鯉とクロレラのミニCELSS実験と微細藻類の地球温暖化対策への展開
近畿本部登録 環境研究会 第106回特別講演会
テーマ「宇宙環境での物質循環について」
講演1 鯉とクロレラのミニCELSS実験と微細藻類の地球温暖化対策への展開
日 時: 2023年9月16日(土)13時~17時
場 所: アーバネックス備後町ビル(Zoom併用形式)
講 師: 濱崎 彰弘 氏 技術士(機械、化学、経営工学、応用理学、生物工学、環境、総合技術監理部門)
概 要
宇宙空間での生活に必要な水・食料、酸素等の自給自足を実現するために、地球をモデルにした閉鎖環境内で安定した物質循環を図りながら人間を含めた動物系と植物系が共存していくシステム(CELSS:Controlled Ecological Life Support
System)が必要になる。CELSSの開発に関連する実験結果の報告とこの技術を用いた地球温暖化問題の解決策についての提案があった。
1.CELSSの実験
CELSSのシステムは、①ガスリサイクル ②水循環 ③廃物処理 ④藻類植物培養
⑤動物飼育 ⑥魚類飼育から構成され、さらにガスリサイクルはCO2除去・O2回収系と有害ガス処理系に分けられ、それぞれ物理化学処理または生物化学処理によって実現される。
モデル実験装置を用いた実験の結果、実験開始後15.5hで鯉とクロレラのO2-CO2バランスがとれ完全閉鎖状態に達した。その後藻類と魚類側の溶存酸素量は単調に増加した。この状態が150h続いた後、実験開始後171hに魚類飼育槽のO2濃度が4.2ppm以下になり実験を中止した。酸素低下はクロレラの酸素発生速度が鯉の酸素消費速度に見合わないためであり、試験の結果「クロレラの活性低下」がその主因であることが確認できた。
2.藻類培養槽の開発
微細藻類培養のための培養槽の開発についてはアメリカで開発されたレースウェイ型培養槽があるが、解析の結果、照度一定の片面照射の培養槽の最大増殖速度は培養槽の水深によらず一定であり、照度が10klxから50klxと5倍になっても最大増殖速度は約2倍にしかならないことがわかった。側面出光型光ファイバ培養槽は中空糸モジュール等が高価であることから、LED照射濡壁塔型培養槽を開発して実験を行ったところ、反応効率(CO2固定)がきわめてよく、反応条件の調節が容易で安価な設備で構成できることがわかった。
3.地球温暖化問題解決への適用
出力調整できない太陽光と風力の余剰電力を安く買い取り、発電所近くに設けた微細藻類培養塔で微細藻類を培養し、燃料に転換して貯蔵し、電力需要に応じて発電し、CO2、O2もリサイクルするという「再生可能エネルギー安定利用システム」を考案したが、エネルギー貯蔵能力が電池の1割程度しかなく、まだ課題が多かった。福島県で行った福島藻類による燃料生産実証事業の結果は、下水処理と組み合わて栄養塩のリサイクルを行うことや下水処理費収入を図ることによって収支シナリオが成立するというものであり、地産地消の考え方を活かしてコンパクトなシステムを構築すれば十分ペイすることが判明した。
地球が一つの閉鎖環境空間であることから、CELSSにおける技術開発は、宇宙空間における利用のみならず、地球温暖化問題解決や持続可能な社会の構築に有効で大きく貢献できるものである。
(文責 藤井 武 監修 濱崎彰弘)