チェルノブイリと、フクシマ 当時と今 「原発事故から何を学び、将来のエネルギー問題を考える」

著者: 奥村 勝  /  講演者: 小野山 充 /  講演日: 2019年1月21日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2019年03月30日

 

環境研究会第89回特別講演会

日 時;2019121日(月) 1830分~2030
場 所;大阪市アーバネックス備後町ビル3階ホール

チェルノブイリと、フクシマ 当時と今

「原発事故から何を学び、将来のエネルギー問題を考える」

講 師;小野山 充 (フリージャーナリスト)

1.チェルノブイリ原発事故の大惨事を忘れないで

ウクライナという国は1991年旧ソ連から独立。人口5千万人、国土は日本の1.6倍、面積の70%が穀倉地と森林で主な産業は農業、鉱業であり、科学技術水準も高く軍需産業もさかんである。チェルノブイリ市はウクライナのキエフ州にある。

1986426日未明、4号機の核反応の制御に失敗し大爆発。当時のソ連は大惨事をひた隠していたが、事故18日後にゴルバチョフ大統領が会見で原発運転員の規則違反で大惨事が起こったと公表した。

旧ソ連は、事故から34日後に、原子炉から放射性物質が外部にでないよう、原子炉建屋の周辺を厚さ50cmのコンクリート層で覆った。しかし時間の経過とともに、放射能が外部に漏れ始めたため、201610月にフランスの協力でより安全な新しい石棺が完成した。この写真は高さ105m、幅257mの大きなかまぼこ型のシェルターを建設した。

チェルノブイリ原発事故による放射能物質はスウェーデン、フランス、英国、ドイツ、イタリア等ヨーロッパの40%、トルコ、中近東、中国、日本等アジア、北米に飛散した。現在も、ウクライナ、ベラルーシ、ヨーロッパ側ロシアで約5百万人が被爆者として危険レベルの放射能とともに暮らしている。うち約百万人を越える子供たちは、今なお甲状腺がんをはじめ、他の健康被害にも悩まされている。

小野山氏は、20176Solo East Tour社ツアーに参加し事故31年後の現地取材をされた。革命広場から出発してチェルノブイリ市にある原発1号から事故の4号機跡の現状を見学。31年間事故のまま放置されている死の街プリピャチ市内を視察。

見学した翌日にチェルノブイリ障害者市民団体ゼムリャック(同郷人)を訪ねている。ゼムリャックは、5名が事務所で働いてすべての避難民(会員数約3,000人)に甲状腺がん等の治療薬を援助しているが、最大の課題は資金不足である。小野山氏は、20184月に本講演内容に関連した書籍「生きる力」を出版し、書籍販売でえた売上金及び印税の全額をすべてゼムリャックに寄付している。被災者とのインタビューでは原子炉の試運転技術者ニコライ氏、タービンの保全・安全の技師のバレリー氏から事故との生々しい話、事故後に甲状腺がんや骨髄がんが発症した家族の話、当時中学9年生で被災したアンナさんから事故3日後にバスでキエフに移動したが現在身体障碍者で父親は甲状腺がんで亡くなっている話などの紹介があった。そのあと、チェルノブイリの現状の映像を見ながら説明された。

ウクライナ政府発行によると1986年事故後から2004年までウクライナの事故時0歳から14歳までの子供の甲状腺がん発症者数は、約30倍に増えている。

2.フクシマはチェルノブイリ原発事故から何を学んだか

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震と津波の影響により、第1原発で発生した炉心溶融(メルトダウン)によって大量の放射能物質が放出。最悪のレベル7(深刻な事故)に分類された。各原子炉は地震で自動停止した50分後、高さ14mの津波が発電所をおそい、地下に設置された非常用電源の喪失、核燃料の冷却ができなくなり、核燃料が自らの熱で溶けだした後、水素ガス爆発を起こし、原子炉建屋、タービン建屋等が大破。その結果、チェルノブイリ事故での約6分の1相当の大量の放射能が大気中、土壌、海洋、地下水へ放出された。

これまで5年に1度は原発事故が起きている。フクシマ事故は、以下の問題点があった。

①甲状腺がん予防薬の備蓄なし
原発内の事務所のみならず各市町村で備蓄をしていなかったため、事故発生後、ヨウ素剤の迅速な配布はできなった。当時の日本政府はフランス政府からヨウ素剤の提供を拒んだ。

②住民避難のまずさ
チェルノブイリでは、事故後3日目から数千台のバスをかき集め、ほとんどの女性と子供をキエフやモスクワに強制的に避難させた。一方、日本では住民を避難させるのに時間をかけすぎた。

③事故後の責任の問題
ウクライナでは「チェルノブイリ法」を作り、即座に避難者救済のため消費税2%を上げて、「国家に責任がある」と規定した。日本政府は当初、フクシマ原発事故に対し責任を回避し、増加しつつある小児甲状腺がんも原発事故の直接の影響ではないと主張。

このように原発安全神話によりチェルノブイリ原発の教訓は生かされなかった。朝日新聞によるとフクシマを中心として201712月現在、甲状腺がんにかかった子供たちは184名、20189月5日現在の患者数累計201人とある。チェルノブイリ原発事故10年後に甲状腺がんが増え始めたことにより日本も油断はゆるされない。

高速増殖炉もんじゅの廃炉、使用済み核燃料再処理等で多額な費用をかけても、うまくいかず、核燃料サイクルを軸とした原子力エネルギー政策を抜本的に見直さねばならない状況にある。

3.日本に原発はいらない

日本は地震大国、ほぼ毎日のように発生。しかも世界で発生しているマグニチュード7以上の地震の実に20%以上が日本で発生している点、原発がなくても自然エネだけで電力必要量を賄えることから日本に原発はふさわしくない。

世界的にみれば新規案件の再生可能エネルギーの発電コストはすべて下がっているが、フクシマ原発事故から安全対策の追加費用がかかるようになり原子力発電コストが上昇しており、一番高くなっている。最近、英国向けの原発建設も取りやめになった。

世界一原発の割合が高いフランスは、原発依存を77%(58基)から50%へ大幅に減らすと発表。2035年までに原子炉20基を閉鎖し、そのため電力供給量を確保するため、大型の風力と太陽光を増やす。

火山・地震・津波国では、全原発を廃炉にして水力、太陽光、風力・地熱・バイオマスにシフトすべきであろう。比較的強い風が吹く東北と北海道地方で大型の風力、それにフクシマいわき市沖に浮体式洋上風力発電の設置なども今後、拡大し活用すべきである。

参加者からの意見

1.原発を止めるに越したことはないが、世界中の原発を止めても核燃料は残っている。再処理も全部止めろというのは、その何百トン、何千トンもある核燃料を常に水の中に入れて管理しなければならない。それを考えると適切な維持管理をしながら、原発を動かしながら、利益を上げながら、そのお金で適切に廃炉に持っていくような工程をつくらないと、止めるというだけでは非現実的である。管理が不適切になって大事故になるというのを、専門家としては心配している。その点をもう少し突っ込んでお話しをいただければよかったと思う。

2.関電美浜原発で配管破裂をしたが、冷却水が半分以上失われても、電気に頼らない方法でうまく冷却をやった。なぜそれが福島に生かされていなかったか。
フクシマ原発事故は政府の規制とか設計基準がかなり不十分だった点が問題であると思う。そういうような政府の責任を、ジャーナリストとしてもっと突っ込んで頂けたらと思った。

閉会のあいさつ(安ヵ川会長)

小野山先生、本日はありがとうございました。小野山先生はジャーナリストとしてのお話をなさったと思うが、この会場にいる方は皆技術屋でして、それぞれの専門では、その専門領域に関して独特の見解を持っています。

福島の事故が起こったときに、日本の首相と官房長官が作業服を着て原発に乗り込んだ。それを、テレビのニュースで世界中が見ていた。その時に世界中の人は何を言ったかと言うと、日本は一体リスクというものを考えているのかということであった。原発をやるということになると、当然廃棄物の話も出てくるし、放射能の話も出てくる。リスクをどのように考えるかということも出てくる。

私たち技術士というのは、自分の専門領域でたまたま置かれたところが原子力発電所の開発に関わるところもあるし、放射性廃棄物をどうするかということに関わる専門家もいる。各々の専門領域がそうなっていることもある。

参加者の意見は、小野山先生が自分で感じられたことをおっしゃったと同じように、技術屋の立場で、技術士としての見解を述べさせていただいたと思う。本日はどうもありがとうございました。

         講師 小野山 充 氏

         文責 奥村 勝、監修 小野山 充