地球温暖化防止の環境戦略

著者: 山本 泰三 講演者: 植田 和弘  /  講演日: 2005年02月14日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

★環境研究会【特別講演会報告】★   050214

日 時:平成17年2月14日() 

 

テーマ:環境政策と環境技術対策 -地球温暖化防止の環境戦略-

講 師:植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科、地球環境学堂教授(工学博士,経済学博士)

 ●プロフィール:1952年香川県生まれ。1975年京都大学工学部卒業後、大阪大学大学院博士課程修了。1994年京都大学教授、専攻は環境経済学、財政学。著書:「環境経済学」など多数。

 

1.政策が技術を進歩させた

1977年にOECDの調査団がまとめたわが国の公害対策について、政策により目標が与えられた結果、技術が進んだと書かれている。地球温暖化対策も同様な面がある。

1997年に京都議定書が合意され、ロシアの批准により本年2月に発効し、国際ルールが動き出す(現在142カ国が批准)。わが国も政府の「地球温暖化対策推進大綱」が「京都議定書目標達成計画」に変わる。

最大のCO2排出国である米国が批准していない。①世界第2の排出国である中国が入っていない。②経済成長を阻害する。③ブッシュ政権はゴア元副大統領が京都議定書に関与したのが嫌。などで、ゴアを後押しした企業も多いし、カリフォルニア州や東部の州のように排出権取引制度や炭素税に取り組んでいる州もあり、懐が深い米国では、進んだ政策が出てくる可能性がある。

2.環境税と環境政策の検討経過

環境税の検討案が示され(植田先生も委員)、環境省は必要といっているが、経済産業省はこれがなくてもCO2削減目標は達成できるとしている。
「税」は政治であり、市場メカニズムでなく、政治プロセスの中で決まる。ドイツが1990年の総選挙ですでに導入すべきとしたのに比べると、日本は10年遅れている。この税は環境税といっているが、CO2C)を減らす炭素税を念頭に置いた温暖化対策税が正確な言い方である。

環境税の概念は1920年にA.C.ピグーによって提示された。炭素税は1990年にフィンランドが最初に導入した。空気のように価格のつかない価値物は過剰利用する恐れがあるためである。

1960年には環境省などはどこの国にもなかった。1970年に米国、1971年に日本に環境庁ができ、1990年には全ての先進国、大半の途上国に環境部門ができている。日本では1960年代に横浜、東京など大都市で公害防止協定ができた。これには法的根拠がないのに対策が進んだ。1970年代末にドイツなどから調査団が来、これが守られているのが不思議がられたもので、決して従来からドイツの対策が進んでいたのではない。

環境税は1980年代に議論が進み1990年代に北欧で導入、2000年を過ぎてドイツ、イタリア、イギリスなどが導入し、日本も動き出した。2003年の専門委員会の報告(3600/トン、税収約1100億円)が、環境省案では2400/トン、税収約5000億円になり、理念が分からなくなってきた。

3.環境税を何に使うか

当初は温暖化対策のための補助金で戻す考えだった。ガソリンへの課税が1.5円程度では、消費者の行動を大きく変えさせるのは難しい。補助金による誘導効果が大きい。世論をどのように刺激するか。現在の案は内1500億円を社会保険料の軽減に使う。EUでは税制を改革し、雇用を増やすため成長が必要との観点から多目的に考え、環境破壊なき雇用の実現を目指している。

日本では一般財源にするか、目的税にするかの議論があるが、目的税である石油特別会計や道路特別会計などの弊害が出てきつつある。道路整備や電源開発より高齢化対策など優先順位が変わってきている。世論調査では、環境対策に使ってほしい、自分がわかるところに使ってほしいという国民の意識がある。現在でも温暖化対策費が毎年1兆円以上使われているが、中身は新幹線や道路整備などが入り納得感が低い。対策の見直しが重要であるが、各省の権益に関わる政治の問題である。この問題は避けて通れない議論でありダイナミズム、進化しながら対策が進む。

4.排出権取引とクリーン開発メカニズム(CDM)

排出権取引制度は元々、米国が酸性雨対策で導入したもので、土地のように売買できる金融商品である。EUでは導入しており、将来的には確実に世界市場ができる重要な仕組みであると思う。CDMは先進国が途上国のCO2排出抑制を進めて、評価を得る制度であり実施されているが、より円滑に進めるためのルールづくりが課題である。

5.問題をポジティブに捉えよう!

ポーター仮説では日本やドイツは70年代、80年代の厳しい規制が、生産性を伸ばしたとしている。必要は発明の母であり、環境面では自動車は将来を見据えて、すでに内部競争になっている。排ガス規制のように世界一の技術を目指さないと生き残れない。また、環境技術は生産技術と関連し、プロダクツとプロセスを最初から考え、車全体を見直しながら取り組む必要がある。

エネルギーは何かをするために使うもので、短期及び中長期を考える必要がある。時間をかけて新しい機器に変わっていくもので、住宅や交通も同様である。環境都市として有名なフライブルクで太陽エネルギー中心の地域づくり(太陽地域)を進めている。そうした取り組みで生み出される環境的価値が、製品の価値、街の価値に反映し、共に上がる。

Q&A

Q:将来的にエネルギーがなくなる時のことをどう考えるのか?

⇒かってローマクラブが「成長の限界」を発表したが、実際はマーケットと技術の可能性を引出すことになり、対策が進んだ。生活の質と物質の使用については、資源生産性の向上などにより多くの満足を得られるし、適応力はある。枯渇性資源は投資ルールを入れ、サステイナビリティを経済理論にいれると技術が出てくるが、同時に生命維持装置としての汚染物対策が重要である。

Q:京都メカニズムのメインの対策は税金か。CDMは?

⇒①制度・政策の設計と、②温暖化対策、脱CO2の地域経済の造りかえがある、中国ではいずれ8億台の自動車需要ポテンシャルがあり、違うモデルが必要になる。技術の役割を制度・政策が支援するものであり、排出権取引、CDMも大事であるが、今の日本では税がまず議論され、それに伴って他の政策も進展する。

 

Q:中国の経済成長を見ていると環境どころではないのでは?

⇒中国は他の先進国と比較すると経済発展の低い段階で環境部局を作った。また、大国意識があり、米国に対し発言力を持とうとしている。局地的な問題もあるが、硫黄酸化物の排出量が低下しているという統計もあるし、公害裁判も起こっている。中国のダイナミズム、国際公共財として中国の環境に日本も協力が必要でありODA議論も環境ODAにする方法もある。

Q:京都メカニズムの目標値として560ppm程度を想定しているが、その評価は?

⇒温暖化がどのように気候変動を伴うか完全には分かっていない。国際政治・外交交渉の結果であり、数値の根拠はない。IPCCでは世界の研究成果を調べ、確認している。人為的なものによる変化はあるので、国際環境法にある「予防原則」の考え方で大幅な削減対策が必要である。

Q:税金のかけ方について、例えばコージェネレーションの普及を進める方向になっていない。

⇒環境税について不満は分かる。税収とのセットであり、環境政策の議論は最後は財務省の考えに左右される。最初は小さくても仕組みに入れておくということで、国民の監視が必要。

Q:共生経済をめざすためにバイオフューエル(菜の花プロジェクト)などは?

⇒発想は悪くない。地域を活性化するためには有効であるが、温暖化の効果は大きくない。バイオマスは今後大切である。

Q:日本は現状から14%CO2削減が必要。一方、EUでは対策が進んでいるが?

⇒制度、政策のイノベーションが違う。日本はライフスタイルの変革といいながらシャワーの抑制といった段階を超えられていない。達成するための仕組みが必要である。

 

  コメント:技術と政策との関わりについて、技術をしっかり踏まえた上での分かりやすい解説であり、考えさせられることが多かった。

    (植田 和弘教授 監修、  山本 泰三 記)


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