グリーンケミストリー グリーンケミストリー(2)
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POINT |
問題
グリーンサステイナブルケミストリーの具体例を教えてください。
解答
(1)日本の例: 「硫安の工場を廃止したナイロン原料新工場」
化学工業は、価値の低い物質から、新規の高付加価値の物質を創生するという任務があります。たとえば、ナイロンは、「石炭と空気と水からできた、夢の合成繊維」といわれました。これは 6,6- ナイロンの話でした。科学はさらに進歩して、扱いやすい 6- ナイロンが発明されました。ただ反応には、多くの工程で硫酸を大量に使用する必要があり、原料モノマーのε-カプロラクタムを 1 トン製造するためには、 3 から 4 トンの硫安が必然的に副生していました。したがって、その工場では、製品重量から見ると、硫安が主製品、ε-カプロラクタムが副製品でした。硫安は安価な窒素肥料ですが、土壌中では、残存する硫酸根で酸性化しますので、環境面から嫌われています。最近、硫安を副生しない新法が日本で発明されました。
(2)アメリカの例:「超臨界二酸化炭素レジスト剥離剤」
LSI 製造工程の中に、使用したレジストの剥離工程があります。従来は、ヒドロキシルアミンや、鉱酸を使用していましたが、残存分の完全除去のため、洗浄除去剤として、さまざまな有機酸や脱イオン水を大量に使用していました。さらに、乾燥剤として各種アルコールを用いていました。
新洗浄法では、まず、1%プロピレンカーボネートを可溶化剤として含有する二酸化炭素溶媒に含浸させた後、圧力の脈動でレジストを剥離し、最後に純粋な二酸化炭素で洗浄する方法です。溶媒はリサイクルします。特に回路が微細化するにつれ、二酸化炭素の低い界面張力により微細回路の隅々まで浸透し洗浄できる長所が発揮されます。
(3)多くの試み:「低溶媒塗料、水性塗料」
トルエンや酢酸エチルなどシンナーで薄めた塗料は、伸びがよく、すぐ乾くので重宝される塗料でした。しかし、揮散したシンナーは光化学スモッグの原因になり、いまだに大きな環境問題となっています。
そのため、粘度をできるだけ下げて、シンナーの使用を最小限とする塗料や、水で分散させた塗料などが開発されてきています。塗装するときは、流動性が高く、すぐ乾き、できた塗膜は高分子量で緻密で滑らかな表面であることが求められます。この折り合いが難しいところです。
解説
例はほんの一部紹介したものです。 化学製品の合成ルートは、ただひとつのルートに限りません。使用する原料、反応の種類、反応順序、触媒の利用、および目的物質の生成方法など技術の面で多方面の要素を取り込んで合成ルートが確立されます。さまざまな方法を見い出すことに、化学者や技術者はしのぎを削っています。新反応の発見と工業化が緊密に結びついていますので、学問の名前「化学」が、産業界や企業の名称「化学工業」に用いられている数少ない分野といえます。
優れた技術に対して、毎年アメリカ大統領賞、日本でも、同様に経済産業大臣賞が授与されます。
長い目で見ると地球環境対策は、抜本的な技術革新に待つことが決定的です。グリーンケミストリーの発展が期待されます。
井上靖彦
(技術士 ( 化学、総合技術監理 ) 、 EA21 審査人)