リサイクルと環境汚染-リサイクル施設における事故と問題点-

著者: 山崎 洋右 講演者: 鍵谷 司  /  講演日: 2005年04月15日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

環境研究会【26特別講演会報告】 050415

日 時:平成17年4月15日(金)

 

テーマ:リサイクルと環境汚染―リサイクル施設における事故と問題点―

講 師 : 鍵谷 司氏 環境計画センター専任理事、技術士(衛生工学、建設、環境)

 ●プロフィール:1969年関西学院大学理学部卒業。日本原子力研究所、(社)日本廃棄物対策協会などを経て、1989年から環境計画センターで現在に至る。ごみ固形(RDF)燃料などの国関係機関、自治体等の委員などを歴任されている。

 

1.はじめに                                                              

平成126月「循環型社会形成推進基本法」に制定され、様々なリサイクル技術が実用化されている。一方、リサイクル技術は十分に安全性が評価されずに実用化されることが多く、事故率は工場などの40年前のレベル(現在の約8倍)と、さまざまな事故が発生している。20038月以降に頻発したRDF貯留サイロにおける発熱や炎上事故、また、食品リサイクル法に対応して導入された、生ごみの堆肥化装置での爆発事故、廃プラスチックのリサイクル施設での火災事故、あるいは、廃プラスチックの圧縮で微量の化学物質の排出に伴う化学物質過敏症といわれている、いわゆる「杉並病」など、リサイクルに伴う様々な事故事例について紹介された。

しかしながら、一方で原油や石炭の高騰、京都議定書の発効による二酸化炭素の削減など廃プラスチックなど可燃性廃棄物のエネルギー源としての有効利用の重要性が高まってきている。

2.三重県RDF発電所 RDF貯蔵サイロの爆発・炎上事故の事例

平成15819日に三重県RDF発電所RDF貯蔵サイロにおいて爆発・炎上事故が発生した。また、試運転中の福山、大牟田及び石川県北部のRDF発電所において、RDFサイロでの発煙や発熱或いは発電設備において事故が頻発し、RDFに対する信頼性が低下し、その普及の流れがほとんど止まった。しかしながら、自治体が整備したRDF施設は60ケ所以上で稼働しており、利用先が確保できなければごみ処理に支障がでることから深刻な事態となる。

●平成157月、RDF貯蔵槽において水気の発生を確認、その後、発熱・発火を確認し、RDFの取り出しやRDF貯蔵槽内部へ注水に消火活動を続けた。8月に入り消火活動を継続していたが、貯蔵槽において爆発事故が発生し、消火活動中の消防職員ら7名が死傷する事故となった。

事故後、最初に三重県の事故報告者が発表され、その後経済産業省、環境庁、消防庁の報告書が発表された。発火の原因は、RDF投入時における湿った空気の持ち込みや結露による局所的な水分の集中によりRDFが吸湿して物の発酵により発熱したいわゆる発酵・発熱説が中心になっている。貯蔵槽内に少なくとも600700トンのRDFが保管されており、極めて熱が逃げにくいため、発酵で発熱したRDFが有機物の化学的酸化による自己発熱で高温となり、発火したとしている。

火災に至る原因は色々考えら、堆積物の畜熱火災は、石炭などの他、木材や廃タイヤでも各地で発生している。本件は刑事事件として審理中であり、公表データは少ないが、元々高温のRDFが持ち込まれ、堆積により発熱、畜熱し、発火に至ったと考える方が自然である。大規模なプラントの場合、放熱しにくいので、事故に繋がる恐れがある。RDFの品質管理、貯蔵施設の管理などさまざまな対策の実施により、現在は再稼動しているなどが解説された。

3.スーパーマーケット「イオン大和店」における、生ごみ処理機の爆発事故の事例

平成15115日に神奈川県大和市のスーパーマーケット「ジャスコ大和下鶴間店」の1階生ごみ処理機(1.2/日)が爆発し、消防士9名、警察官など2名が怪我をした。

堆肥化工程では、処理機中に生ごみを投入し、攪拌機によりごみを上下に移動させながら均等に攪拌する。投入する生ごみの水分率は約40%で、発酵を促進するために90℃(マニュアル)で加熱する仕組みであるが、反応速度を上げるため、さらに高温の130150℃の熱風で加熱した可能性がある。乾燥した生ごみでは120℃位で発熱し170℃位で発火するというデータがあり、規模が大きいと施設から放熱できず畜熱して高温になりやすい。

したがって、設定した熱風温度が130150℃では装置内の温度ムラも考えられ、非常に危険な温度であったことが分かる。CO,HC濃度などを検出して運転停止する仕組みがあれば防げたと考えられるなど、その問題点と対応について解説された。

4.不燃ごみ中継施設「杉並中継所」:化学物質による健康被害の事例

平成84月に主として家庭ごみのプラスチックを圧縮して運搬する施設である「杉並中継所」が稼勒した直後から周辺住民に健康被害が発生した。東京都では、原因究明のために専門委員会を設置して調査した結果、中継所の汚水処理施設から発生する硫化水素が原因であるとして対策を講じた。しかしこれでもまだ被害は拡大の傾向を呈していた。このため、住民等は、平成95月に国の公害等調整委員会に原因の裁定を求めて訴訟した。平成146月に、これまでの判例と異なり、原因物質を特定せずに、原因は「杉並中継所の操業に伴って排出された化学物質にある」と裁定された。プラスチックなどを裁断、圧縮する施設ではアルデヒドなどの微量物質が発生するので、これが原因と疑われているが、公表されたデータはまだ少ない。

5.廃プラスツチック保管時の火災事故の事例

容器包装リサイクル法に基づいて回収したペットボトル(PET)とポリプロピレン(PP)などを原料としてカーペットを製造するリサイクル工場がある。最終的に縫製した後に発生する裁断屑は非常にかさばるので、これをおおよそ300℃で溶融し、所定の大きさのブロック(25cmX25cmX30cm)に成型し、水冷してパレット2段積みで保管していたところ、数時間後に火災が発生した。

水冷後も内部温度は200℃程度であり、表面は製造時と同じ色合いであるが、内部を割って観察すると茶色や黒色に変色している。内部で燻り炭化が起こっていることは一目瞭然である。

6.有機物は常温でも発火する

 RDF500Kg単位でフレコンバッグに充填し、1~3段積みで保管した場合、3段積みの場合には数10℃で発熱する可能性がある。これを限界発火理論から推算すると、酸化・畜熱が比較的低温で起こることが分かる。製造直後のRDF80℃~110℃程度の高温であり、これを外気で空冷し、室温程度に冷却してからフレコンバッグに自動的に充填するが、外気温の高い夏季には30℃以下に空冷するのは難しく、しっかりした対策が必要であることなどが解説された。

Q&A

Q:RDFサイロについて、公共のものとして設計する場合、消防検査等の検査については?

⇒RDFサイロは、鋼製で不燃性のため検査対象外であるが、内部の燃料は燃えやすいと考えるべきで、事故のデータを示して対策が必要である。

Q:RDFの爆発について原因をどう考えるか?

⇒発酵原因で可燃性ガスが堆積して水蒸気爆発したとの見解を持っている人がいるが、水蒸気爆発は、サイロが真っ赤にならないと考えられない。委員会構成をよく検討しないと誤る。この問題を発酵。発熱原因だけで片付けてはいけない。

Q:「杉並中継所」の問題について、硫化水素が多いということについて、その原因となったプラスチックは単一物、それとも複数のプラスチックの相乗効果

⇒どんなプラスチックかによって変わる。通常、プラスチックを破断すると破断面にラジカルが出来、ラジカルが酸素と結合し、過酸化物が発生、アセトアルデヒドが発生する。硫化水素については学会でもあまり発表はない(本質的な問題ではない?)

: 裁断したプラスチックが爆発した原因としてもっと多くの視点から見る必要はないのか?

⇒ペットボトルからカーペットを作る工程で、裁断くずが出来る。裁断くずは通常300℃位で溶かして固めるが、固まりの中は真っ黒で火災を起こすこともある。裁断したプラスチックを扱うときは圧縮する。圧縮された裁断プラスチックは熱を持っており、外部よりエネルギーを与えると熱を持ち火災の原因となる。

★コメント

有機物は常温でも規模が大きくなると発火するという常識では信じがたい、RDF火災事故や生ゴミ処理機の爆発事故の事例について、技術をしっかり踏まえた上で分かりやすく解説された。我々も環境面で良かれと思って実施したことが爆発事故という大事故に繋がり、新技術へのチャレンジはリスク評価、対策が必要と再認識させられた。 

  (山崎 洋右 記)


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