ドイツの電力・再生エネルギーとわが国の電力のあり方

著者: 苅谷 英明 講演者: 諸富 徹  /  講演日: 2013年04月02日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年05月28日

 

日本技術士会近畿本部環境研究会】 第57回特別講演会

日 時:平成2542日(火)
場 所:アーバネックス備後町ビル3Fホール

講演 ドイツの電力・再生エネルギーとわが国の電力のあり方

講演者:諸富 徹(京都大学大学院 経済学研究科 教授)

 

 1)東日本大震災の衝撃~分散型電力供給システムへの萌芽的変化

震災前と震災後の非常に大きな変化は、電力を自分の問題として考えるようになり、以下の3点が急速に進展した。
  ①自家発電の導入
  ②蓄電池の導入
  ③高水準の省エネ
これらは、原発からの脱却の必要条件となる。

これまでは、原発/石炭火力/一般水力をベース電源とし、石油/天然ガス火力/一般水力/揚水式水力で、ピーク需要を賄う運用をしてきた。一方で、再エネ(太陽光、風力等)は、供給能力をコントロールすることが難しいため、安定供給電源としては適切でないと考えられていた。しかし、東日本大震災を契機に、不安定電源を導入するための発想の転換が必要となった。 

 2)電力自由化

これまでの日本の電力事業は、規模の経済、公益性(安定供給、ユニバーサルサービス等)の点から地域独占がとられてきた。しかし、インフラが十分に普及した現在、規模の経済性の限界、料金の高止まり、イノベーションの停滞、課題設備投資のインセンティブとコスト増の弊害が出てきている。日本では、平成12年から段階的に小売自由化をしているものの、PPS(特定規模電力事業者)のシェアは伸びず、既存事業者の圧倒的支配市場である。

  

一方、現在では、再生エネルギー、スマートグリッドの台頭、消費者による「電源選択権」により発送配電分離の導入の議論が可能になってきた。発送配電分離の論点として、
  ①同時同量の達成という制約
  ②供給と需要の価格弾力性が低い
  ③供給責任を誰に負わせるか
  ④投資インセンティブの事業者への付与の仕方
  ⑤事業者の短期利潤最大化高度と長期投資の期間ギャップの存在
等がある。

また、日本の既存送電網は、集中電源から一方向に大量に電力を送ることを前提に設計されており、再エネが大量導入された場合の送電網になっておらず、新しいタイプの送電網の形成に投資していく必要がある、という問題がある。

3)日本版FIT(固定価格買取制度)が直面すると予測される課題とその解決策をドイツ版FITに探る

課題として次がある。
①賦課金の高騰問題
②その経済影響
③グリッド・パリティ到達と「FIT後」の再エネ市場統合等

ドイツでは、賦課金が免除される産業があり、その料金が家庭に乗せられている。ただ、市民は、電気料金が高くなるのも嫌だが、原発よりもいい、と考えている。

ドイツ版FITの雇用効果再計算結果として、以下の2つのシナリオで検討した結果、2つのシナリオの中間的なところに収まると考えられるが、全体として純効果は少なくともプラスで、2030年時点で8万人~10万人の純雇用を創出する可能性が高い。
  ①シナリオA:化石燃料の価格が高騰する
  ②シナリオB:化石燃料の価格が高騰しない
太陽光発電の費用は劇的に低下しており、1988年から約20年間で、約1/5に低下している。

  

ドイツにおける2010年の再エネ発電設備への投資主体として、関電レベルの電力会社の投資は少なく(2.1%)、個人(57.4%)、農家(19.8%)、個人事業家(8.1%)等が多い。これは、個人等が「エネルギー組合」となる組合を作り、投資しているからである。「組合」の特徴とは以下の通りである。

・「組合法」に根拠をもち、定款に基づいて運営されている。
・民主主義的な意思決定を徹底させるため、一人3株までしか保有できない。
・地域密着型で海外展開しない。顧客は同時に出資者でありパートナーである。
 組合銀行に対して権利と責任を持っている。
・リーマンショック以降の預金口座シフト。
・再エネ事業、建築物の断熱改修に積極的な融資をしている。

    

    

 

4)ドイツ調査から得られた示唆

・事業組織形態としての「組合」の可能性がある。これは、民間企業でもなく、公共事業でもない、市民主体の住民参加型企業である。

・地域金融機関の重要性として、再エネを中心とする持続可能な発展を支える資金調達手法とリスク管理手法の開発、経済性と社会性・エコロジー性の両立を目指すGLS銀行の存在がある。

Q&A

Q1:安定供給の公共性をどう確保するか

A1:電力が自由化されたら、現在の電力10社の供給責任ははずされる。ただし、供給責任を除々にはずすのが良いと考える。

Q2:発送電分離や小規模電力になれば発電効率が悪くなり電力が高くなるのでは?

A2:これまで電力に競争原理が働かなかった。経済学では競争原理が働かない社会ではパフォーマンスが悪いと言われている。

Q3:日本は都市集中型であるため、ドイツのような分散型モデルはなりたたないのでは?

A3:小水力や地熱発電のポテンシャルがある。これらをどのように活用していくかが重要で、都市型でも工夫でやり方があると思われる。

Q4:発・送・配電分離になった場合の事業形態について。

A4:発電:民間、送電:独占、配電:エリア独占、となると思われる。その場合、送電の独占企業は、規制と情報公開が徹底的に要求されると思われる。

コメント

電力の自由化やFITで先行するドイツの事例をもとに、日本の電力のあり方について経済学の観点からご講演いただいた。
現在、注目の高い話題において、分野の異なる専門家の講演であったこともあり、質問等が活発におこなわれた。

(作成 苅谷英明)


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