アジア奥地の里地里山から持続可能な暮らしが見えてくる

著者: 宇田 毅  /  講演者: 養父 志乃夫 /  講演日: 2023年7月15日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会環境研究会 > 講演会  /  更新日時: 2024年03月07日

  

近畿本部 化学部会・繊維部会・農林水産部会・環境研究会 四組織合同講演会

メインテーマ:【万博関連:イノベーションと循環型農業の構築】

講演3 アジア奥地の里地里山から持続可能な暮らしが見えてくる

~懐かしい風景から芽生える未来を生きる知恵と心~

日 時: 2023715()  13301630
場 所: おおきに会議室  ZoomによるWeb併用
講 師: 養父 志乃夫 氏 前和歌山大学大学院教授 農学博士

はじめに

日本と同じように主食に米を食べる国々の里地里山の集落には、相互に共通する暮らし方が存在する。図1着色部の国々の集落で、講師が現地で共に暮らして調査した体験の中から、「家族と集落」・「徹底循環型の暮らし」の2つのテーマを、様々な視点から整理し今の日本で忘れ去られようとしている「人と人」、「人と自然」の営みについての講演があった。
テーマと視点を以下に示すとともに、筆者が特に興味を引かれた内容について抜粋し紹介する。

 図1現地調査エリア(水色部)

1.家族と集落  暮らしの「おおもと」~里地里山~

1)米を主食にする人々に共通する暮らし

稲作を行うには、一家族だけでは非効率で困難、村(大字)、小字、垣内、隣組等の相互扶助が不可欠であり、皆の暮らしを守る先達の教え、しきたり、おきてが暮らしの中に静かに根付いている。これは、生まれる前から逝くとき、逝ったあとまで皆を支えるものであり、こころの通う生活のために不可欠なものである。

2)土地利用(略)

3)大家族

祖父母、兄弟姉妹などによる保育、家事等の補い合い、生きるための知恵と作法の伝承。

 写真1

4)集落で見守る子育てや高齢者の暮らし

後見人として育児する婦人      高齢者の見守り

 写真2   写真3

5)生活力を子供らに伝える家族や集落の民

孫らに伝える鶏肉の生産       畑の火入れ

 写真4   写真5

苗代でのイネ苗の栽培と移植を幼い時から習得

 写真6

6)友を作り五感を鍛える子供の外遊び(略)

7)逝く人を送り出す仕組みとこころ(略)

8)人々と自然環境との相互作用によって継承されてきた生態系と生物多様性

タイ王国カンチャナブリ県奥地に生息するアジアゾウは、普段里山で生活している。ゾウは焼畑の休閑初期に群生するイネ科の植物などの草本を主食にしており、人や農作物に危害を与えることはない。農民らはゾウが幼いころからお付き合いし収穫物や木材の運搬等を教え込んでおり、必要な時には、里山へゾウを呼びに行き、一時共に生活してサトウキビなどの美味しい餌をご褒美に与える。また休閑期の焼畑に大量の糞尿を落とし土壌の肥沃化に貢献し、互いに助け合って生きている。

 写真7 アジアゾウ

日本では、ツシマヤマネコやイリオモテヤマネコが絶滅の危機となっている。ミャンマー・マンダレー管区奥地の里山では長期休閑型で焼畑やコメや作物を栽培し、この稔をノネズミや鹿等の野生生物、バッタ等の昆虫が食べに集まる。このノネズミやバッタ等がベンガルヤマネコの主食となる。農民らは焼畑耕作を通してベンガルヤマネコ等へ餌場を繰り返し提供し、シカ、イノシシ、ジャコウネコ等の野生動物は農民らの重要なたんぱく源にもなっている。

 写真8 ベンガルヤマネコ

2.アジアの里地里山における徹底循環型の暮らし(ベトナム・ホアビン省の一例)

すべての営みが、人々の暮らしだけではなく、緑地の環境、地域の生態系を守っている。

) 自然環境に順応した高床式家屋

階下に空間を設けることで二階居間の雨季の湿度を下げ、サソリやヘビなど危険生物、マラリアやデング熱を媒介する蚊を忌避させている。エアコンや冷蔵庫はないが、階下に空間を設けることで、階上の気温や湿度を緩和し、快適性や食材の保存性を高めている。

) 自然から得る生活用水と生活排水の循環システム

生活用水は、沢水をろ過したものや雨水をためたものを使用、家庭排水は竹パイプを通し、水田へ利用する。溶け込んだ栄養分を肥料として吸収させ、浄化された余水が川へ下るので川水は汚れない。

) 炭素・酸素の循環システム(略)

) 人の排泄物の循環システム(略)

) 家禽・家畜の循環型システム(略)

) 資源循環システム

稲藁は、屋根材として利用され、竹もタケノコを収穫するだけではなく、家屋や農具、漁具の大切な資源であり利用価値がなくなると燃料に循環させ、最後に残る灰は自給畑の肥料となる。

) 人体栄養分の循環システム

遺体は棚田や水田に埋葬(土葬)され、次第に分解され周囲のイネに吸収されていく。
土葬で遺体が埋葬された水田の墓

 写真9

(文責:宇田 毅 監修:養父 志乃夫)