車載用リチウムイオン電池の現状と今後の展望

著者: 橋本隆幸  /  講演者: 小林弘典 /  講演日: 2018年10月13日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2018年11月22日

 

近畿本部化学部会(201810月度) 講演会報告

  20181013 日(土) 15:0017:00
  日本技術士会 近畿本部 会議室

講演1.車載用リチウムイオン電池の現状と今後の展望

講師 小林 弘典先生(理学博士)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
エネルギー・環境領域電池技術研究部門 総括研究主幹
(兼)蓄電デバイス研究グループ 研究グループ長

1.産業技術総合技術研究所でのリチウムイオン電池の研究についての紹介

産業技術総合研究所(以下産総研)関西センターでは、エネルギー関係の研究開発に注力しており、現在、電池技術研究部門では研究開発の二本柱として蓄電技術並びに燃料電池技術が取り組まれている。実用化に繋がる研究開発事例としては、固体高分子型燃料電池を搭載したエネファームの評価技術の開発、およびニッケル水素電池の負極材料である水素吸蔵合金の開発が挙げられる。
リチウムイオンニ次電池の開発は長期間にわたり国家プロジェクトを中心とした研究開発に携わってきた歴史がある。近年では、革新蓄電池を対象に研究を進めており、硫化物電池、コンパーション電池や全固体電池の開発に注力している。詳細の研究内容として、リチウムイオン電池の各種構成材料での新材料開発の取り組み、加えて、電池構成材料解析による劣化評価、劣化抑制手法の取り組みについて説明があった。

2.スマートコミュニティで期待される蓄電池の役割

スマートコミュニティで期待される蓄電池の役割として、定置用途と電動車用途に大きく分けることができる。定置用途としては再生可能エネルギーの蓄電、電力需要対応、さらに家庭用蓄電が、電動車用途としてはハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)および電気自動車(EV)がある。リチウムイオン電池(IB)、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ナトリウム硫黄電池、及びレドックス・フロー電池の特徴と蓄電池の事例を紹介された。

3.車載用リチウムイオン電池の現状

現状、使用されているモバイル用、自動車用、定置用のリチウムイオン電池に要求される特性項目について、安全性・信頼性・エネルギー密度、入出力密度や寿命の視点で特徴を述べる。
リチウムイオン電池は、正極、負極、電解液およびセパレータで構成され、その中でも正極材料、負極材料の平均電位と容量密度の関係からリチウムイオン電池の他の電池系に対しての有位性を、また、電極を薄くすることによりリチウムイオン電池の実用化につながった。
事例として、円筒型電池の製造について、電極製造および電池化のプロセスを紹介する。LIBの材料に関して、正極活物質、負極活物質が重視されていたが、最近では、バインダー材料が重視されてきており、各社がエネルギー密度向上とコスト削減できる電池の開発を進めていることが紹介された。

4.全固体リチウムイオン電池の概要と今後の展望

革新電池として全固体リチウムイオン電池(硫化物系)の原理と開発の現状の説明があり、2023年頃の実用化を目指し、全固体リチウムイオン電池の開発が進んでいる。特に、電動車用として硫化物系の全固体電池の検討が進んでおり、高性能化、長寿命化が期待される。注意点としては、水と反応すると硫化水素が発生する危険性のあることが挙げられる。
酸化物系は安全であるが、硫化物系より性能は劣る。活物質と固体電解質での、固体-固体間の良好な界面の形成が全固体電池では極めて重要な要素である。新規な製造プロセスの開発の必要性も想定されることからビジネスチャンスになり得る。

   図液体と全固体電池の比較

今後の課題として、硫化水素の発生の問題、安全性、材料コストおよび製造コスト低減が挙げられる。また、将来的な量産技術の確立とビジネスとして成立するかは現時点で不明ではあるが、全固体電池の実用化に対して電池技術研究部門として最大限の協力をしていきたいと考えている。

Q&A

Q PCSはどのような役割をしているか。

A パワーコンデショナーといい、太陽光発電システム等で発電された電気を家庭などの環  境で使用できるように変換する機器である。

Q 全固体電池でのプロセス技術で最も重要と思われるものは何か。

A 製造コストで考えた場合、製造プロセスで水分(露点)をどこまで許容できるかがドライルームの電気代の削減につながることから重要となる。材料レベルでの耐水性向上が本質的な課題解決のポイントになる。

Q リチウムは中国が主要な産地であると思うが、原料の確保はある程度できるか。

A 資源の専門家の話によると埋蔵量があるので、過度的に足りなくなる可能性はあるが、長期的には大丈夫である。

Q 電極スラリーや電極中での構成材料(活物質、導電助剤及びバインダー)の分散状態の評価指標が難しいが、どのような評価をしているのか。

A 電池の場合、難しいのは電池として評価しないと特性の優劣がわからない点である。必要であれば、電極の断面について画像評価したり、スラリーのレオロジーを評価したりする方法もある。

Q 飛行機でリチウムイオン電池が発火した事故について、事故の原因がわかってきているか。

A 明確にはわかっていない。接続機器との問題で、電池が耐えられない状態になったと話を聞いたことがある。現在、セル燃焼時の熱伝播を防止するための隔壁を設置する対策等がとられている。

Q 正極でコバルトを使用するとのことであるが、新規利用が増えると値段が高騰すると予想される。コバルトフリーについての意見を伺いたい。

A コバルトについて、投機的な視点で高騰している。ただ、コバルトの産出量の内のリチウム電池用途の比率が大きくなってきており、コバルトの使用を避ける動きかおる。ただし、電気特性の観点からは使用したほうが望ましい。電池技術研究部門ではコバルトフリーを目指した研究開発も実施している。

Q 全固体電池では硫化水素が発生するとの話であったが、酸欠則の中に硫化水素は10ppm以下にしなければならないとの規定かおる。安全性の確保はできるのか。

A 硫化水素発生量低減の取り組みは進んできており、自動車としては搭乗者の安全の担保はできると考えられる。硫化水素の発生量については、車載用では多くの電池を搭載するので、総発生量を考えることが必要である。

Q 定置用の電池では、将来的にどのようなものを目指していくのか。

A 現状では不明である。国によっても想定される利用状況が異なる。海外では、蓄電池を使用し、短周期の変動を吸収する利用方法があり、リチウムイオン二次電池の利用が増える可能性もあると考えられる。

Q 中国ではEVの発火事故が多く、中国製の二次電池の安全性が十分ではなく、EV化の計画も遅れていると聞いたことがあるが、HEVPHEVの販売は中国でも伸びているようである。EVよりHEVPHEVの方が性能的に良いように思うが、今後、中国でのEV化は予定通りに進むか、お考えをお聞きしたい。

A HEVは日本メーカに技術的に優位性があり、中国メーカでは短期間での技術のキャッチアップが難しい。そのため、HEVについては補助金等での優遇がなされてこなかったことであまり普及してきていない。中国の技術開発ロードマップでは、EVPHEV、最後にHEVの導入を目指すことになっており、当面はEV化を中心に導入が進むと考えられる。

文責 橋本隆幸  監修 小林弘典