M学園事件に見る不法投棄地利用における廃棄物問題について!

著者: 深田晃二  /  講演者: 鍵屋 司 /  講演日: 2018年1月27日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2018年03月31日

 

環境研究会第82回特別講演会・衛生工学部会第20回例会 要旨

日時:平成30127日(土)  13301615
場所:大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール

講演2:M学園事件に見る不法投棄地利用における廃棄物問題について

~会計検査院による報告書について~

講師:鍵谷 司 氏 (環境計画センタ-専任理事)技術士(建設、衛生工学、環境部門

当講演は、M学園事件そのものを対象としたというよりは、土地価格から値引き根拠となった埋設廃棄物量やその処分費について社会的な関心が高いことから、これを機会に一般的には知られていない廃棄物処理法で規定する法違反、とくに他の法律と比較して非常に厳しい懲役を含む罰則規定の理解のために、ご講演をお願いした。

<M学園事件とは>

M学園事件は、国有地(8,7702)の売却にあたり、地下に廃棄物が存在したことからその処理費用を国が負担し、土地売却費の9.56億円から処理費8.15億円を差し引いて総額約1.4億円で売却した事例である。当該土地は、担当航空局が管理していたが、一般財産に変更されたため担当財務局に処分を依頼し、M学園が小学校を建設するとして購入したものである。土地価格は不動産鑑定士による鑑定価格であるが、地下に存在する廃棄物の埋立量に大きな疑義があり、かつ、掘削時の保管、運搬、処理処分に関する手続に多くの不備があり、廃棄物処理法違反が指摘されている。

基本的に重要なことは、土地価格から差し引いた埋設廃棄物の掘削量や処分費の根拠が確認できないことである。しかも、同じ規模の近隣国有地の売却費の約1/10だったことが明らかになり、国有地売却に疑義が生じている。

講演では、掘削された廃棄物の取扱いが、廃棄物処理法で規定する内容に違反している事項についてとりあげ、それぞれの違反に対する罰則について解説された。

<廃棄物処理法上の違反事例>

①掘削廃棄物の取扱い違反について

法では掘削廃棄物を廃棄物最終処分場以外の場所に埋め戻すことは不法投棄に該当し、厳しい罰則が規定されている。掘削した場所あるいは別途空地のグランド予定地を掘削して埋め戻すことは、不法投棄に該当する。

②廃棄物の保管基準違反について

廃棄物を処理や処分のために運搬するまでの間、保管せざるを得ないが、保管基準が規定されている。屋外保管時には表示義務、遮水や臭気対策が定められている。違反の場合には、行政による現地確認や改善指導や改善命令などの措置命令があり、対応しない場合には罰則が適用される。なお、一般的に6ケ月以上にわたって適切に対応しない場合には不法投棄と見做されることもある。

③廃棄物の発生、運搬、処分に至るごみの移動について

マニフェスト制度により管理されているが、掘削廃棄物の運搬、処分に関する情報がない。マニフェストは、5年間の保存期間が規定されており、表1に示したように記録しないあるいは記録紛失の場合には罰則が適用される。なお、打合せ議事録及び掘削廃棄物の持ち出し記録がないことからも埋め戻しが疑われている。

表1 違反の内容と罰則

違反の内容

罰 則

・投棄禁止違反・未遂
・焼却禁止違反・未遂
・無許可業者への委託など

5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はこの併科
(法人は3億円以下)

マニフエスト違反(記載・交付・5年保存違反)

6ケ月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金

不法投棄又は不法焼却を目的とする収集又は運搬

3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金またはこの併科

保管基準を含む処理基準に違反した場合の改善命令又は措置命令

改善命令違反;3年以下の懲役若くは300万円以下の罰金、又は併科
措置命令違反;5年以下の懲役若くは1000万円以下の罰金、又は併科

<M学園に係る会計検査院報告について>

M学園事件が大きな社会・政治問題になったことから参議院の要請により会計検査が行われた。検査報告書が平成291122日に提出、公表され、入手できたので、その内容を廃棄物専門家の立場から精査し、その一部を紹介された。

会計検査院報告は、主に国有地を貸し付けた売却時の契約等の手続き、書類作成や管理の適切性をはじめ、土地価格の値引き根拠となった地下埋設物量、掘削・処分費の根拠について精査している。その結果、地盤改良等の対策工事、廃棄物掘削量や処分費用の算定根拠が確認できないとの所見であった。廃棄物処理法では、廃棄物の不法処理を防止するために産業廃棄物管理伝票制度(マニフェスト)が確立されており、廃棄物排出事業者は行政に産業廃棄物管理伝票を提出することが義務付けられている。業者からの資料のみでなく、行政資料により精査すべきことなどが紹介された。  

【コメント】

M学園事件では、多くの廃棄物処理法違反が行われており、それぞれの違反に対する罰則は具体的な事例があるので理解しやすい。また、廃棄物処理法は、他の法律と違い、多くの適用外事例もあり、複雑である。法律を調べただけでは、違反か否かを判断することが難しい事例も多々あり、活発な質疑応答があった。

(深田 晃二:記、 監修: 鍵谷 司)