SDG'sと繊維産業の現状ギャップを埋める
近畿本部 4組織合同講演会
(農林水産部会、繊維部会、化学部会、環境研究会)
日 時:2021年9月18日(土) 13:30~16:30
場 所:Zoomによるオンライン講演会
講演1:SDGsと繊維産業の現状ギャップを埋める
講師:日本繊維産業連盟 環境・安全問題委員会 主査 長 保幸 氏
1.はじめに
講師はダイアモンドオンライン(2021.8.25 4:15)の記事を取り上げ、日本のラーメン一杯の価格が米国と比較して、安すぎることを例に、その安いコストが労働者の賃金の安さによることを紹介された。更にこの問題は日本の製造業の代表である自動車メーカーにも関係することも紹介された。
今、繊維産業が問われているのは、今の事業構造の持続可能性である。先ず第1は川下ブランド企業の一部にのみ、富が集中し、川中、川上企業の大半は維持がやっとである。第2に資源と人財の使い捨てを前提とした事業構造であることであり、自社での人財育成を怠り、売れ残りを前提とした生産と販売価格の設定を行っている。第3は不十分な情報開示である。原材料原産地や生産工場などのトレーサビリティが不十分で非財務情報(ESG:環境・社会・ガバナンス)の開示も遅れている。
2.繊維産業とSDGs
1)2001年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)
MDGsは政府代表と専門家が議論して作られたもので後のSDGsにつながった。MDGsは開発途上国の問題を解決するために、目標1:極度の貧困飢餓の撲滅、目標2:初等教育の完全普及、など八つの目標から成っていた。
2)2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)
SDGsはMDGsの目標を12の目標の中に入れて、全部で17のゴールと169のターゲットから成っている。
3)有限な地球資源
古来、繊維産業は水の豊富な土地に発展し、水は綿花栽培用水と加工時の洗浄水に使われた。
繊維は生物資源(天然セルロース、獣毛)から採取されてきたが、その後鉱物資源(原油由来など)が加わって、これが二酸化炭素の排出につながっている。世界人口の増加に伴って、土地の利用が変わり、食料増産と生物多様性の観点から優先順位に変化が生じてきた。
4)持続可能性への転換
繊維産業は繊維資源、水、エネルギーの循環経済による資源投棄を最小化し、サプライチェーンの労働者の賃金・待遇を改善し、児童労働・強制労働の撤廃と女性権利の尊重が課題となっている。更に、エネルギー消費の最小化とサプライチェーン全体を通して、工程の適正運用が叫ばれている。
3.ESGについて
ESGは投資先選定での手法、転じて企業への開示要請
ESGはE:環境、S:社会、G:ガバナンス(企業統治)を意味し、用語としては2006年の国連責任投資6原則に登場した。2014年、金融庁が責任ある機関投資家の諸原則を公表し、2015年、年金積立金管理運用独立行政法人が国連責任投資原則に署名した。そして、企業にも取り組み状況開示が要請されている。
4.MoralとDue Diligence(デューディリジェンス:当事者が果たすべき責務の履行の意)
1)米国の企業団体が企業目的を改訂
1978年以来、企業目的について、株主への貢献の優先が明記されていた。2019年8月、全ての関係者(顧客、従業員、仕入先、地域社会、株主)への貢献と改訂された。
2)多国籍企業のサプライチェーンの適正化
今、国境を越えて事業を展開する多国籍企業の振る舞いが議論になっている。国連のグローバルコンパクト(2000年)やビジネスと人権に関する指導原則(2011年)が策定された。OECDでは、多国籍企業のサプライチェーンでの管理責任を議論し、ガイダンスを公表している。
5.IPCC報告とCOP26
1)IPCC:気候変動に関する政府間パネル
IPCCは科学者が協力して政策決定者に助言を行う仕組みを世界規模で実現したものである。IPCCでは、第6次評価報告書とWG1報告書が承認され、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑いの余地がないことが明記された。
2)COP26
COP26は2021年11月英国のグラスゴーで開催が予定されている。そこでは「パリ協定」と「気候変動に関する国連の枠組み条約」目標達成のための行動を加速する議論が行なわれる。
IEA(国際エネルギー機関)の工程表では染色整理工程で多用してきた化石燃料ボイラーの新規販売停止が記載されている。
6.ギャップを埋める試み
1)ICT(情報通信技術)を活用した既存の繊維事業工程の高度化
(1)計上損金の削減:工程間の連携を強化し、売れないものを減らす。更にAIを活用して予測精度を高め、売れ残りを減らす。
(2)工程自体の最適化:循環経済に最適な商品企画アシスト機能の実装により、デザイナーやプランナーに助言する。
2)ICTによる事業の革新・・・販売対象は製品からデータへ
(1)製造しない産業:VAR(仮想現実)を活用し、Fabricantなどのデジタルファッションデータを販売する。
(2)自作の復権:買うものから自らつくるものへ変化していく。また三次元プリンターでオンリーワン商品を自ら作る時代へ向かう。
7.筆者感想・意見
ICTの有効利用により、繊維産業には大きな変革が起こると思われる。これは他の全ての産業にも当てはまり、今後はその動向に注目したい。
以上
(文責 城山義見、監修 長
保幸)