繊維仕上げ剤としてのマイクロカプセル
化学部会 講演会(2019年12月度)報告
日 時 :
2019年12月14 日(土) 15:00~17:10
場 所 : 日本技術士会近畿本部会議室
講演2 繊維仕上げ剤としてのマイクロカプセル
~ その応用例と開発動向について ~
講演者 : 高岡 直樹 技術士(化学)(三木理研工業株式会社 開発技術部)
1.マイクロカプセルとは、発見時の対応について
マイクロカプセルとは、大きさ数μm~数百μmの容器であり、海洋マイクロプラスチックの大きさ(0.3~5mm)と比較すると非常に小さい。粒径を体積基準球相当径で判断し、分布の中央値をマイクロカプセルのサイズと定めている。
カプセル壁はウレタン、メラミン、アクリルなどで構成されており、用途は幅広く、感圧紙、感熱紙などのノーカーボン紙をはじめ、農薬、化粧品などがある。
図1:マイクロカプセル
2.三木理研鉱業株式会社の概要
三木理研工業株式会社は、昭和42年に創業、従業員数約50名(パート含む)であり、ISO9001、BlueSign®システムパートナー、健康経営優良法人を取得しており、和歌山市内では優良な中小企業であり、地域未来牽引企業と認定されている。和歌山市に本社および本社工場、紀の川市に桃山工場がある。「優しさ創造コーポレーション」をキャッチフレーズとして、様々な日常生活での課題解決に取り組んでいる。
事業として、繊維仕上げ剤の製造・販売、建材用の薬剤の開発・製造・販売があり、製品は、繊維用仕上げ剤として、撥水剤、風合い調整剤、形態安定加工剤、抗菌剤、芳香剤などがあり、建材用薬剤として接着剤、木材寸法安定剤(スギ・ヒノキ)、防炎剤、ホルマリンキャッチャー剤などがある。
3.繊維仕上げ剤の開発
アパレル製品の製造過程で機能化を持たせるために繊維仕上げ剤が使用される。その製造工程は、パッダーで加工薬剤を投入し、パッドスチーマーで加熱し、布や糸に繊維用仕上げ剤を含ませる。
撥水性を持たせるために、PFOS、PFOAを使用しているが、それに代わる樹脂の開発を行う。また、形態安定加工薬剤としてのグリオキザール樹脂及びメラミン-ホルムアルデヒド樹脂を開発している。グリオキザール樹脂は、尿素、ホルマリン、グリオキザールの付加反応により合成される。製品は水溶液状態であり、綿やポリエステルで使い分けをする。例として、USED加工ジーンス用の色落ち防止として使用されている。
4.建材用薬剤の開発
木材が天然繊維と同じセルロースであるという観点から、20年以上前より建材用薬剤を開発している。これまでに、建材で使用される接着剤やホルマリンキャッチャー剤を開発している。そのホルマリンキャッチャー剤は、シックハウスの原因の一つであるホルムアルデヒドを除去し、国内有名断熱材メーカー使用率100%のシェアを誇る。さらに、木材の寸法安定化技術により高機能国産材を開発できた。
5.マイクロカプセルの開発と応用
繊維仕上げ剤としてのマイクロカプセルは、乳化・in situ重合法により製造する。
芳香マイクロカプセルにおいては芳香剤に分散剤を添加後、乳化し、これにプレポリマーを添加してマイクロカプセル化を行う。潜熱蓄熱マイクロカプセル開発のためには、凝固点降下が著しすぎる点を結晶核の検討やオイルの種類を変更することにより改善できた。メラミン―ホルムアルデヒド樹脂を膜剤とした場合、さらに、ホルマリンキャッチャー剤を添加することにより、マイクロカプセルを複層化し、強固にすることができた。
お客さまのニーズによりマイクロカプセルを水分散型から粉末型への検討を行い、噴霧乾燥を採用した。
マイクロカプセルの粒子径を制御し、噴霧乾燥を行い、条件を検討することにより耐熱性を向上させ、過剰になるホルムアルデヒドに対しては、ホルムアルデヒドキャッチャー剤を添加することで解消した。
図2:噴霧乾燥プロセス
潜熱蓄熱マイクロカプセルにポリエチレンやポリプロピレンを混練し、マスターバッチを生成し、そのマスターバッチに樹脂を添加し、成型により潜熱蓄積燥粉末でマイクロカプセルが得られたことにより様々な加工利用ができるようになった。潜熱蓄積材の例として、ポリスチレンシート、ポリウレタンシート、ポリエチレンメッシュ、ポリエチレンシートなどへの加工が可能である。
6.今後の取り組み
一般社団法人日本潜熱蓄熱建材協会に所属し、標準化部会、利用促進部会での活動を通じて、潜熱蓄熱建材としての課題解決のため、シュミレーションソフトの作成や分析のためのJIS規格の作成に携わり、マイクロカプセルの耐熱性、耐圧性向上への取り組みや製造過程での残留モノマーの削減、海洋マイクロプラスチックへの対応を検討する。
Q&A
Q 噴霧乾燥で使用されるアトマイザーでディスクタイプを採用された理由は何か?
サンプルを見るとプラスに帯電しているように思われるが、電荷のコントロールをされているのか?
A アトマイザーのディスクタイプとノズルタイプのうちディスクタイプを選んだ理由は、マイクロアプセルの粒径が大きいことと制御がしやすい事がある。ポリエチレンとポリプロピレンを混合する際のニーズが大粒径であったため、そのまま継続してディスクタイプで取り組みをした。
表面電荷の制御について、pHによる制御や添加物の調整によって行っている。後工程に応じて調整をすることがある。粉末にし始めたのは、最近になってからである。
Q 残留モノマーの話をされたが、メラミンが分解してホルムアルデヒドが生成されるが、ホルマリンキャッチャー剤はどういうものなのか?アミン系であるか?
A 基本的には、アミン系である。脂肪族アミンや尿素類縁体がある。
Q カプセルをコアの外へ成長させる場合と中へ成長させる場合がある。内側成長させる検討をしており、酢酸エチルやMEKを使用して水スラリーにするが、それらがどうしても残留する。中のコア材が、MEKや酢酸エチルに溶解し、どうしても外へ出てしまう。
何か良い方法はないか?
A 芳香カプセルの場合、特定のオイルと芳香成分を混合する事例がある。有効成分がオイルと馴染めば、芳香剤になり得る化学物質を取り込む事ができている。溶剤成分の分子量を大きくできれば溶出が抑えられる可能性がある。
(文責 橋本隆幸 監修 高岡直樹)