石巻の現状と復興のカギ

著者: 深田 晃二 講演者:  /  カテゴリ: 東北地区  /  更新日時: 2012年04月26日

 

環境研究会 東北研修旅行 参加者報告

日 時:平成2432021
場 所:宮城県

石巻の現状と復興のカギ

深田晃二  技術士(衛生工学部門)

 

はじめに

昨年3月11日発生した東日本大震災の悲惨な状況を見聞きするに付け、阪神大震災の被災者の一人として、是非とも駆けつけたい気持ちに駆られた。幸い社会福祉協議会が仕立てたボランティアバスで、4月と7月の2回、共に3泊4日で東北に足を運ぶ事が出来た。今回は、環境研究会が計画した3月20日~21日の東北研修旅行に参加させて頂く事が出来た。現地での研修受け入れには技術士会東北本部の絶大なるご協力を頂き、石巻と女川の現状を見て回る有意義な機会を与えて頂いた。

昨年4月の時は石巻市での民家の泥掻き作業、7月は南三陸町での養殖アンカー作りやがれき片づけであった。今回の研修旅行報告は各人が訪問先ごとの分担を決めて報告することになり、私は、昨年との比較も出来る石巻市について報告することとした。

 

石巻市内の現状視察

石巻視察組8名は、東北本部の技術士の方の自家用車2台で市内を巡回視察した。私は有限会社ジオテクノ中里産業 代表取締役の中里俊之技術士(応用理学部門)の運転される車で視察させて頂いた。

乗車に先立って配布された石巻市震災復興基本計画によると、『被災状況として、最大津波高さ8.6m以上を観測』『平野部の30%(約73km2)が浸水し、被災住家は約7割(53,742棟)、その内4割が全壊。沿岸域では工場や事業所、学校・病院・総合支所等の公共施設が壊滅的な被害を受け、都市としての機能が失われた。地盤沈下は牡鹿地区で最大120cm、市内の広範囲で地盤沈下や液状化が発生した』とある。中里氏の説明では石巻市内の死者3,300名、行方不明者370名であるという(人口約15万人の約2.5%に相当する)。

  

写真①は昨年4月の石巻市内の写真である。道路確保の為にがれきは道端に搔き集められ、家から出るガレキや泥もその山に追加される状態であった。写真②は市内を流れる旧北上川の昨年の左岸の様子である。写真③が約1年後の今年3月の同じ場所であるが、ガレキや破壊された家の撤去が終わっただけで護岸も十分に出来ていない事がわかる。

基本計画では、復興の課題として『地盤沈下による被害が大きく、旧北上川沿岸部では満潮時に冠水する状態』『石巻港における工業機能の早期回復』『未来のために伝統・文化を守り、人・新たな産業を育てる』などが記されているが、緒にも着いていない。

復興整備計画としては、『津波・高潮に対する防御の整備(防潮堤・河川堤防・土堤の整備)』『無堤地区・不法係留漁船の解消(土堤の無い地区や、プレジャーボート・漁船等の不法係留が被害を拡大した要因と捉えている)』『地盤沈下による内水排除の整備』『石巻漁港・魚市場の早期復旧』『半島部での被災集落の高台移転』等が挙げられている。

配布の視察ルート図に従って、集合場所→石巻工業港→門脇・南浜地区→石巻漁港→大門町ガレキ置き場→日和山→石巻市役所前→集合場所と回わって頂いた。

 

沿岸部に向かう道すがら、モクモクと煙を吐く日本製紙の工場が目に飛び込む(写真④)。普通の工業地帯の風景であるが、それが如何に普通でないか、実現が難しい光景であるかを、工業港・門脇地区・漁港に車から降りたって実感することになる。

工業港にはガレキが山と積まれ、付近で動くものと言えば鴎(カモメ)だけである。海から200m程の距離にある3階建ての門脇小学校は水没し窓ガラスは全て無くなっている(写真⑤)。彼岸の中日で、そばの墓地には十数名の墓参の姿があり、また小学校の前には花束が供えてあった。河口付近の4階建ての石巻市立病院の外観は、1階の窓は全て板張りされている。上階は被害がないように見えるが、現在は使われていないとのことである(写真⑥)。

 

付近のガレキは片づけられているが、復興の気配や人気は感じられない(写真⑦)。

漁業港では、地盤沈下のためアクセス道路部分だけが約1mかさ上げされている(写真⑧の中央黒い部分がかさ上げ用粘板岩砂利)。低い部分は今後どのように浸水対策をするのか、防潮堤だけで安心して土地が再利用出来るのか。想像を絶する費用や時間を思うと絶望感が襲う。ここに技術士の知恵を集結できないか。大門町のガレキ置き場には分別の出来ていないガレキが蛇のように長く高く積まれていた(写真⑨)。

 

おわりに

標高55mの日和山から見た市内の様子は、市内全域がまだ更地のままで「復旧」も「復興」も出来ていない。中里技術士は案内の最後に「ガレキが片づかないと復興できない。全国自治体でガレキを受け入れるよう計らって欲しい」との強いメッセージを発信された。

      以上


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