100%自然エネルギーシナリオ

著者: 鈴木秀男、西島信一  /  講演者: 鎚屋 治紀 /  講演日: 2018年3月16日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2018年04月08日

 

【環境研究会 第83回特別講演会】

日 時:平成30316日(金)午後630分~840
場 所:アーバネックス備後町ビル3Fホール

演題:100%自然エネルギーシナリオ

講師:株式会社システム技術研究所 所長 槌屋治紀氏

100%自然エネルギー化にむけて

再生可能エネルギー大量供給計画としては、ジェイコブソンの世界WWSシナリオ、WWFインターナショナル(シンクタンクEcofys社が作成)の世界シナリオ、米国・国立再生可能エネルギー研究所の米国の電力供給シナリオ、エイモリーロビンスの「新しい火の創造」など、2050年頃に必要なエネルギーの80100%を再生可能エネルギーで供給する研究が続々と現れている。

日本がパリ協定の下で求められる「脱炭素化」を達成することを前提として、「100%自然エネルギーシナリオ(2050年に日本の全てが自然エネルギー)」と「ブリッジシナリオ(2050年までにGHG80%削減)」を検討した。将来の最終エネルギー需要=基準年の最終エネルギー需要×活動指数×効率向上として推定した。家庭部門・業務部門・産業部門・運輸部門のそれぞれで効率が向上していること(革新的な技術への過度な依存がなくとも充分達成出来る)を前提とすると、2050年の最終エネルギー需要は、BAUシナリオと比較して、2010年比で81%(人口減少による活動指数の変化のみ)、61%(ブリッジシナリオ)、そして100%自然エネルギーシナリオでは53%まで減らすことができることがわかった。

  

再生可能エネルギーのポテンシャル

再生可能エネルギー密度の大きさは、波力>風力>太陽熱・光>バイオマスの順である。波力はかかる力が大きく設備は破壊されている。風力は現状の機械技術で適切に実現できるため大きな普及を示している。太陽光は、設備の耐久性があり、コストも低下している。騒音がなく住宅地域でも設置でき、垂直壁や道路にも設置できるので広く普及する可能性がある。日本の自然エネルギーの実績、ポテンシャルは下図のような導入見込み量となる。

  

自然エネルギーには、水力発電(今後増すのは中小水力のみ)太陽光発電、風力発電、地熱発電、地熱発電、バイオマス発電、波力発電、太陽熱、バイオマスなどがある。EVFCV・航空機・船、産業用熱需要、暖房・厨房などの燃料を満たすためには、EV用電力、FCV用水素、ヒートポンプ用電力などの余剰電力の活用が必要であると考える。そこでダイナミックシュミレータを用い、地域ごとのエネルギー需給を1時間ごとに1年間計算した。シミュレーションの結果、電力の中で太陽光と風力のポテンシャルが大きいため、それらの利用が大きくなり、365日間電力を切れ目なく供給するためには、太陽光と風力の割合がおおよそ21になることが望ましいことがわかった。また各地域の太陽光発電と風力発電について一日単位で相関関係を分析すると、両者は逆相関があり、補完的な関係にあることが明らかになった。

また一部の熱・燃料需要を、自然エネルギーからの電力で供給することを想定しており、これには2つの方法がある。1つは電気自動車やヒートポンプでの冷暖房のように、今までガソリンやガスなどで供給されることが多かった燃料・熱需要を電気で代替する(電化)という方法もあり、もう1つは電気から水素を作り出し、その水素で燃料(燃料電池車も含む)や熱と燃料需要を満たすというである。余剰電力を全て水素に転換して貯蔵しておく、と想定することで、変動のある自然エネルギー電源が、需要をオーバーして発電してしまう時間帯でも、その電気を有効に活用出来る。これは電力系統の運用上、大きなメリットとなる。

ブリッジシナリオについて

ブリッジシナリオにおける2050年のCO2排出量は、石炭から6200万トン 、石油から6000万トン、天然ガスから6800万トン。合計は19000万トンであり、「その他ガス」からの6400万トンを加えると、25400万トンになる。これは、1990年のCO2排出量の20%(下図左)に相当する。

100%自然エネルギーシナリオに於いては、電力だけを見た場合と同じく、風力、太陽光の割合が大きくなるが、熱・燃料需要に対応するため、バイオマスの役割も大きくなることが特徴である。2050年になると、化石燃料はゼロとなり、太陽光38%、風力19%、バイオマス20%、地熱が5%となっている。バイオマスや太陽熱に加え、太陽光および風力から得られた水素の活用も想定している。途中経過である2030年時点では、自然エネルギーのシェアは全体の30%となる。

100%自然エネルギーシナリオの発電容量は、2050年には太陽光44400W風力1400Wの規模になる。電力供給、蓄電量、余剰電力は、2050年には年間電力需要は620TWhになる。揚水発電とバッテリーにより充放電損失が生じる。余剰電力は、電力需要の59%に達している。これを自動車用電力と水素に、また熱需要向けに活用する。

従って、100%自然エネルギーシナリオの温室効果ガス排出量は、化石燃料からの排出はゼロ、「メタンなどその他ガス」からの排出6400万トン(CO2換算)のみになり、1990年のCO2排出量の5%に相当する(下図右)。ただし、2050年に鉄鋼業の水素に代替する水素製鉄や電気分解製鉄が、実用化されなければ約5%は残るかもしれない。

    

石油価格は2040年に2015年の2.43倍になる。2050年については傾向を外挿して石油価格は現状のおよそ2.5倍になるものと推定した。太陽光発電コストの学習曲線による分析:20082015年には累積生産量が2倍になるとコストが76.87%に低下している。この低下傾向を延長すると累積生産量が200GW(2kW)になるとき、17.7万円/kWに低下する。40年間の省エネルギーと自然エネルギーは、設備投資365兆円、運転費用は-449兆円、正味費用-84兆円であり十分な投資効果がある。1年間の投資額は9兆円になり、GDP2%弱。

地下から燃料(石油、石炭、天然ガス、核物質)を掘り出すエネルギー狩猟型文明は、二酸化炭素を排出し気候に影響し、いつの日か枯渇する。これからは、地上で太陽のエネルギーを受けとめ、農業のように太陽光、風力、太陽熱、バイオマスなどを利用する、エネルギー利用効率を高めてエネルギー需要を減少する、天候に依存するが、気候に影響を与えないエネルギー耕作型文明への転換が望ましい。

質疑応答

1.Q:航空機および船の燃料を余剰電力から利用する場合の技術的な課題と可能性については、どのように考えておられるか。

 A:このシナリオではバイオマス燃料を使う事として計算した。しかし最近電動飛行機が考えられている。バッテリーが軽くなりバッテリーを利用する試作機が作られているが、航続距離が短い。燃料電池をやっている方は飛行後続距離を延ばすために水素を使って飛ばす事を進めている。航空機、船の場合電動にすると音がほとんどしない、嫌な匂いがしないというメリットがある。当面はバイオマスという線が考えられるが、長期的に見ると燃料電池に水素を使うものと考えている。

2.Q:自然エネルギー導入のインセンティブとしてFITがあるが、先生のシナリオではどのように位置付けておられるか。

 A:太陽光発電のコストにはFITが効いている。ただ、私はFITがあろうがなかろうがあまり関係ないと思っている。日本の場合FITのおかげで普及したと考えるが、あまりに急速に導入されたために多くの問題が生じ、その結果コストが下がらない原因になっている。外国ではコストが日本の半分ぐらいになっているなど、これからはFITを入札制度にするとか、設備コストが下がるに応じて買取価格が下がっていく方向になる。海外の風力発電、太陽光発電のコストが下がっている事が、どのように日本に影響を与えるかによって決まってくると思っている。

3.Q:最近のニュースでは九州電力で76%太陽光発電の割合が出たとの事であり、別のニュースでは九州電力はもう自然エネルギーによる電力を買わないと言っている。既存の電力との関係についてお聞きしたい。

 A:九州電力で生じた問題は太陽光発電の発電量が多くなってくると、送電線が使えないので太陽光発電による電力を利用できる可能性が減ってくるという事だった。京都大学の再生可能エネルギーの研究グループが送電線の利用状況を調べた結果、送電線の容量に対して使っているのは1520%だと発表された。送電線の利用率が低い、特に電力会社間のお互いを結ぶ送電線の利用率が低い。これはよほど緊急の事態が発生しない限り、自分の電力会社内でまかなおうとして送電線を使わないのは企業としては当然なのかもしれない。太陽光発電施設を許可してしまうと、そういう対応をする必要が出てくる。
九州電力管内の太陽光発電の発電電力量が上がれば九州電力から中国電力へさらに関西電力へと順次送ればいいと思う。しかしまだそのようになっていない。太陽光発電を許可してしまうとそういう対応が必要になる。原子力を再稼働するという思惑があるのでそのために送電線容量をあけて取っておき、太陽光発電を抑制しようとしている。政府は原子力発電をできるだけ減らすと言っているので、政府がしっかりとした方針を示す必要がある。

4.Q:太陽電池はほとんど単結晶シリコン系を使うが、CIS(銅、インジウム、セレン系)のようなものを使うと倍近く効率が上がる。現在20%程度の効率であるが、今後効率を上げるためにどのように考えていけばよいのか教えて欲しい。

 A:いろいろな技術開発が行われていて、超電導に使われたような特殊な結晶構造の材料を使う事によって安くしかも効率を30%まで上げられる。実験段階では単結晶では20%を超えているが、CISはそれよりもっと低い。全体として、じわりじわりと年間1%程度上がっているというのが私の印象であり、30%まで効率が上がるものが出てくると思う。効率の低いものはkwあたりの価格が安くまた大きな面積を必要とし、用途に応じて値段が決まってくるため、効率が30%のものは値段が高い。時間が経過して安くて効率の良いものが出てくるプロセスを待つというように時間が必要と思う。

5.Q:このシナリオでは太陽光発電が大きなウェイトを占めているが、太陽光パネルの面積で考えるとどれぐらいになるのか。宇宙から地球を見たら、ぎらぎらして見えることがあり得ると思っているが、どうお考えか。またパネルで覆う事によって今まで太陽光の輻射熱により受けていた効果が、遮られて一部電気に変わる。地球全体で見た場合、何か変化が起きるのではないかと危惧するがこの点をどのようにお考えか。

 A:スタンフォード大学のジェイコブソンは地球上の土地面積の1%で十分だと計算している。NEDO(新エネルギー・総合技術開発機構)の「再生可能エネルギー白書」が示すポテンシャルでは7億kWですが、そのうち耕作地が半分、建物の壁・屋根、高速道路の脇などにつける事によって残りの半分の発電ができる。耕作地を使う事はそれほど大きくなくて済むと思う。私がエネルギー耕作型文明と言っている意味は農業のように太陽光発電がおこなわれるということで、太陽光発電を畑のように行うというイメージである。ぎらぎらして嫌な事を引き起こすのかそれともうまくできるのかは設計上の問題にかかってくる。道路に太陽光パネルを敷くということはその解決策の一つと思う。
熱バランスが狂うのではないかということについて、降り注ぐ太陽エネルギーに対して人間が消費しているエネルギーは2万分の1程度なのでバランスを覆すことにはならないと思う。太陽光パネルによって電気に変換される割合は2030%程度であえい、気象に与える変化はないと思う。しかし局地的には太陽光パネルが広範囲に敷かれていると、その20%が電気に変わり送電線によって他地域に持っていかれるので、その地域は温度が下がる影響が出るかもしれない。

6.Q:P35の太陽光発電と風力発電の相関関係を示したグラフは非常に興味深い調査をされたと思う。このプロットは同じ地域でデーターを収集されプロットされたものか、それともそれぞれの地域で行われたものか教えて欲しい。また正の相関が出た場合はどう考えたらよいか。

 A:10の電力会社のそれぞれ地域でプロットしている。同一地域内で風力発電と太陽光発電の発電量が負の相関であるので補完的であるといえる。正の相関が出た場合は太陽光発電と風力発電がお互いに同じ傾向になり補完的にならない。この論文は2016年に風力エネルギー学会に提出したものであるが、最近論文賞をいただいた。
   (平成28年度 日本風力エネルギー学会 論文賞
       論文名 日本の各地域における風力発電と太陽光発電の相関関係 槌屋治紀)

7.Q:バイオマス発電は効率が悪そうだが、資源の枯渇は木材にも及んでいる気がしている。日本では木材が余っており、木造建築の技術力も上がっている。これから森林のメンテナンスもやって行かなくてはならない。そういう意味でバイオマス発電をもう少し生かせないかと思うが、どうお考えか。

 A:私もそう思っているが、このシナリオでバイオマス発電を大きな数字とした場合、問題が生じるという反論が多くなると思い抑えた数値としている。森林を伐採してしまって継続的に管理できないのではという人がおり、現実に世界中でそのような事例が多く生じている。バイオマスポテンシャルについて各種資料を調べ、政府関係の資料も調べたがどこにも示されたものがない。いろいろのレポートにも最大使える量という数字が出てこない。そういう意味でバイオマスを多く使わなかった。

8.Q:フィンランドのような北の果てでもバイオマス発電をやっているなど、ヨーロッパではバイオマス発電が進んでおり、持続可能に森林面積の半分ぐらいを有効に利用する事が進められている。またオーストリアでは林道(ループ林道)整備や機械伐採技術も進んでおり、持続可能に利用できる限界まで近づいていると聞いている。日本の国土の3分の2は森林だが、残念ながら林道整備が進んでいないのが現状であり、もし林道整備や植林が計画的に実施されればかなりの量が期待できると思う。ヨ―ロッパではバイオマスは熱利用に主に使われており、ドイツやデンマークも熱利用も含めた発電でないと認めない方針になっている。日本でもバイオマスについては熱利用も合わせて、ヨーロッパの経験を学びながら進めていければよいなと思うがいかがか。

 A:おっしゃる通りである。ヨ-ロッパではコージェネレーションしないといけない事になっている。日本でバイオマス発電をしているところで熱利用をしているところは少ない。ヨーロッパは夏の1~2か月は別として暖房の需要が多い。一方日本は春から秋にかけての熱利用が小さくなるため、作っても利用度合いが少ないのであまり投資しない。どう考えていったらいいか大変難しい問題だと思う。私としては太陽光や風力で作った電気を、ヒートポンプを使って低温の熱利用をするという方法を上手にできたらと思っている。もちろん森林バイオマスは日本全国で50億m3ぐらいあって40年に一度切り出すとすれば、年間1億m3程度取り出せる。しかし現状は切り出しても取り出せないか、取り出せても大きな費用がかかるという問題がある。

9.Q:このシナリオを大規模な製造設備に適応する場合どの程度の製造設備が必要か、また材料の調達まで考慮されておられるのか。別途、大型船の巨大なエンジンに電気を使用することは難しいのではないだろうか。

 A:製造設備に関してはあまり心配していない。太陽光発電も風力発電でもどのくらいの資材がいるかライフサイクルアセスメントの実績もあり、それほど大量の資材が必要とは考えていない。船のディーゼルエンジンの話が出たが、ディーゼルエンジンでもエネルギーの利用効率は30%なので、電動のモーターに変えれば出力の1/3程度のエネルギーで動かすことができる。バッテリーをいくつもつなぎ合わせていけるかもしれない。アメリカのテスラ社ではパナソニックが作っている小さなバッテリーをたくさんつなぎ合わせて自動車用に使って走ることをしている。小さな電池をグループごとに管理してそれをソフトウェアでコントロールするという方法を見出したと聞いており、電動にする事、燃料電池にする事は決して不可能ではないと考える。
大出力のモーターは実際に多く産業用に使われており、鉄鋼業の圧延機に非常に大きなモーターが使われているなど、大きな出力のモーターを作る事は特に問題ないと考えている。バッテリーの容量を上げる事も問題がないので、飛行機や船を電動化したり、燃料電池にする事は問題がないと私は思っている。

10.Q:太陽熱について、以前太陽熱温水器が家庭の屋根に設置する事が行われていた。システムとしてはシンプルで効率もいいと思っているが、今後太陽熱を利用する上での問題点や普及する上でいいアイデアがあれば教えていただきたい。

 A:強引な売り方があってそれが評判を下げたと言われている。太陽熱に関する調査結果では恰好が悪いと言う意見が多いとの事であり、デザインの改良が必要と思う。実際に改良が進められているが、マーケットとして成立していないから本格的に作る企業が成り立っていないのが現実である。いろいろ聞いてみると水を使うので10年ぐらいたつとパイプに穴が開いて水漏れがすることなどが起きている。
パッシブソーラーのような形で空気集熱方式が上手にできるようにしていけばよいのではと思われ、日本でも1万戸程度パッシブソーラーハウスが作られている。もう一つは太陽光パネルの裏側に温水コレクターを張り付けると太陽光発電の効率を上げることができる。太陽光パネルの温度を下げることができるからであり、アメリカのMITがそういうレポートを出している。また、温度が高い場所があればそこで発電する電熱発電素子の効率が少しずつ向上してきている。これを使って一つのパネルから電気と熱を取りだすことができ、これを利用する研究が行われている。

終わりの挨拶(環境研究会会長 安カ川 常孝)

本日は私ども環境研究会の講演のためにわざわざ東京からお越しいただきありがとうございました。今日は私が今まで知らなかった話がありました。この20年間にわたるIPCCですが、私は政策的に作り上げてきたものと思っていましたがそうでないということが今日認識されました。私にとって非常に大きな収穫でした。

私たちはエネルギーに関する分野に非常に関心を持っています。エネルギーに関して政府、各種団体などのデーターを使っています。そのデーターを出発点として考えますので、本日はそのデーターの中身について詳細に説明いただき、よくわかりました。

私ども環境研究会は多方面にわたる多くの専門の技術者がいますので、質疑応答のところで非常に多岐にわたる質問がありましたが、それぞれの質問に丁寧に根拠を示して説明をいただきました。非常に今日は収穫の多い講演会であり、まことにありがとうございました。

(文責 鈴木秀男 西島信一 監修 槌屋治紀)