バイオマスは地球を救う

著者: 奥村 勝  /  講演者: 濱崎 彰弘 /  講演日: 2016年12月12日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2017年01月02日

 

公益社団法人 近畿本部環境研究会 201612月度 会員講演会

日 時;20161212日(月) 1830分~20
場 所;大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演 バイオマスは地球を救う

-地球環境問題、資源エネルギー問題の解決に向けて-

濱崎 彰弘(技術士 機械、総合技術監理部門)

 

1.地球環境問題とエネルギー問題

1970年代からCO2による地球環境問題の議論が開始された。1981年、NASAの大気学者ジェイムズ.ハンセンらがグローバルエフェクトの論文でCO2が化石燃料使用により増加しており、「地球温暖化」を引き起こすと「サイエンス」に発表した。1988年に気候変動に関する政府間パネルが設置され、1992年リオサミットで21世紀中に大気中のCO2増加ゼロを目指し地球温暖化防止条約が締結された。2005年に京都議定書が発効され、第一約束期間2008年から2012年まで先進国がCO2排出量を削減してきた。
その後、先進国のみならず開発途上国も含めた排出削減を求め、2015年のCOP21でパリ協定が締結され、今年11月にパリ協定が発効となった。このパリ協定は、長期目標として産業革命からの地球平均気温上昇を2℃よりも十分低く抑えることとしている。また、先進国のみならず開発途上国も排出削減義務をもつことにより国際社会全体で着実に温暖化対策を進めることになった。

世界全体のCO2排出量は、1971145億トンが現在320億トンと2倍以上になっている。大気中のCO2濃度は、1882292ppmから2011386ppmに増加しており、IPCC報告書では人為的なCO2排出が地球温暖化の原因である確実性は極めて高いとしている。

地球の炭素循環でみると植物は、121Gt/年光合成により炭素を固定するが、60Gt/年呼吸により炭素を排出している。土壌微生物分解による炭素排出、海洋の炭素放出・吸収化石燃料燃焼による排出を合計すると、排出217Gt/年・固定214Gt/年となり、炭素排出が固定を上回っている。

一方、エネルギー資源の可採年数は使用量の増加により、減少し100年を割る状況になっており、将来に向けてエネルギー供給が大きな問題となっている。

2.人口増加と格差、貧困問題

世界の人口は、1970年代30億人前後であったが、現在70億人を超え、2050年には90億人になることが予想されている。世界の貧困層(1.9ドル以下/日)は約9億人いるが、そのうち約8億人が栄養不足であり、南アジア、東アジア、サハラ以南アフリカに多い。

人間活動が環境に与える負荷を資源の再生産及び廃棄物浄化に必要な面積として示した数値で地球の環境容量を表す指標としてエコロジカル・フットプリント(以下、EF)がある。世界平均EFは、2.2gha/人であるが、高所得国は6.4gha/人(日本は4.4gha/人)、低所得国は0.8gha/人で低所得者23億人は世界平均EF1/3しかない。現在、森林面積は毎年5km2減少しているが、特に食糧不足のアジア、アフリカなどの低所得の国で森林減少が著しい。

これまでの人口増加と経済成長の結果、世界の貧困と格差が広がり、多くの自然が失われている。また、貧困層は、食糧、エネルギー、自然の利用が不十分で生存が危ぶまれている。中間層も貧困化への不安から貧困層と対立、排除する動きがあり、社会や経済の不安が大きくなってきている。

3.バイオマスによる解決策の提案

バイオマスとは植物の光合成により太陽エネルギーから光化学変換で生成された有機物の総量をいう。バイオマスの主成分は、糖質、タンパク質、脂質からなり、発熱量は、糖質・タンパク質は約4000kcal/kg、脂質は約9000 kcal/kgである(参考:重油12000 kcal/kg、石炭8000 kcal/kg)。

バイオマスの熱帯・温帯林の現有量は、1134Gt-Cで、生産速度は5.37t-C/ha/年である。現在のCO2排出量320t/年は炭素換算で8.7Gt-C/年となる。熱帯、温帯林の5.37t-C/ha/年ですべてを固定すると、1.6Gha160km2、日本面積の約4倍)あれば、世界のすべてのCO2排出量が森林に固定される。

haの植林コストを用地買収1000ドル、植林コスト400ドルと仮定すると、1.6Ghaには2.3兆ドルが必要になる。この投資で、植林した面積のバイオマスの密度が222t-C/haになり、約40年間は大気中のCO2濃度増加はストップできる。

マイケルメトカルフェは、2008年の金融危機のために各国の中央銀行が大量の資金を調達した金融工学の手法を地球温暖化対策に使うことを提案している。この資金調達法で地球温暖化対策への投資は実現可能である。

4.持続可能な世界の構築

森林減少の激しい地域と貧困地域とは重なることから、植林のための2.23兆ドルの投資は貧困層の雇用促進に充当する。食糧問題不足への対応は、縄文時代の食料確保が参考になる。植林後の保育費は、1haあたり100ドルとなり、1.6Ghaでは毎年1600億ドルが必要になる。このための資金は、CO2排出権を5ドル/t-CO2と仮定すれば、320t-CO2/年の排出権収入は1600億円となり保育費用を賄える。

バイオマス利用の留意点として、バイオマス密度、収集コスト、収集エネルギー、乾燥のエネルギー、エネルギー収支などがあげられる。エネルギー収支面では木材を直接利用する方法がよい。バイオマスをガス化して、液体燃料にする方法は、従来の化学合成技術をそのまま使用できるので有利である。メタノール合成の既存技術が使える。液化した燃料は、輸送コストを抑えることができるため、植林した近隣地域に液化燃料工場をつくることでコスト削減になる。製造された液化燃料は、港湾から世界各国に供給するのがよい。

講演最後に、日本技術士会近畿本部兵庫県支部研究会の立ち上げ計画について紹介があった。

 

Q&A

 Q 貧困国にバイオマスのプラントを作って燃料を輸出する詳細は?

 A 貧困及び森林破壊の激しい地域10km2×20カ所に植林、バイオマス(木材?)から液体燃料への転換プラントを稼働、液体燃料で輸出。

 Q 液体燃料とは具体的に何を考えているのか?またその液体燃料はPL法等法律的な問題も含めて使用可能な状態にあるのか?

 A バイオマスをまずガス化して、そのガスの有用成分からLPG・ガソリン・エタノールなどに転換する。バイオマスからガス化する過程は生物学的なプロセスなので不確定要素があるが、ガス化されたものからLPG・ガソリン・エタノールなどに転換する過程は工業的なプロセスになるので既存の技術で使用可能な状態であると考えている。

 Q 最近太陽光などの自然エネルギーに比べてバイオ燃料は下火になっているが、一時期アメリカで盛んにトウモロコシからエタノールを作る技術があった。今回の話はメタノールが主になっていると感じられる。メタノールは毒性の問題などで扱いが難しいが、メタノールを主に訴えているのには何か理由があるのか?

 A アメリカのトウモロコシからバイオエタノールを作る技術は、トウモロコシの余剰分等の利用法が主体となっている。トウモロコシはそもそも食料なので、大量に利用すると食料不足を引き起こす懸念がある。今回は貧困地域の活性化として植林を主に考えているのでそうなっている。

 Q 三重大学で木材をリグニンとセルロースに分けてセルロースを硫酸で溶かしてエタノールにする研究例があるが、具体的な液体燃料化のプロセスを考えているか?

 A セルロースを硫酸で加水分解して、その後生物的な手法でエタノールを生産する手法の研究は国内外でも行われている。ご質問頂いた技術は研究開発中の技術であるので、液体燃料化の技術に関しては、既存技術のプロセスを考えている。

 Q 燃料化プロセスは積算に入っていない様だが、2.23兆ドルは植林だけの費用なのか?

 A バイオマス密度で考えると木材は石炭と同程度であることから、工業化プロセスは既存技術で十分と考えており、費用の中には算入していない。

 Q プロジェクトとしての進め方は行政、民間のどちらを考えているか?

 A 世界規模の活動なので最終的には行政の範疇に入ると考えているが、まずはFSでスタートして実証することを考えている

 Q 5.1Ghaは砂漠地域を含んでいるのであれば、砂漠を植林した場合の地球への影響をどう考えておるのか?

 A 砂漠地域を植林するのではなく、もともとアマゾンなどの森林のあった地域で現在森林破壊が顕著な地域を植林することを考えている

 Q それだと面積的にだいぶ小さくなるため、砂漠地域にも波及する必要が出てくると考えるが、砂漠の植林に対するFSも考えるべきではないか?

  A まずは元の森林地域を回復することを考えている。15世紀のポルトガルの植民地時代から現在まで500km2の森林が伐採されたという試算があるのでこのレベルまで十分持って行けると考えている。

Q 例えばサンパウロがアマゾンになることになるが、それでもいいのか?

  A 現在の資源を消費して森林破壊する社会から自然の豊かな恵みにより生きていく社会へ、人間自体の生き方を変えればよいのでは。

安カ川会長まとめ

最近は発電についても太陽光からバイオマスへの移行が起こっている。今日の議題は発電に限らないものであるが、進めていくにはまだまだデータ不足の部分がある。環境問題の対策については、技術の占める部分は非常に小さい。最近環境経済学でも環境を数値化するのは非常に大きな危険性を含んでいることがわかった。FSですべてを考える危険性を考慮してほしい。

  

(文責 奥村 勝、監修 濱崎彰弘)