JAXA 角田宇宙センター施設見学

著者: 福岡 悟 講演者:  /  カテゴリ: 東北地区  /  更新日時: 2012年04月27日

 

環境研究会 東北研修旅行 参加者報告

日 時:平成24321
場 所:宮城県角田市君菅字小金沢1

JAXA 角田宇宙センター施設見学 

    福岡 悟 技術士(建設・総合技術監理)

 

1.JAXA(宇宙航空研究開発機構)について

まず角田宇宙センターについて記す前に、角田宇宙センターが所属する独立行政法人宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency,以下JAXAという)について簡単に述べることとする。JAXAは日本の航空宇宙研究開発にかかわる、文部科学省宇宙科学研究所、独立行政法人航空宇宙技術研究所及び特殊法人宇宙開発事業団の、宇宙航空研究開発三機関が統合され200310月「独立行政法人・宇宙航空研究開発機構」通称JASAとなったものである。

JAXAの目的は「大学との共同による宇宙科学に関する学術研究、宇宙科学技術に関する基礎研究、宇宙に関する基盤的研究開発並びに人工衛星等の開発、打上げ、追跡及び運用を平和目的に限り総合的、計画的に行うとともに、航空科学技術に関する基盤研究、航空に関する基盤的研究開発等を行うことにより、大学等における学術研究の発展、航空科学技術の水準の向上並びに宇宙の開発、利用の促進を図る。」こととしている。
その活動は具体的には宇宙科学、人工衛星(打ち上げ含む)、観測画像、宇宙環境利用、科学ロケット・輸送システム、航空プログラム等の開発研究及び基盤技術の確立である。

 

2.角田宇宙センター

我々は仙台市の北東部に隣接する多賀城市で震災状況の説明を聞いた後、バスで角田宇宙センター(以下センターという) へ向かった。センターは宮城県南部の角田市にあり、一般的には東京から東北新幹線で仙台駅へ、そこで東北本線に乗り換え仙台駅から船岡駅へ、船岡駅からタクシーで約10分のところ、いわゆる田舎にあり、広大な敷地でもあった。素朴な疑問としてなぜこのようなころに最先端の研究開発施設があるのかと思われた。

説明: 角田宇宙センター全景写真   写真-1   角田宇宙センター全景(JAXA HPより)

センターでは正門前で警備員が我々一行のバスに乗り込んで人員の数を数えてから、OKが出て入場が可能となるなど、警備の厳重さが伺えた。正門からすぐ近くのセンター東地区の宇宙開発展示室に向かった。展示室では、宇宙輸送系推進技術研究開発センター エンジン研究開発グループ技術領域統括 青木宏氏(工学博士)と上条謙二郎東北大学名誉教授(工学博士)に説明を頂いた。

センターはJAXAの実験開発施設の一つで、秋田県田代市にある田代ロケット実験場とともにJAXAの実験開発施設の一つである。このセンターは液体燃料ロケットエンジン開発をする施設、及び打ち上げ前のエンジン燃焼試験等を行う施設を併設している。またセンターはJAXAの宇宙推進系の研究開発を主な業務としており、打ち上げに用いられる実際のロケットエンジン開発や将来のエンジンの技術研究などを行っているとの説明があった。
展示室には試験に使用したロケットエンジンや複合エンジン、研究内容を説明したパネルとともに、これまでに打ち上げられたロケットの1/20の模型で、これまでの我が国の人工衛星打ち上げの歴史やロケット開発の様子がわかるよう展示がしてあった。

センターの主な施設にはロケットエンジン開発試験設備として、高空燃焼試験設備、供給系総合試験設備、高圧液体酸素ターボポンプ試験設備、ロケットエンジン研究主要試験設備として、液体水素ロケットエンジン要素試験設備、ロケットエンジン高空性能試験設備、極低温ロケットエンジン要素試験設備、極低温インデューサ試験設備、推進薬供給系統試験設備がある。

センターの全体概要説明を受けたのち、一行は説明の都合上半数ずつ二班に分かれて説明を聞いた。我々の班は西地区にある酸素ターボポンプの単独試験を行う施設の制御室、実験に使用された実ターボポンプ、液体燃料貯蔵庫、タービン排ガス燃焼処理装置などを見学した。技術士会からはこれらのエンジン、施設等について専門的な質問があったが説明の上條博士から、丁寧で詳しい回答があった。

  写真-2   宇宙開発展示室における説明風景

  写真-3   同上展示室内の歴代宇宙ロケット模型

 

燃焼実験場はすり鉢状に山を削り取ったところへ噴射口が設けられており、噴射された火が周りの草木に燃え移らないよう、スプリンクラーを設置して水を噴射するようにしているとの説明があったが、斜面にセメントモルタルを吹き着ければ延焼は防げるように思われた。それだけ斜面の緑を大切にしているということかもしれない。

   写真-4   打ち上げ前のエンジン燃焼試験場

 

続いて、また展示室に戻りもう一班と入れ替わった。こんどは展示室の別室で、失敗から学ぶことをテーマに展示されている、1999年に打ち上げに失敗し海底に沈んだが引き揚げられた、ロケットエンジン(H-Ⅱロケット8号機のLE-7エンジン)の実物を前に、失敗となった原因等について説明を受けた。
失敗の原因はLE-7エンジンの
水素ポンプのインデューサがキャビテーションによる振動などで破壊したことによるとのことであった。さらに屋外に展示されている小型上段ロケットエンジンLE-5および大型一段エンジンLE-7について、展示ブースの中へ入って実物に触れながら説明をして頂いた。

 

3.H-Ⅱロケット実物大模型スペースタワー見学

角田宇宙センターからバスで同市内の台山公園に展示してあるH-Ⅱロケット実物大模型(全長49m、直径4m)を見学した。ロケット模型に隣接してコスモハウス(各種人工衛星実物大模型、ロケットエンジの模型等の展示)、スペースタワー(高さ44.9mの展望室あり)があったが時間の都合でロケットの写真撮影のみでバスに引き返した。

   写真-5 .H-Ⅱロケット実物大模型とスペースタワー 

往復の車中で、上條博士がこれまでかかわってこられた日本のロケット研究開発にかかわる苦労話やエピソードなどをお話しいただいた。博士はこれまで航空宇宙研究所角田宇宙推進技術研究センター・ロケット推進研究部長、東北大学教授・東京大学工学部非常勤講師を務めてこられ、現在は東北大学名誉教授・流体科学研究所監事JAXA招聘研究員をされておられるとのことで、当日は我々への説明のためにわざわざ出向いていただきました。また博士は今回の研修旅行の企画者である山本環境研究会副代表の友人とのことでした。

お話の中で、JAXAの前身である航空宇宙技術研究所と宇宙開発事業団との研究開発の進め方の違い。H-1ロケットの日本における研究開発と当時(1970年頃)の総理による米国からの輸入の問題、ロケット用液体酸素ポンプ試験設備の建設にあたって市販のものを使うことによって非常に安くあげることができたこと、当時後発メーカーであった神戸製鋼が参入にかなり積極的で大変安い見積もりを提出したこと等が特に印象に残った。

博士はセンターへ戻られるとのことでセンターまでお送りし、そこでお別れをした。我々一行はここから仙台空港へ向かい、今回の研修旅行を無事終了した。


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