津波災害減災への計算工学の貢献

著者: 綾木 光弘 講演者: 後藤 仁志  /  講演日: 2012年07月31日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年10月12日

  

【繊維部会・環境部会 合同講演会(近畿本部と共催)】

日 時;2012年7月31日(火) 17:3020:30
場 所;大阪市 アーバネックス備後町ビル 3階ホール

 

講演-2 津波災害減災への計算工学の貢献

講演者:後藤 仁志氏  博士(工学) 京都大学大学院工学研究科教授

演者の研究室では、人間を取り巻く自然(おもに治水と環境の両面から)や、人間社会における諸問題を多数粒子系の粒子間相互作用を伴う力学系としてモデル化し、粒子系シュミレーション(以下S.と略す)による計算力学を軸として社会基盤工学の基礎学理を深化させるための研究を行っている。今回、津波減災のための技術として、2種類のS.を取り上げて、技術の現状と今後の展開を述べる。

1.粒子法による流体S.

粒子法は、水塊の分裂や再合体を伴う複雑な水面の挙動を比較的容易に追跡できる。ここでは計算原理と計算事例を紹介したい。ただ、粒子法はそのままでは圧力場にノイズが生じるという欠点があるため、いくつかの高精度粒子法を開発している。

東日本大震災の震災規模を神戸大震災の時と比較して、グーグルマップやウィキペディアの内容を紹介。津波の遡上高さを、土木学会海岸工学委員会HPより紹介。Web上で公開された被害写真を紹介。

地震・津波による都市域の複合被害は、水工系検討、計画系検討、構造系検討、地盤系検討方法がある。本日は、先の2つの検討について話す。まず、水工系での演算方法には、S.の方法として格子法と粒子法があるが、演者は、境界条件の設定が比較的容易な粒子法を用いている。
3次元粒子法として、数値波動水槽を用いて、防波堤の設計技術の確立等を目指しているが、これは、流速・圧力の解や時間発展的解が得られる。この方法を用いて、流木を伴う津波の橋桁への衝突や山地渓流での橋桁の流木閉塞と、洪水氾濫を例示してみる。なお、この手法は、ハリウッドのCG画面にも応用されている。

2.群衆流モデルによる避難行動S.

計画系検討方法のひとつとして、群衆S.の例を紹介する。水害時の群衆避難のS.は、避難計画策定の有力なツールである。個人行動の単純化による個体ベースモデルや、個人間の相互作用に物理的作用と心理的作用を入れ込んだ群衆モデルが考案されている。海水浴客の津波に対する防波堤後への避難S.、都市高速道路トンネルの火災避難S.の実例を示す。
群衆モデルの中でも、DEM型群衆モデルは、非常に有効なS.方法である。研究室の研究成果として、四条烏丸交差点でのS.をHPに掲載しているので見ていただきたい。

Q:海底の地殻変動は、このS.でできるか?

A:計算的には可能。気体・液体・固体、すべて流用できる。ただ、固体の場合は計算条件を特別なものにしなければいけない。

Q:3連動地震のS.や、原発事故の放射性物質の拡散予測システムSPEEDIでのS.等信じられるものなのか?

A:3連動地震のS.は、広域でのS.であり、今回の狭い範囲でのS.と手法や目的が違っている。
SPEEDIでのS.は、自然界の不確定要素が大きく信じてよいとは必ずしも言えないが、不確定要因の条件設定の精度を上げれば、S.精度も大きく上昇し、信じるに足るものとなるはずである。 

(文責 綾木光弘)


著者プロフィール 著者
> 
主な経歴
> 
資格
> 
その他
>