被災地だけでは速やかに対応できないので、広域的な処理が不可欠であるが、遅々として進んでいない。関西においても災害廃棄物の受け入れを検討しているものの、付着した放射能に対する懸念から反対が強く、受け入れる自治体がない。宮城県の空間線量率は関西よりも低いこと、大阪府の災害廃棄物の受入指針では、付着する放射能は100Bq/kg以下を対象としている。これは41日より基準改正された食料品の新基準と同じである。食べ物と同じ基準であっても反対が強い。あらためて何とかできないかと痛感した。

上記の詳細は「環境計画センタ-」HPの「放射性物質・災害廃棄物のQ&A」並びに公共投資ジャ-ナル社の廃棄物専門誌「環境施設」6月号で紹介します。最後になりましたが、非常に有意義な視察でした。幹事の皆さんに感謝いたします。

 


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