感染症収束に向けた化学技術力の発揮
化学部会 講演会(2020年8月度)報告
日 時 :
2020年8月1日(土) 14:45~17:00
場 所 : 日本技術士会近畿本部会議室(web方式を併用)
講演2 感染症収束に向けた化学技術力の発揮
講演者
: 伊藤 雄二 技術士(化学)
(化学物質管理士、有限会社相模ソリューション顧問)
講師は、化学物質のリスク評価を専門分野とする技術士。化学物質の有害性調査での国の専門委員で、座長は公衆衛生学の泰斗である。その関連での教科書類も収集をしてきた経歴がある。
1.公衆衛生と化学物質管理との関連性
公衆衛生における化学の立ち位置は、阻害要因(公害など)は大きいものの、化学が貢献する分野(消毒や保護具)も取り上げられている。
公衆衛生は、憲法25条に規定される関係で、医師資格者が携わる感染症の法体系には、化学物質管理に係る法令が組み込まれる形になっていた。
2.感染症の基礎知識
感染症関係の教科書類は、公衆衛生、病理、産業衛生、代謝と免疫分野から書物を紹介して、基礎知識となる用語も解説している。
新型コロナは感染症法の2類と5類に指定されており、保菌者は感染者と同じになる規定もある。保菌者を知った管理者は保健所に届出の義務もつくことになる。
講師の考察によると、法的な面での応用課題として、管理者(イベントの主催者などを指す)には、感染症に関する法的な基礎知識の獲得に加えて、法的責任への解決法の獲得も求められている。
講演会に出席する場合を想定して、説明責任に関わる事項として、参加者の健康(体調)管理に使える指標、感染までの潜伏期間(7日程度)と、宿主細胞内での増殖の早さ(5-6時間程度)、データ()内は新型コロナでの情報を追加した。
体調のわずかな異変と免疫が働き始めることについて、こまめな検温にて気づく点にも着目した。既知ウイルスと同様に、消毒の徹底、適切なマスク、換気の励行などの予防策にも着目した。
以上を受けて、ウイルス感染防御に効果を出すための、消毒・保護具の役割、技術士の役割について、これまでの経験と考察を交えて、説明された。
3.毒物と毒液の発見
16世紀に毒素は用量に応じて毒にも無毒にもなる傾向が、19世紀前半に、次亜塩素酸カルシウムに消毒の効果が、19世紀後半には免疫とワクチンの効果が発見された。19世紀末にタバコモザイク病の病原体が毒液に存在することが発見され、毒液にウイルスと命名された。
20世紀前半に電子顕微鏡が発明され、ウイルスの結晶構造が観察されたことで物質とされた。
20世紀後半には、ウイルスの核酸(RNA、DNA、)が遺伝子分析され、増殖機能を持つウイルスの大発見時代が訪れた。
未知ウイルスは、治療法まで確立した既知のものよりも圧倒的に多い点は化学物質においても共通する。
4.消毒の役割
消毒は、これまでは、加熱以外の消毒薬はアルコールと塩素系薬剤であった。新型コロナの時代に入り、わが国では、同様の効果のある薬剤の探索が進められている。
消毒といえども用量次第では毒にもなるので、適量を定めた許認可の法制度の規制を受ける。
5.呼吸器保護具の役割
抗ウイルス性マスクは、わが国には、国家標準に加えて、5年前から業界標準がある。規格に合格する市販品の中での実用テストは必要である。
6.技術士の役割
有機化学の専門分野には、新たに「毒性学」「分析化学」「化学物質監理」が加わった。「感染症収束に向けた化学技術力の発揮」にも貢献する専門分野になることが望まれる。
(文責 橋本 隆幸、監修 伊藤 雄二)