不動産リスクマネジメント <あるサイトの土壌汚染に係る問題の構図から見えてくるもの>

著者: 宮西 健次 講演者: 久保田 俊美  /  講演日: 2014年12月06日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2015年01月15日

  

近畿本部 衛生工学部会・近畿本部登録 環境研究会 合同講演会 要旨

公益社団法人 日本技術士会 近畿本部 衛生工学部会 第6回 例会
公益社団法人 日本技術士会 近畿本部登録 環境研究会 第67回 特別講演会

日時:2014126日(土)1345分~1650
場所:大阪シティアカデミー 第4会議室

 

講演1 不動産リスクマネジメント

    ~あるサイトの土壌汚染に係る問題の構図から見えてくるもの~

講演者:久保田 俊美氏   一般社団法人 リスクマネジャネットワーク 理事

1.日本リスクマネジャネットワーク(JRMN)について

社会の要請に応えてリスクマネジメントの普及および、リスクマネジャとしての資質向上を目的とし、20087月に設立された。会員の多くは、大阪大学の「環境リスク管理のための人材養成」プログラムを終了したリスクマネジャ(日本リスク研究学会の認定を受け、登録した者)が中心で、広く一般市民向けに主に環境リスクに関する公開セミナーを開催したり、会員交流会を通じて啓発に努めている。

  

2.土壌汚染とは

土壌汚染とは、植物の生産、地下水の涵養など人類を含む生命の営みに欠かせない土壌が、人類にとって有害な物質に汚染された状態をいう。自然由来の汚染も含まれるが、人類の生産活動が大きな汚染原因である。大気汚染や水質汚濁等が、未然防止可能なのに対して、土壌汚染は、過去に土壌・地下水に放出された化学物質により、すでに発生している問題である(法律名も前二者が「防止法」であるのに対し、土壌汚染は「対策法」)。このように、土壌汚染対策は、過去の放出行為に対する負の遺産のリスク対応という側面がある。

環境リスク評価は、土壌汚染対策法において規定されており、リスク評価→リスク判定→リスク管理のステップで定量的に進められることとなるが、実際に土壌汚染があった場合には、リスクマネジメント的な管理を考察するよりも、手っ取り早く土壌の掘削除去に走ることが多い。

また、法人及び個人が所有する土地資産は、減損会計の適用、資産除去債務の計上が義務付けられ、土壌汚染リスクは、環境や健康面だけでなく、資産面での企業の業績や不動産リスクとなった。実際、汚染対策費用が地価の30%を超えるようなケースではその土地は塩漬け状態(潜在的ブラウンフィールド)になる可能性が高い。

3.小鳥が丘団地土壌汚染問題の経緯と実態

本住宅団地は、R社が販売した戸建分譲地に隣接して産廃処理業の許可を得たA社が、再三の行政指導にも従わず、不適切な処理を続けていた。その後、戸建分譲地の住民の苦情から、R社がA社の土地を買い取り、約20年前に汚染除去を十分行なわず、新たに開発・分譲を行った。市による上水道給水管の交換工事を契機に、土壌汚染に端を発する悪臭、地下水汚染等が発覚し、2007年、当該住民がR社に対して、土壌汚染に対する損害賠償を求めて提訴した。
原告の主張の中では、汚染除去の義務、不適切な土地の宅地開発等については、R社の責任は認められなかったものの、土地履歴の説明義務を怠ったことに対して、損害賠償の一部が認められた。控訴審でも第一審判決を支持、R社は控訴を断念し結審した。

このように、土地には、環境関連の法整備が整っていなかった頃の「負の遺産」が、土壌汚染という形で残っていることも多い。この判決からは、汚染除去の義務までは、土地の売主に求められなかったものの、説明責任が求められた。これはすなわち、「土壌汚染により生じるリスクは環境リスクだけでなく、土壌汚染が生じている土地の所有者や土壌汚染の原因者である企業の業績や不動産の資産価値等にも影響を与える」ということである。

Q&A

Q 土壌汚染対策法における要措置区域と地下水汚染についての関係を説明してほしい。

A 土壌溶出量基準を超えていても流域で飲用利用がなければ、要措置区域にならず、形質変更時要届出区域となる。又、要措置区域の指定に係る基準の項目の追加や基準値の変更にも注意が必要である。1,1-ジクロロエチレンは、2011年に基準値の見直し(緩和)があり、本物質のみの要措置区域では、見直しにより基準適合となる土地について区域の指定を撤回する。逆に塩化ビニルモノマーや1,4-ジオキサンは、新規に基準ができる見込み。

(文責 宮西 健次、監修 久保田 俊美)

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