化石燃料の大量消費と環境問題を解決するためのエネルギーキャリア計画

著者: 濱崎 彰弘、佐々木 一恵  /  講演者: 赤松 史光 /  講演日: 2021年11月13日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2022年01月24日

 

環境研究会 第99回特別講演会

日 時:20211113日(土) 10:0012:00
場 所:Zoomによるオンライン講演会

 

講演 化石燃料の大量消費と環境問題を解決するための
エネルギーキャリア戦略

    講 師 : 赤松 史光 氏  大阪大学大学院 工学研究科教授 博士(工学)

赤松先生は、燃焼工学、熱工学の第一人者で、ボイラーやガスタービンの燃焼解析や熱利用システム解析により、ボイラーやタービンの高効率化やアンモニア、水素、バイオマスなど燃料の多様化に取組み、産業界のエネルギー利用の高効率化やCO2排出量の削減に取り組んでおられます。

本講演会では赤松先生に、化石燃料の大量消費と環境問題を解決するためのエネルギーキャリア戦略について最新の研究結果を引用してご講演いただきました。

      

1.化石燃料から自然エネルギーへの転換におけるエネルギーキャリアの重要性ついて

地球上には膨大な自然エネルギーが存在しており、例えば、潜在的な風力発電量は日本の電力量の8倍あり、電気料金は日本の25/kWhに対して、南米大陸の南端のパタゴニア地域では2.4/kWhと日本の1/10以下であるが、遠方から日本に送電することは非現実的である。自然エネルギーが豊富で、安い電力が得られる海外で、水電解により得られる水素を、輸送・貯蔵性の優れたエネルギーキャリアで日本に輸入する考え方が必要になる。

エネルギーキャリアに関して下の図表に示す。アンモニアは、大量生産技術が確立されており、輸送や貯蔵が容易で、燃焼時にCO2を排出しない特長がある。

 

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2.研究開発テーマについて

演者の燃焼工学研究室では、計測手法の開発とそれを用いた実験、現象を理解する数値シミュレーションの三位一体で、燃焼工学の解明に取り組んでいる。研究テーマは、次世代新エネルギーの開発、新たな燃焼現象・燃焼技術の開発を最新のレーザー応用計測と詳細シミュレーションを用いて行っている。

3.アンモニア燃焼の基礎特性解明と基盤技術開発

今回は、演者の研究室に設置の実験装置を用いた、アンモニアの燃焼特性に関する最新の研究成果をお話しする。カーボンフリー燃料であるアンモニアを用いて、CO2国内総排出量の約6.2%を占める燃焼式工業炉からのCO2排出量を、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す研究である。

   


アンモニアを工業炉に利用する際の課題と解決策を以下に示す。

(1)燃焼速度の遅さ(=燃焼性.火炎安定性の悪さ)

⇒酸素濃度を上昇させた(酸素富化)燃焼や、予熱温度の最適化で炭化水素と同等の燃焼性を実現

グラフ, 散布図

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(2)NOx(窒棄酸化物)生成量

⇒酸化剤を複数の段階で供給する(二段燃焼)で工業炉の規制を満足する低NOx燃焼を達成

(3)幅射強度の弱さ(=伝熱性能の低さ)

⇒酸素富化燃焼で炭化水素同等の幅射強度を実現

(4)製品品質の確保

⇒製品品質に及ぼす影響量と最適条件の把握

以上はアンモニア単独の燃焼であるが、アンモニアというカーボンフリーの燃料である特長を利用して、安価で安定供給が可能であるが発電量当たりのCO2排出量が大きい石炭を天然ガス並みのCO2発生量にする目的での、アンモニア/微粉炭混焼技術の開発成果や、煤と酸化被膜をアンモニアの混焼による脱脂技術の開発成果についても説明頂いただいた。

海外の豊富な自然エネルギーから水素を生産し、輸送性・貯蔵性に優れたエネルギーキャリアであるアンモニアに転換し、アンモニア燃焼技術を適用することにより、低炭素化エネルギーシステムの構築に向けての最新の研究成果をご紹介いただいた。

質疑
 講演後に参加者からチャットで質問を受付け、講演者から以下の回答があった。

Q1:アンモニア専焼の場合、従来の燃焼室構造を変える必要が有るのでしょうか?

⇒燃焼室の構造を変えずにバーナーの改造でアンモニア専焼可能である。もちろん、炉自体を変えると低NOx化など革新的な燃焼ができるが今の研究ではそこがメインではない。

Q2:炭化水素ガスを還元燃焼して水素や一酸化炭素など、雰囲気ガスに還元性ガスを使用するケースがありますが、アンモニア燃焼で還元燃焼を行い、水素雰囲気を得ることは可能でしょうか?

⇒水素源を設置しにくいので、アンモニアを供給して直接加熱する還元雰囲気ができる。アンモニアは炭素が無いので煤が出ないのが長所である。

Q3:ラインバーナーを使うと還元水素を作りやすいのではないか?

⇒おっしゃる通りです。現状は、別のタイプの燃焼炉を使っているが、新しい取組として考えたい。

Q4排ガスNOx規制値の150ppmは大規模発電では緩いのではと思います。規制強化された際の対応は、脱硝触媒を取り付けるのでしょうか?

⇒現状、微粉炭触媒下によるアンモニア脱硝でNOxは数ppmになっている。触媒はアンモニアで被毒するので、触媒を使わずに、炉内脱硝、高精度な燃焼とビッグデータでNOxゼロを目指したい。

Q5:木質バイオマスの微粉を石炭の代わりに用いれば、揮発分が石炭より多いため、燃焼の完結が石炭より早いのではないでしょうか? バイオマス粉とアンモニアの混焼が可能になれば100%カーボンフリーが可能になるのではと思います。

⇒今までバイオマスとアンモニアの混焼は考えていなかったが、現在微粉炭と3%バイオマス混焼技術がある。バイオマス粉とアンモニアの混焼で100%カーボンフリーを目指すことは、今後目指す方向にあると思う。

Q6:アンモニア燃焼炉の運転管理をメーカーに委託することは民間事業者の工場で現実的でしょうか?工業炉は売り切りで、運転データはメーカーにフィードバックされなかった。これが変わってきて、株式会社小松製作所は建機の運転を遠隔監視し、都市ごみ焼却炉は20年、30年前からメーカーが燃焼管理を行っている。

⇒現状は難しい、加熱時間、加熱物を入れ替えるタイミングのプロセスなど、メーカーに帰ってこない。また、ベテラン運転員の暗黙知を伝承するのも困難なので、DX技術を用いて、炎の状態から石炭の発熱量などを計算するバーチャルセンサーで、AI制御を行い、ベテランの運転員がやっているような、石炭の炭種や発熱量に合わせてミルを改造したり、燃料投入や、燃焼制御を行なったり、燃料費の削減や低NOx運転を行なえるようになることを、メーカーやユーザーと協力して実現することを目指している。 

奥村会長挨拶

エネルギーキャリア、燃焼技術詳細な説明有難うございました。COP26で、石炭発電に対する風当たりが強い中、本日の講演で日本の技術により解決策を得られるように思いました。本日の講演は、その解決に向けての再生可能エネルギー由来の水素キャリアの重要性、水素及びアンモニアの燃焼技術を豊富な実験データ、画像解析を用いて分かりやすくご講演頂き、タイムリーな内容で、現状を理解し課題を把握する上で大変有意義な講演でした。 

(文責:濱崎 彰弘/佐々木 一恵  監修:赤松 史光)