水環境の保全~琵琶湖の事例

著者: 寺川博也、藤井 武  /  講演者: 野口 宏 /  講演日: 2016年10月3日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2016年10月10日

 

公益社団法人 近畿本部 環境研究会 第77回特別講演会要旨

 

日 時:平成28103日(月)午後630分~830
場 所:アーバネックス備後町ビル3Fホール

講演:水環境の保全~琵琶湖の事例

野口 宏  技術士(総合技術監理、建設、環境、応用理学、水産部門)
独立行政法人水資源機構、琵琶湖開発総合管理所

 

環境研究会10月度(第77回)の講師として、独立行政法人水資源機構、琵琶湖開発総合管理所(以下、水資源機構と呼ぶ)の野口宏技術士をお迎えし「水環境の保全~琵琶湖の事例」と題して、琵琶湖を取り巻く現状について幅広くご講演をいただいた。

水資源機構は、水資源確保等のために、ダム、河口堰(ぜき)、用水路などを建設、改築・管理する国土交通省所管の独立行政法人である。用水を必要とする地域に、水の安定的な供給の確保を図ることを目的とし、琵琶湖を含む淀川水系だけでなく、利根川、荒川、豊川、木曽川、吉野川、筑後川の各水系で「水資源開発基本計画」に基づいて水資源の開発や利用のための施設を管理している。

           琵琶湖の概要

講演では、治水、利水、環境の面からみた琵琶湖開発事業の機能のうち、湖岸堤や排水機場などの施設、水資源機構等が行っている水質調査、環境調査、施設の維持管理等の業務、アオコの発生など最近の水質問題、昨年成立した琵琶湖保全再生法、水質環境基準の動向などについて、お話をしていただいた。

   琵琶湖の高低関係

膨大な情報を含む講演のため詳細は省略するが、水資源機構が、琵琶湖の水を利用している淀川下流の水道事業者(京都、大阪、兵庫等の自治体)の負担金等で事業をおこなっていること、水質環境基準(生活環境項目)の指標として永らく使われているCOD(化学的酸素要求量)から、TOC(全有機体炭素量)へ移行しようとする動きなど、初めて知る知識が多くあり、貴重な講演であった。

Q&A

Q1.琵琶湖の水利権はどのように決まっているのか?

A1.昔からの慣行水利権を法律的に後付けしたものであり、琵琶湖をダムとして考えて水利権の設定があると思えばよい。新規開発分は、取水量(最大)に見合う建設事業費、管理事業費を負担いただく仕組みとなっている。

Q2.福井県若狭地区の原発が事故を起こせば琵琶湖の水はどうなるのか?

A2.実際のところ、もうどうにもならないだろう。代替水源の確保が困難なため、近畿圏から移住といったことになるのかも知れない。

Q3.農業用水利用も減少してきているが、最低限の水量(放流量)はどのようにして決めるのか?

A3.個々の河川、区間についてその河床材料、護岸の状況、生態系や水産利用、利水状況から維持流量を設定して、これを満足できるように上流のダム等(琵琶湖からの放流も含まれる)の操作をおこなっている。

Q4.窒素、リンの動態はどのような状況か?

A4.長期的には減少してきている。下水などの点源からの削減は限界に近いところまで来ている。農地などの面源対策に力を入れているが、農地も減少しているので明確ではないが、耕作放棄地など管理が難しいという課題がある。底泥からの拡散もある。

Q5.アオコ発生は温暖化が原因か?

A5.温暖化の影響は判断が難しいが、一般に、気温・水温が低い冬場には発生がほとんどないことから、水温の上昇は要因となり得る。ただし、小雨など別の要因も考えられる。

Q6.外来種の状況、駆逐対策はどうなっているか?

A6.近年は数としては増加していないと思う。在来種の数も特に大きく減少したとは聞いていない。ブラックバスなどは、今も補助金を出して漁協などから買い上げている。

       ニゴロブナ(琵琶湖固有亜種) 出典:Private Aqaurium

Q7.瀬田川洗堰の操作はどこでやっているのか?

A7.低水時は国交省が観測所(枚方など)の水位を見ながら維持流量を確保できるように調節している。出水時は下流河川や支流、他のダム等の放流状況から水位予測をして操作している。春先は、洪水期制限水位に向けて琵琶湖の水位を低下させる操作が必要であるが、ニゴロブナの卵の干出を避けるために、水位の急な低下をなるべく避ける工夫をしている。

Q8.瀬田川洗堰からの水はすべて天ケ瀬ダムを通じて宇治川に流れるのか?

A8.一部は京都市が琵琶湖疎水経由で直接取水している。関西電力が琵琶湖から直接取水して天ケ瀬ダム下流の宇治川に放流しているが、瀬田川洗堰からの放流量よりも遙かに放流量が多い時の方が多く、瀬田川洗堰では関西電力放流分の帳尻合わせをさせられているというのが現実である。

      

文責 寺川博也・藤井 武/監修 野口 宏