宇宙での人の長期生存を可能とするCELSSにおける物質循環型植物工場

著者: 藤井 武  /  講演者: 北拓 善昭 /  講演日: 2023年9月16日 /  カテゴリ: 環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2023年11月10日

 

近畿本部登録 環境研究会 106回特別講演会

テーマ「宇宙環境での物質循環について」

講演2 宇宙での人の長期生存を可能とするCELSSにおける物質循環型植物工場

日 時: 2023916日(土)13時~17時
場 所: アーバネックス備後町ビル(Zoom併用形式)
講 師 北宅 善昭 氏 大阪公立大学研究推進機構植物工場研究センター長、農学博士

概 要

現在国際的に展開されている宇宙空間開発において、長期有人宇宙活動で必要不可欠な閉鎖生態系生命維持システムは、限られた空間内で安定した高速度の物質循環のもとで生物学的および物理学的な手法を用いて自給自足の人間生存環境を創るシステムである。

低重力下における閉鎖系室内植物栽培の実験を通して見えた課題と今後の展開についての説明があった。また、大阪公立大学植物工場研究センターの紹介とアクアポニックス(野菜水耕栽培と組み合わせた循環型養殖システム)の現状と課題について説明があった。

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1.低重力下で植物の成長

宇宙環境を想定した航空機の放物線飛行によって20秒間程度作り出される低重力状態における実験から、微小重力場では熱対流が抑制されて植物自体の体温上昇と光合成速度の低下が観察された。特に植物の葉先の温度上昇幅が著しかった。また植物の生殖器官でも穎花・花蕾の表面・内部での温度が上昇することから、生殖細胞の減数分裂、雌ずい発達、花粉形成、花粉の粘性、受粉、花粉管伸長等に異常が生じることが推測された。

2.宇宙農業の候補作物

温帯林のCO2吸収速度6.5t/ha/年に対してサツマイモは1.7倍の約11.3t/ha/年のCO2吸収能力を持っている。ヒト1人が呼吸で1年間に排出するCO2は約0.4t/年なのでサツマイモ畑350㎡があればCO2排出量はすべてサツマイモ畑で吸収されることになる。サツマイモは栄養も豊富で準完全栄養食材であるため宇宙農業における最適な品種の一つである。1人の生存を担保するためのサツマイモ栽培植物工場装置は3m×3m×3m6段)程度の大きさである。

3.宇宙栽培モデルの実験

ISSでの宇宙実験を想定した植物栽培装置を開発し、

①成熟個体あるいは大型植物での低重力影響の実証
②微小重力下での培地・植物・大気連続体での水の移動
③植物体内での水・同化産物・成長調節物質の移動
④植物地上部と周辺大気・植物根部と根圏環境との間の物質移動
⑤植物体各部位と周辺環境の間の熱交換

などについて、航空機の放物線飛行時の微小重力条件下で実験を行った。

その結果、強制気流がない低重力下では、蒸散流が抑制され、鉛直上向きの水の流れが抑制されたが、強制気流がある場合は、蒸散流が促進された。また、ポリエステル不織布培地内水分布は微小重力の影響によって、培地内含水比が低層部で低下、上層部で増加した。

(文責 藤井 武  監修 北宅善昭)