二酸化塩素の化学

著者: 橋本 隆幸  /  講演者: 原 金房 /  講演日: 2021年5月15日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2021年10月13日

 

近畿本部 化学部会・繊維部会 合同講演会

日 時 :2021515日(土) 14:0016:45
場 所 :WEB方式

 

講演2: 二酸化塩素の化学
~製法・利用・効果・安全性について~

講師: 原 金房 氏
  株式会社 大阪ソーダ事業開発本部  イノベーションセンター主席

1.会社紹介

株式会社大阪ソーダは、1915年に創立し、従業員数は974名(連結)、601名(単体)であり、基礎化学品、機能化学品、住宅設備などの製造や加工、販売が事業内容である。本社は大阪にあり、小倉、尼崎、松山、水島に工場がある。

電解技術を通じて、苛性ソーダ、塩素ガス、水素ガス、苛性カリ、塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダが生産され、さらに塩素ガスとプロピレンと反応により、アリルクロライド、エピクロルヒドリンやジクロロプロペンなどの基礎化学品や機能化学品が生産されている。

2.二酸化塩素の性質と反応

二酸化塩素は、塩素1原子に対して、酸素2原子で構成され、沸点11℃、空気比重が2.33であり、気体では黄色、液体では暗赤色、塩素やオゾンに似た特異な刺激臭を有する。

二酸化塩素は、塩素やエッチングで使用する塩化鉄よりも酸化性が強く、腐食性や漂白作用があり、還元性物質と反応する。また、濃度が10vol%以上になると爆発性を示し、紫外線により分解しやすい。さらに、ヨウ化カリウムとの反応(pHにより反応が異なる)、気相での紫外線による分解やアルカリ水溶液との反応があり、オゾンや次亜塩素酸の反応により塩素酸を生成する。

二酸化塩素は、塩素酸ソーダもしくは亜塩素酸ソーダを原料として生成される。塩素酸ソーダが原料の場合、硫酸と過酸化水素を用いる方法、あるいは硫酸とメタノールを用いる方法等により二酸化塩素が生成され、亜塩素酸ソーダが原料の場合には、塩酸を用いる方法や電解法等で二酸化塩素が生成する。

二酸化塩素は、不安定な物質であるため運搬ができず、使用する現場での生成が必要になる。
実際には、塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダを水溶液で運搬し、現地で使用する形態が多い。

3.二酸化塩素の利用

二酸化塩素の利用方法として、パルプ漂白、繊維の漂白がある。また、原体の亜塩素酸ソーダは漂白作用・殺菌作用の目的で食品添加物として利用されるが、食品の完成前に除去されることが使用基準として設定されている。臭素酸生成抑制や消毒・防藻・除鉄目的で上水処理に使用され、水質管理項目設定基準として定められているが、二酸化塩素処理を行っても塩素消毒は必要になる。その他、プール水の消毒やレジオネラ対策がある。

近年、除菌剤としての使用が広まっているが、二酸化塩素は医薬品や医薬部外品ではなく、雑貨品として扱われ、除菌、ウイルス除去として性能を表記している。二酸化塩素は、標的とするウイルスや細菌のタンパク質(チロシン、トリプトファン)への酸化作用で、ウイルスや細菌の構造が変化させることによる機能が低下させ、除菌させることができる。

除菌剤製品として、空間除菌用のガス剤と液剤に分類される。使用時に反応により二酸化塩素を発生させ、除菌剤として使用される

4.二酸化塩素の生体への影響・安全基準

二酸化塩素ガスの生体への影響として、目や呼吸器への直接作業がある。米国では、参照濃度や最小リスク水準、許容濃度(0.1ppm)や許容暴露限界として設定されている。日本では、日本二酸化塩素工業会(以下、工業会と称す。)で室内濃度指針値(0.01ppm)が定められている。

二酸化塩素水溶液の生体影響として、亜塩素酸の毒性で評価され、NOAELNon Observed Adverse Effect Level;無毒性量)の測定値をもとにTDI (Tolerable Daily Intake;耐容一日摂取量、29μg/kg/)が定められている。

二酸化塩素の測定法は、気体の場合は、ガス検知管、ヨウ素滴定法、イオンクロマト法、隔膜電極法があり、水溶液では、ヨウ素滴定法、ジフェニル-p-フェニレンジアミン法(DPD法)、電流滴定法、隔膜電極法がある。

5.二酸化塩素製品の課題

最近の10年余りで二酸化塩素商品が大量に市場へ出た事により、社会問題が発生した。

国民生活センターでは、二酸化塩素による除菌をうたった商品や除菌用品の安全性に対する注意を促すために情報提供を行っている。

消費者庁からは、二酸化塩素を利用した空間除菌を標榜するグッズ販売業者に対する景品表示法に基づく違反に対して、企業側への再発防止策を行うよう措置命令が発令された。

工業会では、二酸化塩素での安全性や薬機法や景品表示法規制遵守への理解に課題があり、課題対応のための取り組みをしている。

          図:二酸化塩素除菌の仕組み

 

6.一般社団法人 日本二酸化塩素工業会について

設立は、20117月で、現在、正会員10社、賛助会員8社で構成され、二酸化塩素製品及びその関連製品の情報・資料の収集、規格基準、公正な普及発展や展示・広告に関する事業、また、国内外での学会や協議会等での情報交換や会員相互の親睦に関する事業を行っている。

さらに、工業会として、現時点で入手可能な科学的知見に基づき、室内濃度指針値(ガス剤)、自主基準運用としてのTDI基準(液剤)を定めている。

除菌・消臭目的の製品に関する家庭用製品の広告表示の基準を定め、消費者に適正な理解と安全な使用を確保することに努めている。

7.QA

Q:二酸化塩素の製造で、量産の際に、プロセス安全の視点でどうような評価をされているか

A:①二酸化塩素ガスは空気もしくは水蒸気で希釈して6~8vol%に抑える(爆発防止)
②原料の塩素酸ソーダ、亜塩素酸ソーダは支燃性物質であるため、衣類・軍手などに付着して乾燥した場合に火災の危険があるので、速やかに水洗するようにする(危険性について実演などでの教育をする) 
③プラントの補修工事を行う場合の火気使用の制限 
④紫外線で速やかに分解するので遮光を行う ⑤腐食性があるので耐食性のある材料を使用する ⑥作業者の被災の防止(保護具の着用)。

Q:分析で、注意すべき事項はどのような点か?

A:下記に示すような分析の値に影響する事項を考慮に入れている
①サンプリングの際、樹脂への吸着・透過が有る 
②紫外線で分解するので遮光する 
③分析方法によっては他の物質の干渉がある 
④サンプリング時の二酸化塩素ガスによる被災の防止(保護具の着用)についても注意する必要がある。

Q 次亜塩素酸水、二酸化塩素との安全性や効能の違いを教えていただきたい。

A 次亜塩素酸水と二酸化塩素は物質が異なっている。次亜塩素酸の場合、pHによる解離平衡があり形態が異なり、効果に違いが出る。アルカリ性下での次亜塩素酸イオンは、かなり効果が弱いとされ、pHにより保存安定性も異なる。次亜塩素酸は反応性が強く、特に有機物と反応し失活する。
二酸化塩素は有機化合物との反応性が弱く、目減りが少ない。次亜塩素酸はトリハロメタンが生成する可能性があることから、安定性も含め二酸化塩素のほうが優れているのではないかと考えられる。

Q 空気清浄の製品として、次亜塩素酸の利用が多いと思われる。二酸化塩素は、気体であるため、空気清浄製品として有利であるか?

A 次亜塩素酸は二酸化塩素より作りやすく、利便性が高いために空気清浄製品が多いと考えられる。

Q 過酸化水素が還元剤になることには驚いた。二酸化塩素の、塩素の酸化数が+4から+3に還元されると考えて良いのか?

A 酸化還元反応は相対的な反応であり、過酸化水素の場合、酸化剤でも還元剤(酸化力が強い相手に対して)でも働く。酸化剤として働く場合、酸素の酸化数が-1から-2(水)に還元され、還元剤として働く場合は酸素の酸化数が-1から0(酸素分子)に酸化される。

Q 二酸化塩素の国内需給バランスが取れているか?

A 二酸化塩素の原料には、塩素酸ソーダと亜塩素酸ソーダがあるが、亜塩素酸ソーダの用途は、主に繊維の漂白であったが、繊維産業の海外移転に伴い、国内での用途が少なくなった。
現在、国内では食品添加物・除菌の用途が増えつつあるが国内需要全般としては減少傾向にあり、国内の生産会社は少なくなった。近隣の諸外国でも生産されており、国内の不足分は海外から輸入可能である。

Q 二酸化塩素は、沸点が11℃で気体である性質であるので、容器の形状も含めて運搬について教えていただきたい。

A 二酸化塩素は、基本的に運搬や保存ができないために、原料になる化学物質から現場で生成し、使用量が多い場合は装置で作ることになる。例えば、製紙会社では装置を導入して塩素酸ソーダを原料に生成している。小規模の場合は亜塩素酸ソーダを使用するが、固形品は危険物になるため、25%水溶液として販売している。

Q 工業会では、会員会社向けの取り組みとは別に、非会員会社が勝手なことをしないために消費者向けの啓発活動も紹介してほしい。

A 工業会では、二酸化塩素のパンフレットの配布、WEB上での情報公開、参加企業から活動を通じて、消費者向けの活動を推進している。

(文責:橋本 隆幸  監修:原 金房)