お酒造りの技術

著者: 上田修史  /  講演者: 堤 浩子 /  講演日: 2015年10月3日 /  カテゴリ: 化学部会 > 見学会  /  更新日時: 2015年12月12日

 

近畿本部 化学部会201510月度)見学会報告

日 時:2015103日(土)15:0016:30
場 所:月桂冠大倉記念館

 

講演:お酒造りの技術

浩子 月桂冠株式会社 総合研究所 主任研究員 技術情報課 課長
技術士(生物工学部門)

1.「月桂冠の歩み」

1)ビデオ鑑賞

1637年(嘉永14年)創業 屋号:「笠置屋」、酒銘:「玉の泉」
1905
年(明治38年)「月桂冠」を商標登録
1909
年(明治42年)「大倉酒造研究所」(現・月桂冠総合研究所)を設立
1911
年(明治44年)「防腐剤ナシ」の封緘をしたびん詰酒を発売
1927年(昭和 2年)株式会社設立
1961
年(昭和36年)日本最初の四季醸造システムを備えた酒蔵「大手蔵」を新築

2)同社HPよりhttp://www.gekkeikan.co.jp/company/guide/history.html

1982年(昭和57年)博物館「月桂冠大倉記念館」を公開
1985
年(昭和60年)所蔵の「伏見の酒造用具」6120点が、京都市有形民俗文化財に指定される
1992
年(平成 4年)「新しい清酒醸造法の開発」により、日本生物工学会「技術賞」を受賞
2005
年(平成17年)機能性食品素材「酒粕ペプチド」を開発し、製薬会社を通じて発売
2010
年(平成22年)酒粕分解ペプチドに肝障害予防効果を確認
2011
年(平成23年)「エコカップ」が第50JPC展で「経済産業大臣賞」受賞
2012
年(平成24年) 医薬品・食品などに機能性を付与する「デフェリフェリクリシン」の大量生産技術を確立

 

2.お酒造りの技術(堤技術士のご講演)

1)お酒について

①お酒とは酒税法上での定義

アルコール分1度以上の飲料をいう。ビール、ワイン、清酒などそれぞれ主原料は異なるがアルコールは酵母を介して造られる。

   

②世界の3大醸造酒(発酵方法による分類)

☆単発酵酒(ワイン)
☆単行複発酵酒(ビール)
☆並行複発酵酒(日本酒)

2)清酒の造り方

①清酒酵母

明治28年 矢部博士により全国の優良な酒を醸造する蔵から清酒酵母の発見・純粋培養が、明治37年 大蔵省醸造試験所設立後、清酒の安全醸造・技術向上の研究・優良酵母の分離が行われてきた。現在用いられている代表的な清酒酵母は、きょうかい7号酵母、きょうかい9号酵母、きょうかい10号酵母であるが、明治40年に月桂冠の蔵から分離された酵母の一つが、きょうかい2号酵母として登録されている。

吟醸香の代表的な香りにはカプロン酸エチル、酢酸イソアミルが挙げられる。これらを高生産する酵母の研究開発が行われ、月桂冠では特許を取得し実用化に至っている。これらの成分を含む酒は華やか、果実様と表現される。

②清酒ができるまで

  

③酒造りと水

お酒の80%は水であり、すべて天然の水(地下水)を用いている。水の硬度によって造られる清酒の味が異なることは明らかである。灘の水は硬度100200と硬水であり、発酵が速いため辛口の酒が醸造されており“男酒”と言われている。一方の伏見の水は中硬水(硬度60-80)であり発酵がゆっくりとなるためキメの細かい淡麗な風味の酒“女酒”と言われている。

④お米(原料米)

酒造りには専用の米品種である酒造好適米があり、その代表に山田錦があげられる。清酒では、精米を行ってから醸造するが、玄米外皮および米の外側部分には脂質、タンパク質、ミネラルなどが多く含まれているため、まず糠を取り除きその後、70%精米、60%精米などとするが、大吟醸酒では35%に磨いたお米を用いる。

その理由として、米の内側になるほどタンパク質、脂質が少なくなるため、高度に精米したお米を原料とすると雑味が少なくなり、フルーティーな吟醸香も多く含む清酒となる(米に含まれる脂質は清酒酵母の香気生成を阻害する)。なお、デンプンの含有量は米の内外でほとんど変化がなく、米の中心部分を使うことで、雑味の少ない香りの高い酒を造ることができる。

精米歩合(%)=白米重量/玄米重量×100

⑤特定名称酒の表示基準

「清酒の製法品質表示基準」の概要を参照

http://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm

⑥仕込み方法

清酒仕込みでは、三段仕込みを用いている。初添(はつぞえ:1日目)、踊(おどり:2日目)、仲添(なかぞえ:3日目)、留添(とめぞえ:4日目)と酒母に対して、麹、蒸米、水を添加しスケールアップを行う方法である。この方法を用いることで、目的の酵母を増殖させながらスケールアップで仕込みが行える。前半は酵母が増える時期でもろみの生成、後半はアルコール生成を行う時期である。

清酒造りでは、一麹、二もと、三造りといわれ、造りの中でも麹造りが重要な工程と古くから言われてきた。

 

3.大倉記念館、酒香房の見学

江戸時代からの酒造りを描いた絵図パネル、昔の様々な酒造りの用具などの展示物を見ることによって往時の技術・職人の技を垣間見ることができた。さらに食用米と酒米の違い(酒米:山田錦の方が、背丈が高い)、精米歩合の外観などがよく分かった。

また、この記念館に隣接する「月桂冠酒香房」にミニプラントを設け、昔からの伝統的な製法で少量の酒造りを継続されていることに感銘を受けた。「伏見の水」との出会いから始まる酒造りということで、現在も汲み上げた地下水の飲み場があり、暑い日であったこともあり、味も格別であった。最後に3種のきき酒することができ、酒に係るお土産などが販売されており、酒造りを学ぶと同時に酒蔵の雰囲気は素晴らしいもであった。

4.懇親会

見学後、「月の蔵人」で講師の堤技術士もご一緒に懇親会をもち、京料理と様々な日本酒の味わいながら、和気あいあいの談論を楽しんだ。日本酒三昧、お酒万歳!

  

5.おわりに

本見学会の開催につきましては、堤浩子技術士にはご講演、館内のご案内、懇親会のアレンジなど大変お世話になりました。また、本稿に使用の資料などのご提供をはじめ、月桂冠株式会社の皆様には多大な便宜をお計らい頂きました。月桂冠㈱の関係者の皆様と堤浩子技術士に改めてお礼を申し上げます。 

作成:上田修史 監修:堤 浩子