睡眠の質と寝具・寝環境
★ 近畿本部 化学部会・繊維部会 ★2組織 合同オンライン講演会
メインテーマ【倫理と健康】
~技術者倫理の実践と睡眠の質を考える~
日 時:9月17日(土) 13:30~16:30
場 所:日本繊維技術士センター(JTCC)事務所+Teams
講演2.睡眠の質と寝具・寝環境
~スリープテック®の動き~
講師: 中村 勤 技術士(繊維武門)JTCC理事、元帝人、元西川産業株式会社
(1)はじめに
グローバル化と情報化社会の発展により、現代は24時間社会となり、人々の睡眠時間は減少し、ストレスや熱帯夜の増加により、睡眠の質も低下傾向にある。
2002年にスタートした「健康日本21」には、少子・超高齢化社会により、医療費が増加し、生活習慣を見直が求められている。働き方を改善し、健康経営の考え方が生まれ、睡眠マネジメントが注目されている。
(2)睡眠時間と寝不足の影響
日本人の睡眠時間は2019年のOECD調査では加盟国中で最下位であり、睡眠不足の影響は2013年の研究によれば、不安・抑うつが強まることが解明されている。一方で、脳の研究でも、情動的な不安定や抑うつのリスクが増大することも明らかになってきた。睡眠不足が続くと、うつ病、不安障害の発症につながる危険性がある。
(3)潜在的な睡眠不足(睡眠負債)の影響
国立精神・神経医療研究センターの研究によれば、健康成人に必要な睡眠時間を正確に測定することができる。睡眠の回復前後の内分泌機能の改善について、睡眠不足が解消すれば、眠気のみならず、糖代謝など内分泌機能の改善が見られる。潜在的睡眠不足は自覚がないので、長期間にわたり持続する危険性があり、中長期的な健康リスクに注意が必要である。
(4)睡眠覚醒制御の仕組み
睡眠の状態は脳波を調べることのよって解析される。覚醒から眠りに入ると、先ずノンレム睡眠(大脳を鎮静化する深い眠り)が始まる。その後、レム睡眠(浅い眠りで覚醒に近い眠り)になり、起床までこれらが繰り返される。1998年日本人によって覚醒を制御するオレキシン(生理活性ペプチド)が発見され、ナルコレプシー(強い眠気)の原因がオレキシンの不足にあることが判った。更にその後、睡眠と覚醒のスイッチに関わる研究が光遺伝学、化学(薬理)遺伝学の進展により、睡眠の量と質の解明につながり、寝具・寝環境の研究開発にもつながっている。
(5)睡眠の質改善を求めて
良い寝具とは体温調節し易く、体にフィットするもので、寝床内の環境は温度33℃、湿度50%RH近辺が最適である。西川が開発した4層特殊構造マットレスは通気性、適度なクッション性、寝姿勢保持などを改善したものである。更に睡眠の質は脳と腸が関係していることも明らかになり、脳に必要なメラトニン、セロトニンの生成に、腸内細菌が重要な役割を果たしていることも判ってきた。
(6)まとめと今後の方向
オレキシンの発見以降、睡眠の研究は大きく発展し、寝具の研究開発も進んだ。しかし、人々の生活では、ストレスが増え、睡眠の質の低下が懸念される。睡眠のメカニズムの更なる解明が必要である。
睡眠には食事(栄養)、運動、居住環境など多くの要因が関係しており、総合的なヘルスケアとして睡眠マネジメントが求められている。IT・AI技術の進展による睡眠の量(時間)と質の見える化技術の開発が期待されている。
(文責:城山 義見、 監修:中村 勤)