バイオマス利活用について

著者: 濱崎彰弘、佐々木一恵  /  講演者: 笹内 謙一 /  講演日: 2021年1月23日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2021年05月05日

 

環境研究会・第96回特別講演会(WEB方式)

日 時:2021123日(土)  10:0012:00
場 所:ZoomによるWeb方式 

講演: バイオマス利活用について

講師: 笹内 謙一  株式会社PEO技術士事務所 代表取締役
 技術士(衛生工学/総合技術監理)

 

本講演では日本のバイオマスの利活用の第一人者の笹内氏(写真)に講演頂きました。

講演はWEBで行われ、開始10分前から講演会の準備事項が表示、時間になると環境研究会会長の司会で講演会の注意事項説明、講師紹介の後、講演が始まりました。

     

 

1.バイオマスに係るようになった経緯

大学で金属材料工学を専攻し中外炉工業株式会社入社後も非鉄金属のアルミ、銅材の金属熱処理の業務を続けること20年、2003NEDOに採択されたバイオマス発電のプロジェクトマネージャー(PM)を命じられ、バイオマスの言葉の意味もよく知らないでバイオマスのエネルギー利用に取組み始めました。バイオマスのエネルギー変換方法下図に示します。ガス化を中心に、直接燃焼や固形燃料化など右図の朱記の部分、乾燥系バイオマスのエネルギー化に取り組みました。ガス化も初めてでしたが、技術を勉強し小型ガス化炉を自分のアイデアで始めたり、笹内という名前と縁がある竹にも長年取り組んできました。

    

 

2.日本の木質バイオマスとガス化発電の状況

東日本大震災の原発事故を契機に再生可能エネルギー固定料金買取制度(FIT)が導入され、製材端材や輸入木材などの一般木材の買取価格が23/kWhになった結果、パームヤシ殻(PKS)など海外バイオマスが大量に輸入され、効率の良い大型の30MW以上の発電所が8割も認可された。しかし、発電原価の6割が燃料費、減価償却費が15%なので、20年経ってFITが終了すると、14円程度の市場価格で買取られるようになり減価償却費がゼロになっても赤字になる。したがってFIT終了後は発電を終了し設備の撤去費まで事業計画に織り込まれている。燃料の取り合いによる価格の上昇や入札制度の導入により現在は新規の参入は激減している。

2016年に間伐材などの未利用木材で2,000kW未満の買取価格40/kWhが追加され、小規模でも効率が高いガス化発電が多数建設されたが大部分が欧州技術である。しかし、燃料に関するトラブルで稼働率が低くなっている。原因は、欧州と日本の燃料の性状の違いである。欧州はペレットやチップが規格化され、日本と比べてかさ密度が大きく含水率が低い。このため、同じ容量(体積)を投入すると日本では熱量不足となる。対策として燃料を乾燥して体積あたりのカロリーを上げるなどの方法がある。また、カリウムや塩素の含有率が欧州よりも日本の方が高いので、クリンカの生成による閉塞や塩素腐食が発生している。対策として燃料にカルシウム分の多いバーク材と混焼することで灰分の融点をあげ炉内に付着しにくくすることや、塩素腐食が起こりにくい燃焼温度に調整するなどの方法がある。この方法を以下の竹を燃料としたバンブーフロンティア事業の燃料の課題解決法として適用した。

 

3.竹(バンブー)フロンティア事業

竹の原産は中国であり、比較的温暖な地域に生息している。日本では西日本が中心である。東では千葉県に多い。かつては、さお竹、竹ひご、竹かごなどの利用があったが、その後竹材から工業材料への転換がおこり需要が急減した結果、放置竹林が増えた。竹は繁殖力が強く森林を侵食したり、近年の豪雨災害での地滑りの原因になって問題となっている。和ろうそくの産地熊本で竹灯籠を作っていた企業が竹のエネルギー化で相談に来た。竹は、含水率およびカリウムや塩素の含有率が高く燃料としての課題があり難しいのでやめるようにアドバイスしたが、NEDOの資金を活用してFSから実施することにした。

   

安定した集荷システムの構築、原料品質の確保、価格競争力の課題に対して、竹を原料とした建築資材での儲けを出すことと、熱を建築資材工場で有効利用することでエネルギー利用効率を上げるビジネスモデルを構築した。上図のような竹を収集するバンブーフロンティア社、竹や枝葉のチップとバークをバイオマス燃焼炉で熱電併給するバンブーエナジー社、および、竹チップから建築資材であるナンカンボードを製造するバン 事業を開始した。バンブーエナジー社からバンブーマテリアル社への熱電併給によるシナジー効果で、収益力が向上し、総合エネルギー利用効率が85.2%と非常に高いこととあいまって、CO2削減効果は年間約1万9千トンと非常に大きなものになった。

 

4.バイオマスコンサル会社の起業、業績状況

2017年に環境分野の長年の経験を活かして、バイオマスエネルギー分野で技術士としての公益性の確保と技術の中立性に重点を置く技術士事務所を開設した。FITで近年バイオマスエネルギー分野は盛んであり、一儲けしようとする人が多いが、地域や環境貢献を考える人はまれである。詐欺師が多くバイオマスエネルギー利用では先進の欧州の技術を導入するからということで騙される。よって、当社に来る相談の7割はやめとけと言う。相談は無料なので、儲けにはならないが、公正公明な最新の技術の普及でバイオマスエネルギー分野の発展に寄与することを社是にやっている。

起業はビジネスホテルの部屋位の狭い事務所で、2名で始めたが事務所を借りる保証金や開業資金で資本金はたちまちなくなり、銀行などの融資も得られず苦労した。その後会社勤務時代の人脈を中心に受注を増やし、現在社員7名(非常勤含む)、売上3000万円、事務所も約4倍の広さのところに移転した。業務内容は、売上の約半分が月極長期契約12年の顧問コンサル業務、売上の約1/4が2~3か月の短期契約のプロジェクト支援業務、残り約1/41~数回のスポットの技術支援コンサルである。

コロナの前からリモートで仕事をできる仕組みを整備しており、東京や熊本在住の社員もいる。バイオマスプラントの基本設計、PFD,P&ID、配置計画を行うプロジェクトコンサルをお手伝い頂ける技術士を随時募集しているので、ご関心のある方はスキルの登録をお願いします。

連絡先は、sasauchi@peo-bio.jp迄。

                     以上

質疑

講演の中盤と講演後に参加者からチャットで質問を受付け、演者から以下の回答がありました。

Q1.欧州はバイオマスのエネルギー利用が盛んで装置の種類も販売台数も多いが、日本との違いは、木質の違い以外に何かあるのか?

A1.ボイラーと言えば日本では蒸気ボイラーであるが、欧州は温水ボイラーである。欧州は熱文化で石炭を燃料としていたときから地域熱供給やセントラルヒーティングで、熱導管、熱量計のインフラが整備されていた。日本は寒い地方でも熱利用のインフラが無い。熱導管を今から整備するには多大な費用がかかる。

Q2.国産のガス化炉は、原料対策としてチップの性状を技術的、機構的に管理しているのか?

A2.種々のチッパーがあり形状がバラバラ、含水率も異なるので、チッパーや乾燥機の検討が必要だと意見を述べている。

Q3.冷ガス効率をあげるためカーボンのガス化ができるか?

A3.水蒸気を添加する水性ガス化反応でできる。吸熱反応なので外部からの熱が必要である。

Q4.熊本のバンブーフロンティア見学に行きました。成型機は中国製だったようですが?どうですか?また 竹を原料とする建材は売れてますか?含水率50%のバークをうまく燃やせるのはすごいですね。炉の形式選定(ストーカ炉)に特長があるのですか?

A4.中国規格は日本のJISJAS規格でないので使えない。ドイツの機械をコピーして中国で製造したものを使っている。ボードが固くて釘がささらないので建材ではなく建築資材として使っている。コロナ禍で住宅建築も止まっており現状売れ行きがよくない。バーク燃焼は、着火性の良い竹と混焼することによってよく燃える。

Q5.竹を集めることにご苦労されていますが、竹の賦存量は十分なのでしょうか?

A5.単位面積当たりの成長速度は樹木の約2倍で、タケノコから6年で生育するので、6年サイクルとすることで持続可能な利用ができる。

Q6.廃プラを高温ガス化炉でガス化することを検討した。バイオマスを高温ガス化炉に適用できますか?

A6.適用可能である。廃プラの知見は乏しいので追ってコンタクトして下さい。

Q7.竹林の整備に興味があり、竹粉の活用を検討している。アドバイス頂きたい?

A7.竹を原料に抗菌剤を開発したりユニークな取り組みをしている会社を紹介しますので追ってコンタクト下さい。

Q8.インドネシアのパームヤシ殻(PKS)発電はペイするか?

A8.ペイする。日本への輸送費込みで15,000/トンで入手できるが、乾燥しており発熱量が高く大量に入手できるので、大型で効率が高い発電ができるのでペイしている。

Q9.パーム油搾りかすはどうか?

A9.濡れており、カリウム、塩素を含み前処理が大変なので難しい。

10.外国産ボイラーが高いので安い国産ボイラーを探しているが良いものがあるか?

11.外国産ボイラーは高くない。日本の業者が年間数台しか扱っていないので、輸入すると3倍くらいの価格になってしまう。一般社団法人徳島地域エネルギーは、地域の再生可能エネルギーの普及を目的に作られた法人で、オーストリアのボイラーをむこうの定価で購入ができるので照会すればよい。ただし、欧州のボイラーで竹を燃やすと通常トラブルが起こるが、ここのボイラーは、NOX低減目的で排ガス再循環を行い燃焼温度を下げることができる。これによりクリンカの問題は回避できるが、その代わり、未燃の炭が出るのでので、ボイラーの特徴を理解した運用が必要である。

12.バイオマスエネルギー利用の課題は?

12.現状FITが無いとやっていけない。バイオマス発電で効率が高い蒸気タービンでも30%位で残りの70%のエネルギーは捨てている。発電よりも割合が高い熱利用が課題である。欧州は熱利用のインフラが整備されているが、日本でこれからインフラを整備するにはとても高くつくので、キノコ栽培、養殖場、温浴施設など熱を使う別の産業とマッチングさせることが必要である。

13.創業時の苦労を経て現在7名も社員を雇用して立派だと思います。仕事はどのようにして受注するのですか?

12.会社時代の人脈や、その人脈を通じての紹介などで得られる仕事が今はほとんどで、残りは事務所のホームページを見て依頼が来ている。

以上

追記 講演の次の週に、バンブーエナジー社の取組が今年度の新エネ大賞分散型エネルギー先進モデル部門の金賞である経済産業大臣賞を受賞しました。https://www.nef.or.jp/award/kako/r02/g_04.html

 

(文責:濱崎 彰弘/佐々木 一恵  監修:笹内 謙一)