Red Tide and GreenTideを生物資源利用の観点から考える

著者: 石田 一恵  /  講演者: 鈴木 千賀 /  講演日: 2016年2月22日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2016年03月01日

 

公益社団法人 日本技術士会近畿本部(登録) 環境研究会 第74回特別講演会 要旨

日 時 ; 2016222日(月) 1830分~2030
場 所 ; 大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演:Red Tide and Green Tideを生物資源利用の観点から考える

講 師;鈴木千賀 (博士:環境学) 神戸大学自然科学系先端融合研究環 助教・ PI(研究室主宰者)

1.藻類vsヒト

海底に生育する大型海藻の群落を中心として作られる生産性の高い、独特の生物群集とその環境である藻場には、次の機能がある。
①仔稚魚の隠れ家や産卵場、餌場になるという生物生産の場
②海水中の窒素・燐を取り込み(光合成)、移動し(流れ藻)、除去する(食べられる)、水質浄化機能・懸濁物の除去作用
③環境の安定化

藻類は、海藻サラダや寒天のような直接的な食料だけでなく、コンブから抽出されるアルギン酸ナトリウムやヨウ素、フコダインのように食品添加物・薬品としても利用される。さらに、肥料・飼料としての利用はローマ時代の記録に認められるほど歴史的にも古く、大型藻類の利用形態として一番リーズナブルなものとなっている。
一方、人間が藻類を制御できない事象としてRed TideGreen Tideが挙げられる。

2.Red Tideとは?

Red Tide(赤潮)とは、単細胞の微細藻類が集積した水面の着色現象を指し、非常に視覚的なもので科学的な定義があいまいなものである。そのため、科学的見地から有害藻類ブルーム(Harmful Algal BloomsHAB)というものとしてとらえる動きがある。
Red Tide
は世界規模での現象で、原因となる微細藻類は主に渦鞭毛藻類や珪藻類などである。有害渦鞭毛藻は産生する毒の種類やその作用対象によって、魚介類に直接酸欠などの作用をするもの、麻痺性貝毒、下痢性貝毒、神経性貝毒(シガテラ毒)に分けられる。Red Tideは他にも、魚、鳥類、マナティー、二枚貝、ロブスター、ザトウクジラなどの死滅を引き起こし生態学的な影響も及ぼす。

3.Red Tide:増殖の特徴

東京湾で発生するRed Tideの原因藻類はSkeletonema costatum Thalassiosira spp.Mesodinium rubrumNoctiluca scintillansNitzschia pungensHeterosigma akashiwoなどが卓越しているが、環境省の調査結果によると珪藻を除くと優占種は年によりバラツキが見られる。Red Tideの定義が科学的にあいまいな部分がある上に、調査方法は自治体、研究者によって違いがあり、Red Tideの分布は空間的にも時間的にも安定していない。

プランクトンの個体群変動の時間スケールと空間スケールは相互に連動していると考えられている(Steele,1995)。東京湾で頻出しているRed Tideの規模は1㎢で、その場合の保持時間は1日程度と見積もられており、夏季等週23回の調査頻度の現行の調査ではRed Tideの真の動態を捉えていない可能性が高い。

4.Green Tideとは?

近年、世界各地の富栄養化した内湾で海藻の大量繁殖が起きており、とりわけアオサ類を中心に緑藻が引き起こす場合が多いので、赤潮 Red tide に対比させてこの現象をGreen tideと呼んでいる(Fetcher 1996)。緑藻類大量繁殖現象と言える。神奈川県の金沢八景で発生した例では年間の処理費用が2000万円に上っている。

5.海洋環境政策の面からの藻類対策

富栄養化対策としての水質総量規制の対象としては、瀬戸内海・東京湾・伊勢湾の3海域(当初の枠組み)がある。瀬戸内海ではRed Tide発生件数と水質規制に有意な対応関係が認められ、水質総量規制効果が確認されているが、東京湾、伊勢湾についてはRed Tide発生件数の改善が依然認められていない。しかし、PON(懸濁態有機窒素)を目的変数とした重回帰モデルで検証した結果、東京湾で全燐の総排出量とR2(赤潮指標:寄与率)に有意な相関が認められ、水質規制の効果のR2への反映が示唆された。

6.Red Tide and Green Tideを生物資源利用の観点から考える

藻類の大量培養の利用として、1931年にO.H.Warburgがクロレラを使った「酸素呼吸の作用機能」を発見し、日本では1951GHQ主導の「戦後食糧難解消の為の研究」によるクロレラの大量培養系が確立された。海外でも、1980年代に大日本インキ化学工業(現DIC)がバンコクでスピルリナの生産を開始した。また、2014年に米国で起こった粉ミルクなどの「食用添加用素材の特許失効」を契機にさらなる藻類利用の潮流誕生の兆しがある。

一方、エネルギー利用に関しては現在の研究は微細藻類が主流になっている。バイオディーゼルに関しては品確法(揮発油等の品質の確保等に関する法律)により、部品の腐食等によるエンジントラブル防止のための強制規格、バイオジェット燃料についてはバイオ合成パラフィンケロシン(Bio SPKBio Synthetic Paraffin Kerosene)を50%を上限として添加することが認められた(ASTM D 7566)ものの、既存燃料と同品質が要求されている(流動不良防止)ため、析出点 50%混合油 -47℃以下 SPK -40℃以下などの規制をクリアするのが実用化の障壁となっている。Red Tideの利用研究としては、微細藻類の集合体であることから物理的回収方法が十分に確立されていない段階である。Green Tideの利用研究としては、亜臨界水による加水分解技術を利用しアオサからバイオエタノールを作る技術が注目されているが、事前の乾燥や分解などに多くのエネルギーを要するため、その抑制技術の研究に重きが置かれている。

また、淡水生微細藻類のボトリオコッカスについては重油生産能力が高い榎本博士(神戸大学教授)の株などがある。

これらのことから、一部を除きコストの観点から国内では「飼料・肥料」としての利用に視点が向いている。生物資源としての有用藻類の利用は未だ発展途上にある。「実験室レベルではなく実用化レベルでの検証が必要」であり、技術者・研究者の努力にかかっている。

 

(文責 石田一恵、監修 鈴木千賀)