環境アセスメント ―世界の動向及び国内での実践活動について―

著者: 綾木 光弘  /  講演者: 原科 幸彦 /  講演日: 2013年2月8日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2021年10月27日

 

環境研究会 第56回 特別講演会要旨(公益社団法人 日本技術士会近畿本部共催)

日時;2013年2月8日(金)1830分~2030
場所;大阪市 アーバネックス備後町ビル3階ホール

 

講演 環境アセスメント  ―世界の動向及び国内での実践活動について―

講演者:原科 幸彦氏
千葉商科大学教授、東京工業大学名誉教授、国際影響評価学会(IAIA)元会長

持続可能な発展、維持可能な発展

今回の福島での事故を受けて、エネルギー問題と環境アセスメントについて考えてみたい。日本でのアセスメントはグローバルな水準のものでなかったということが人々の前に露呈した。原子力発電所の立地に関して、建設地を選定する前に調査を十分に行っていれば防げたかもしれないが、1960年代に建設されたこの原発に関しては不可能であった。しかし、日本のアセスが簡易アセスを有する国際水準のものであれば、原発稼働後の定期検査などで簡易アセスを行うことで非常用電源は津波被害を受けない安全な場所に移設された可能性は大きい。

ただ、今後の対応の方がより重要であるので、原発事故後の好ましいエネルギーミックスと持続可能なエネルギーとは何かということが重要テーマとなっている。

アセスメントに関するこれまでの世の中の動向をまとめると、まず1992年のリオの地球サミットを受けて、1993年には、環境基本法ができて、その中でアセスメントの推進を規定した。その内容として、アセスメントの本質は意思決過程の透明化が重要であり、情報公開と住民参加が必須となった。住民参加に関しては、オーフス条約で環境政策への住民関与が提示されているが、日本ではこれが十分には達成されていない。

2.環境アセスメントの理念

日本では1997年にアセス法が成立、1997年に全面施行となった。1999年の藤前干潟保全問題は環境政策の転換点となったエポックメーキングな出来事であった。しかしながら、日本では簡易アセス制度がないため、これまでの実績としてはアセス実施の実例はあまりにも少ない数にとどまっており、中国やアメリカに比べて非常に少数である。そして巨大事業のみに限られている。

そこで、まず、簡易アセスメントについて考えてみる。

アセスの適用対象を広げ、まず簡単にチェックすることが肝要である。一部の先進的な自治体では、情報公開が進んでいるが十分ではない。また、代替案の比較検討は不可欠の要素であり、これによって適切な環境影響緩和措置の選択がなされる。

3.戦略的環境アセスメント(SEA)

より本格的なアセスメントとして、戦略的環境アセスメント(SEA)がある。2004年施行のEUのSEA指令は先駆的なもので、その後各国で制定・施行されてきた。これはこれまでの事業アセスでの対応から、計画アセスへの移行を求めるもので、政策・計画段階からの意思決定過程の透明化を図ろうとするものである。
会議ベースのSEAにおいて、透明性を担保する条件として、会議の場の設定、議論の公開、十分な情報提供の3条件がある。日本でこれが成功した事例として、2003年の長野県中信地区の廃棄物処理施設の検討が挙げられる。政策段階・基本計画段階・整備計画段階と各ステージで、合意形成がなされた。ただ全体的には日本はまだSEAの導入が遅れており、やっと、2004年のJICAの環境社会配慮ガイドラインや2007年の環境省のSEA共通ガイドライン等の事例が挙げられるにとどまっている。そして、2011年の環境影響評価法の改正でやっとSEAの一部が導入され、発電所もSEAの対象に組み入れられた。

4.SEAで持続可能なエネルギー選択を

持続可能な発展のための不可欠な要件として、累積的影響への対処としての、総合計画・土地利用計画への適用と、事業の必要性の判断としての、事業の上位計画への適用がある。土地利用の環境アセスメントの一例として、愛知万博のSEAの場合は、アセスをやることにより、適切な環境対応ができ、万博の中身自体もよくなったという経緯がある。まとめとして、適切なアセスメントのためには倫理観の保持・発揮が必要で、武士道のように筋を通すことが大切だと考える。

<質疑応答>

  日本の原子力発電での審査基準は不十分であったといえるのか?

→ スコーピング段階で、住民が最も懸念する放射能汚染が評価項目となっていないなど、しくみとして限定的であった。今後考えうる懸念を幅広く反映していかなければいけない。

  講演の中でハイブリッドモデルという言葉を使われたが、ここでいうハイブリッドとはどういう意味か?

→ 一言でいえば、メンバーの混成ということで、アセスメント関連の会議におけるメンバー構成(いろんな利害関係が参加している)のあり方を意味して使用した。

  会議形式の戦略的環境アセスメントの進め方で、気を付けるべきことは?

→ メンバー構成に関して、賛成派と反対派を同程度の人数を集め議論することが大事で、その点を重要視したメンバー選定が重要。一般市民だけの構成でもだめで、エキスパートも入れた混成にしておくべきである。

  成田空港の反対派や、普天間基地での反対等、こじれた案件があるが?

→ 先に感情的対立をエスカレートさせるのはまずい。早い段階でのコミュニケーションをしっかりと行ない、信頼関係を築かなければいけない。

<講演後記>

環境アセスメント研究の第一人者として、国際的にも評価されている原科教授は、この度、国際影響評価学会(IAIA)が授与する数々の賞の中でも最高位に位置付けられるRose-Hulman Awardを受賞されました。
この賞は、この分野で国際的な貢献をした研究者に贈られるもので、授賞式は本年5月にカナダ・カルガリーで開催されます。IAIAは、120以上の国・地域の会員からなる、国連でも特別に認定されたアススメント分野で最も権威ある国際学会です。

(文責 綾木光弘)