飲みたくならないアルコールを作る話

著者: 藤橋 雅尚 講演者:  /  講演日: 2008年09月29日 /  カテゴリ: 北九州エコタウン・山口  /  更新日時: 2011年03月03日

 

北九州・山口研修旅行報告  080929

  

飲みたくならないアルコールを作る話

技術士(化学、総合技術監理部門) 藤橋 雅尚
キーワード エコタウン、 エタノール、バイオ燃料、リサイクル、生ゴミ

  

はじめに

社団法人日本技術士会近畿支部 環境研究会主催で、北九州エコタウンを見学する機会があり参加した。北九州エコタウンはわが国エコタウンの草分けであり、北九州市(全国の環境首都コンテストで第1位)が力を入れている事業である。エコタウンでは多くの静脈系企業が稼働し、いわゆる動脈企業(一般の企業)から出る廃棄物のリサイクルを行っている。

エコタウンの中で行っている研究事業の一つとして、「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」があり、テーマは「食品廃棄物エタノール化リサイクルシステム実験事業」である。
この研究はNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が募集し、他の6つの事業と同時に採択を受けたもので、5年計画の4年目に入っている。同時に採択された他の事業の主体は県・市・公設組合であるが、この事業だけが民間企業(新日鉄エンジニアリン株式会社:以下同社)であるという大きな特色を持っている。

すでにテスト機が稼働しており、バイオマスエタノールが生産されている。回収したアルコール(エタノール)は、ほぼ純度100%に精製されバイオ燃料(E3ガソリン)としても一部利用されている。このエタノールは酒税法による酒ではないが、品質的には飲用に耐えると見られる。しかし、仮に酒として認められても生ゴミから得られた酒では、よほどの動機がない限りほとんどの人が飲む気持ちにならないであろう。

リサイクルの概要

プロセスの基本的な流れを図1に示す。要約すると「分別した生ゴミを収集 → 夾雑物を除去 → デンプン質を糖に分解 → 糖質を水に溶かして分離 → アルコール発酵 → 100%のエタノールに精製 → E3ガソリンとして利用」という流れである。

  図1 実験システムの概要

生ゴミの分別収集

原料の生ゴミは、将来的に家庭ゴミを主体とする前提である。このため、①分別収集と運搬をどうするか、②分別を個人に協力してもらうにはどうすれば良いか、などが大きな課題となる。
①の課題に対して、簡単に考えると生ゴミ専用と一般ゴミ専用の2種類の収集運搬車を確保すればよい。しかしこの方式は同じ収集場所に2回収集車が出向くこととなり、コストが高い上にエネルギーロスが大きく意味が無いといえる。このためパッカー室を二つ持ち、それぞれの保管室容量に自由度を待たせて、片方だけが一杯になる事態を避ける方式のパッカー車(図2)を開発した。

  図2 試作したパッカー車

②の課題は難しい問題であり、モデル地区を選んで実験を行っている。取組目的の一つに地域環境へのコミュニティ意識の醸成があるので、生ゴミを分別排出することへのインセンティブを供与する方法を工夫した。具体的には図3に示すように環境保全に協力した市民に、地域通貨(地元の商店街で利用可能)をポイントバックする「環境パスポート事業」を起こした。

 図3 市民からの生ゴミ分別収集実験

 

エタノール化設備

原料となる生ゴミの安定した供給が必要であるので、実験では主として収集の容易な事業系食品廃棄物を利用し、一部に上記家庭系の生ゴミを混合して使用する方式を採用している。

 図4 食品廃棄物のエタノール化プロセス

図4の要点は次のとおりである。まず前処理工程で混入しているプラスチックの小分け容器などを除去する。その後、糖化工程で水と酵素を加えてデンプン質を糖に変化させることにより、デンプン質を水に溶けた状態とする。続けて油水分離(食品中の脂肪分が分離するので工程の熱源として利用)して、水層を発酵工程に送る。発酵工程でできたエタノールは無水化工程(蒸留と膜分離)を経て製品の無水エタノールとなる。

なお、工程で必要な熱はエコタウンから供給を受け、廃棄物は同じくエコタウンにあるガス化溶融炉で固形化して廃棄処理している。

現時点での実験結果

実験設備は、生ゴミ10t/日を処理して、400L/日のエタノールを得ることができる規模である。実験の結果、当初は目的量のエタノールを回収することができなかったが、生ゴミ中の雑菌への対応を行った結果、理論値の600L/日には至らないが、500L/日に近い量を得ることができるようになったとの報告を受けた。但し、現段階では事業系の生ゴミを主体として処理しているので、家庭系とは異なる結果になっている可能性はある。

この実験結果をもとに、北九州市全域から生ゴミを分別回収できたとして、総エタノール生産量を試算してみた。
 北九州市全域の生ゴミ(15万t/年):X(エタノール生産量)=10t:400L
 X=600万L/年=6,000m/年≒16m/日

この生産量は北九州市の人口100万人から想像する量よりも少ない感じはするが、E3ガソリンに換算すると530m/日となり、毎日1万台以上の乗用車を満タンにできる量ともいえる。

おわりに

食品系廃棄物の利用法として、最も好ましいのは食料または飼料として再利用することである。しかし、生ゴミでは腐敗の問題が障害となり、一旦生ゴミとなったものは肥料としての利用が提唱されている。しかし生ゴミの生産地(都市部)は、肥料の消費地(農村部)に遠いことと、含まれている塩分が長期的に見ると作物の生育の障害になることなどから、全面的な利用には至らないといわれている。

次の方策として、熱回収がある。そのまま燃やす方式は発熱量が小さくて効率が悪いため、乾燥処理して熱源に供す方法や、生ゴミをメタン発酵し得られたメタンを熱源として利用する考え方がある。ゴミ固形燃料(RDF)については一部実用化が進んでいる。メタン発酵法は得られるものがガスのため輸送が困難であり、生産場所(処理工場)の近辺で大規模な消費システムを構築しない限り活用困難である。

エタノールに加工する方法は、製品が液体のため生産地から消費地への移動が容易であるというメリットがある。生ゴミから製造したエタノールを人間は飲みたくならないが、自動車は飲んでくれるので今後の研究を期待したい。

以上


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