判りやすく心に響く環境教育を目指して

著者: 西島 信一 講演者: 西谷 寛  /  講演日: 2015年01月10日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2015年02月06日

 

環境研究会 第68回特別講演会

日 時:平成27110日(土)午前10時~12
場 所:アーバネックス備後町ビル3Fホール

 

演題 判りやすく心に響く環境教育を目指して

講演者:西谷 寛 環境省環境カウンセラー、日本児童文学者協会会員、日本環境教育学会関西支部会員、潜水士、賀川豊彦記念館総合研究所研究員 海と空の約束プロジェクト代表、
2014
10月「生物多様性アクション大賞」審査委員賞受賞(国連生物多様性の10年委員会)
所属 神戸市生活情報センター所長  著書 絵本「海と空の約束」 

1.環境教育はまず自分の実践から

環境教育を行うには「私はまず自分の身の回りの実践から」と考えた。
その実践の一例とは以下の通りである。

1) 12年前から 太陽光発電開始

南向きの屋根に太陽光発電を開始した(2002727日)。約12年間の積算電力量は、 43,410kwh 1か月平均 361.8kwh/月  発電能力は当初のまま継続中。

2) 自宅の壁面緑化

自宅のクーリング作用、都市の緑化、生物多様性拠点の形成、食料を生産、鳥虫のオアシスの形成、憩いと安らぎ、コンポスト肥料の消費 などを目指して壁面の緑化、野菜や果物の生産に取り組んでいる。孫や、友人の子供たちが世話や収穫を体験することを通じて、生産物を大事に味わうことを実体験させている。
ブドウ、ヤマノイモ、カンキツ類、ベリー類等多品種を植えている。狭い庭でも壁面やベランダを使えば結構、栽培できる。

3) 雨水(天水)利用

阪神淡路大震災後、雨水利用と雨水の地下浸透を実践している。利用は雨樋を加工して溜まる仕組みを作った。微々たることだが、地下水の涵養、ヒートアイランド防止、水循環の健全化、災害防止にも一役。
神戸市では都賀川水害にみられるように都市型水害が発生している。雨水の地下浸透を推進する事が重要と考える
 (小金井市では雨水枡に穴をあけるなどして地下浸透に行政ぐるみで積極的に取り組んでいる。)
これらの実践は環境教育活動の際、実例の説明にも有効に利用できており、説得力を持って受け取められている。

2.演者の神戸市役所での取り組みの経緯

演者は神戸市役所の職員として以下の職務経験を持っている。

1) 食品衛生行政

2)環境行政

環境教育を企業、市民、NPOの方々と河川環境の改善、地域の環境向上、学校の環境向上など各フィールドで、行政としての支援業務を4年間担当した。その後環境省に派遣され 容器包装リサイクル法の10年目の改正チームに2年間所属し改正や啓発事業にかかわった。派遣終了後神戸市で、生物多様性関連、環境アセスメント、環境モニタリング等を担当するセクションに4年間従事した。

3) 消費者行政

その後消費者行政に従事するようになった。消費者問題は環境問題と関連するもので、消費者教育推進法ができ、ESDの中では消費者教育も環境教育も近しい関係にある。エコスマートな商品を選択するのは消費者で、消費者が持続可能な社会を実現する大きな部分を担っている。最近、仕事上の講演会では環境問題とリンクさせた研修を行っている。また職場の展示コーナーでも環境問題を大きく扱っている。消費者庁では持続可能な消費をテーマの一つにあげて施策を進めるようになった。

エネルギーも含めて限りある資源をどう使っていくかは消費者サイドとしても重要な視点である。また農業問題にも触れ、宇根豊氏のドイツ視察の話として「ドイツ人は自分が住む農村の景観や果樹園の森を守るために地元で生産された農作物を高くとも食べて支えて行かないとだめだと思っている」という高い価値意識についての話を象徴的に取り上げたい。
  
※宇根豊氏は虫見板を使った減農薬の農業の創始者で著書多数(NPO農と自然の研究所元代表) 

3.環境問題に取り組むきっかけと、環境絵本「海と空の約束」の活用を通じた環境教育

1) 環境問題を意識する事になった原点

父が理科の先生で、野菜作りを手がけ、屋根に黒のホースをどくろ状に置いて太陽熱で温水を生み出し、その手伝いをした。そのときに太陽光のエネルギーのすごさを身をもって体験させてくれた。父の影響が大との事。
環境教育は家庭、学校、地域それぞれで行う必要がある。川の活動を通じて学んだ子供たちが次の学年に進み、今度は活動の指導役になっていく、そんなサイクルになって行く事を願って活動している。

2)「海と空の約束」を作るきっかけ

以前から自然観察会、現場での環境学習会の際、子供たちや父兄にメッセージを送ることができる教材の必要性を感じていた(自然界の循環の事や、生物のつながりの事とかを子供たちに伝えたいとの思いがあった)。そこで、20年前に娘に綴った童話を基礎に環境絵本「海と空の約束」を出版し海外でも使えるように英語版も作成した。
この絵本を、紙芝居にして、自然観察会環境学習会等の活動の後に子供たちに見せてメッセージを届けている。  

3) 国内や海外での活動にも環境絵本や紙芝居が利用されている

・明石の天文科学館での太陽光発電の勉強会、大阪の海遊館でも利用した。
・東日本大震災の支援活動の場でも使ってもらった
JICAに説明に行って隊員に提供し、ケニヤやタンザニアの活動に利用された。
・ハワイ、シアトル、インドネシアでも利用されている。
Facebook
による情報発信のおかげで、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語、クメール語に訳したいとの依頼があり翻訳資料が完成した。
 

4.環境教育の実践例の紹介

・新長田の近くの保育園のビオトープの整備と環境学習のお手伝い
・明石市東部の準用河川「朝霧川」の保全、河口の大蔵海岸の海浜性植物の保全
・須磨海岸での環境学習(紙芝居と振り返り環境学習)
・東灘の白鶴美術館付近の住吉川での学校の先生への環境教育の進め方の勉強会の開催
  (河川も地域のビオトープ)
等、様々な場所で多様なセクターとコラボして活動を継続中。
 

5.環境教育の実践を支えている演者の原体験

学生時代に口之永良部島(屋久島の近く)で「足るを知る人間らしい暮らし」(大人も子供も普通にものを大切にする)を学んだことが原点である。
この事を次世代に伝えるのが私たち世代の役割と思っている。(演者本人も学生時代の自転車(40年物)を今も整備しながら使っている。学生時代に買ったリュックを背負い、机は70年前の父のものを各世代で使っている事を環境学習会などで披露して物を大事にする事を伝えている)。 

6.まとめ

1)童話「海と空の約束」を子供たちへのメッセージと意見交換

多様な生命を育む海とやさしい雨を降らせる「空」や生き物たちが協力して「水」をきれいにするという物語を読み聞かせたあと・・、子供たちに質問!!
教えるだけでなく、子どもたちが自分で気づいたり考えることが重要だと考えている。
そして、環境や私たちができる事を自分で考えてもらう事が活動の骨子である。
別に女性の声で読み聞かせるDVDも作成しておりぜひ参考にしていただきたい。(子供達には女性の声のほうが反応が良い) 

2)環境教育の中で、「判りやすさ」、「総合性」で特に注意している点は

実践してくことを、具体的に考え、伝える。
生物多様性、3R、気候変動、エネルギー問題、食糧問題など、環境問題は全て繋がっていると思う。できるだけ繋がっていること、総合的に考えることが重要だと考えている。

       

Q&A

Q1:ドイツの例で景観を守るため、食料品が高くとも地元でとれた農産物を買うという姿勢は、教育で養われたものか?

A1:歴史があって農業者も住民も景観を大事にする習慣がある。家庭、地域、学校でもずっと伝えて行っているものと思う

Q2:文部科学省はどうなっているのか?各省庁で総合的なつながりがないといけないと思うが

A2:文科省の環境教育についてはすでに実行されている。消費者庁の消費者教育は緒に就いたところで、先生方はどのように進めていったらよいか迷っている状態であり、支援センターを作って進めていく必要があるとされている。神戸市では既に取り組み始めており、文科省のモデル事業として県立舞子高校環境防災科で、3年間消費者問題で環境の話をする取り組みに参画している。

Q3:生物多様性についてのお考えは

A3:人類は生物を基礎にして生きている。何を食べているか、何を薬にしているかなど、緑を守る、環境を守る事が生物の営みを守って行く事になる。生物を守らないと人類の生存はないと思う

コメント

具体的な環境教育の実践について多くの情報を頂きありがとうございました。
先生のお話の中で述べられたキーワード ESD(持続可能な開発のための教育)は技術士の2次試験に取り上げられるほど重要な考えです。
本日のお話は日本が国連に提案し採用されたことを契機に、議員立法で改正された環境教育等促進法に乗っ取った活動だと理解しています。

 

    

今回の講演会をきっかけとして、私たち環境研究会の今後の活動にどのように生かしていくのか再検討する良い機会となったと考えます。

 (作成 西島信一、監修 西谷 寛)


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