欧州における化学物質の安全性に関する規制の動向

著者: 和田 信之  /  講演者: 安部田 貞治 /  講演日: 2019年2月9日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2019年04月04日

 

化学部会、繊維部会(第69回)合同講演会

日時:201929日(土) 13301630
場所:大阪産業創造館 5階会議室

講演1.欧州における化学物質の安全性に関する規制の動向

講演者 安部田 貞治 技術士(化学、総合監理)日本繊維技術士センター 顧問

1.化学物質の安全性に関する規制の概要

欧州における化学物質の安全性に関する規制には、法規制に関するものと自主規制に関するものがある。本講演では、法規制である欧州委員会によるREACH規則,CLP規則,およびBPR規則について、また自主規制の中には政府機関によるものと非政府機関によるものがあり、それらのいくらかを説明していく。

    安部田技術士 講演の様子

2.法規制について

1REACHRegistration, Evaluation, and Authorization and Restriction of Chemicals

REACH規則はEUにおける化学物質規制の原点であり、基本的な考え方は予防原則である。有害性が科学的に十分立証されていなくとも、合理的な懸念があれば事前に予防措置を取ると言う考え方である。その目的は、人間の健康および環境の保護などであるが、一つの大きな目的としてEU化学産業の競争力の維持と強化がある。

化学物質の評価を行政から企業に移し、既存物質と新規物質を同等に扱い、EUで開発されたより安全な物質への切り替えを促進し、EUの化学産業の競争力を高める意図がある。EUで1トン/年以上の化学物質について、製造又は輸入を行う際には、すべて登録する責務がある。

REACH実施のプロセスではすべての化学物質を登録し、データのない化学物質はEU域内では販売できないこととしている。

化学物質の登録には、次などの情報が必要となる。
・物質を特定するデータ/情報、毒性学、生態毒性学的な情報
・用途、環境への暴露
・予想される製造量
・物質の分類および表示の提案 ⇒CLP規則
・安全データシート(SDS
・意図する用途をカバーする予防的リスク評価
・リスク管理措置の提案

2018531日に登録が締め切られ、物質数として20608種の登録が完了した。生産量の少ない物質は経済性を考慮し、登録されなかったと考えられる。  

REACH規則で認可を受けるべき物質(認可物質)として、発がん性、難分解性、生物蓄積性、内分泌撹乱物質などに該当する高懸念物質SVHCSubstance of very high concern)がある。

繊維産業に関係しそうな物質としては、例えば、芳香族アミン、染料、顔料、溶剤、可塑剤がある。SVHCは欧州化学物質庁(ECHA)から公開される。SVHCの使用を希望する者はEU官報に示された認可申請締切日までにECHAに認可申請をする必要がある。認可申請がされるとECHAが申請に対するコメントを広く募集し(パブリックコンサルテーション)、欧州委員会で裁定が行われる。認可されない場合、日没と称する日でその化学物質使用が禁止される。 

製造、輸入、使用が制限される物質(制限物質)には発がん性物質などが含まれ、特定の用途以外では使用が禁止されている。たとえば、プラスチック可塑剤に使われるフタル酸エステル類は制限物質であり、規定濃度以上での使用が禁止されている。REACH違反の罰則は国によって異なるが、罰金または懲役刑の対象である。

2CLPClassification, Labeling and Packing

CLP規則は、EU内で製造又は輸入する化学品の分類、表示、包装に関する規則であり、特定の物質について届出を義務付けている。従来のEUにおける分類をベースにGHSGlobally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)の分類法と絵表示を導入し、危険有害性のあるものについては、提供者はラベル表示で危険性、有害性情報を示す責務がある。

3BPRBiocide Product Regulation

20131月から殺生物製品に関する指令が改定され、処理された成形品を追加して、BPR規則となった。有害生物に対する、もしくは反する作用を有する物質又は微生物である活性物質と、活性物質を含む殺生物性製品が対象となる。例えば、トイレシート、ワイプ、抗菌性雑巾は殺生物性製品となる。BPR規則にあるホワイトリストは、BPR規則に基づいて承認申請し、受理されたサプライヤーが記載されている。EU域内で殺生物性製品を上市できるのは、掲載されたサプライヤーのみである。

3.自主規制について

自主規制は、製品が安全であることなどを差別化のポイントとしたもので、政府機関によるEUエコラベル(日本でのエコマーク)がある。 消費者保護、環境への影響、持続可能な生産と社会的側面を重視し、38の製品分野を対象にし、繊維製品も含まれる。原料繊維を例にとると、使用する繊維に使用してはならないSVHCCLP規則の有害物質などの基準値が決められている。

非政府機関の自主規制としてはエコテックス規格がある。ヨーロッパで起きた衣料品店の中毒事故などを契機に安全な衣料品のための基準がドイツとオーストリアの研究所を主体に1992年に策定された。エコテックスの事務局はスイスにあり、日本も含めて、多くの国の試験機関が参加している。エコテックスは繊維製品の安全性を保証するラベルとなっており、ヨーロッパに繊維製品を輸出する場合には、その認証が必要となる場合が多い。REACHで新しいSVHCが公示されても7年間の猶予があるが、エコテックスでは翌年からの規制となる。

その他、スイスのBluesignオランダの環境保護団体GreenpeaceによるDetoxキャンペーンなどの自主規制もあり、ベルギの輸出協会などによる規制もある、またM&SAdidasNikeユニクロなどアパレル企業では企業独自で制限物質リスト(RSL)を発表している。

文責 和田 信之  監修 安田部 貞治